前号に引き続き中国の流行語をお届けします。流行語となるには、多くの人が潜在心理として感じていたことが、文字として顕在化され共感した時に流行語となります。流行語を読み解くと大衆の深層心理が読み解けます。
  社死「社会的死」(2023年)
 2020年7月7日、杭州市に住む趁呉さん(女24歳)は、届いた宅配を受け取りに出向いたマンション階下の宅配センターで、宅配の少年から荷物を受け取る様子を隣の便利店の店主 藍斌(27歳)に、こっそり動画を撮影されました。店主 藍斌と友人の賀元(24歳)が、「宅配の少年とパトロン女」を表現した文章を捏造し、盗撮した動画とともにグループチャットへ投稿しました。藍斌はグループチャット内で冗談であると言っていましたが、他グループへ転送され瞬く間に広まりました。その結果、ネット上で趁呉さんを「浮気性の女」「少年を誘惑した女」「有閑マダム」など誹謗中傷が殺到し、自分の周りの家主、上司、同僚、友人たちにまで、色々取り沙汰されました。
 趁呉さんはうつ病を患い会社を辞めざるを得ず、暫くは人との接触を断ちました。4ヶ月以上経っても、時々ヒステリーを起こすなど情緒不安定となり、感情のコントロールができません。杭州公安当局は、二人を逮捕し勾留しましたが僅か9日間の拘留で釈放しています。しかし被害者の趁呉さんは仕事を探すのも難しくなり、12万元の賠償を求めています。
 社死とはネット上で個人のプライベートなことや過去、恥ずかしい行動や不名誉な出来事を無理やり公開し、社会的な評判や信用を落とし社会的に抹殺させ、まともな生活が送れなくなる状況を言います。深い羞恥心や他人の前で面目を失うほどの屈辱を感じることから、社会的死とも呼ばれます。日本でもSNS上での誹謗中傷が日本でも社会問題化しています。今回の事案は悪意のあるものですが、中国ではこの種の犯罪の損害賠償の算定が難しく難航しているようです。
  社交牛B症「人付き合いが得意な人」(2021年)
 この流行語を分解すると社交は「ソーシャル」を意味します。牛B牛逼の置き換え文字で「すごい」という意味です。逼⇒Bに置き換えて下品なことばの表現を改めています。は「症状」を意味し、直訳すれば「人との交際が非常にすごい症状」となります。この流行語は、他人の目を気にせず、嘲笑されたりすることを恐れず、見知らぬ人や親しくない人と会話できる人を指します。 こうした人々は外向的で社交的、適切な距離感を心得ており、人に圧迫感や不快感を与えることはなく、EQ(心の知能指数)が高い人たちと言えます。人と接するときに心理的なプレッシャーがなく、自由に行動し、人前で恥ずかしい思いや不快に感じたりすることなく積極的な行動をとることができます。自信があり、他人の目や嘲笑されることを恐れず、簡単にコミュニケーションをとることができる人を指します。
 なぜ流行語となったのか社会的背景を探ってみましょう。社交牛B症が流行する前には、社交恐惧症という言葉が流行っていました。調査によると80%の大学生が、自分はコミュニケーション障害だと自覚しているそうです。でも人とのコミュニケーション力向上には意欲を持っています。Tiktokの社交牛B症の関連動画の再生回数は、20億回を超えていることからも、この種の悩みに関心を持っている中国人が多いのは意外です。多分このような共通した悩み的背景から誕生した流行語でしょう。
  显眼包「煌めく人」(2023年)
 直訳すれば「人目を引くバッグ」の意味です。バッグの外見やセンスだけでなく、他の人とは違う個性や表現の多様性を表すことができれば、注目を引きつけられます。人々に対しても同様で、その人の内面的なバイタリティーを表すことに本当の意義があります。 
 もともと显眼包は「目立ちたがり屋」として、人を貶す意味合いで使われていました。現在は、ほめる意味で使われることが多くなり、貶す意味合いは次第に失われつつあります。ある人を顕眼包と表現した場合、外面的に「目立ちたがり屋」だけでなく、それ以上にその内面から活力が溢れて煌めいていることを表します。