中国語の漢字は一文字で多様な意味を持ち、それが日本の漢字と異なる点です。たとえばも色んな用法を持つ単語です。挨拶の请多关照「よろしくお願いします」、请坐「どうぞお座りください」、请进「お入りください」など敬語としてよく用いられます。春秋戦国時代末期(BC300年)に繁体字のが誕生し、左側のはその意味を表す文字、右側のは発音を表す文字を合わせた漢字です。簡体字ではと書きます。日本に伝来してから「要請,請負,請願」などと和製漢字が生まれました。
の語源を辿る
 左側の言の下にあるの文字は、神に祈る祝詞(のりと)を入れる箱を示し、その上に刃物を置いた象形文字です。神に祈祷する言葉に偽りがあれば、この刃物で刑罰を受けるという意味を持ちます。古代の意味は上位の人や目上の人に謁見し、敬語を使いお願いし、時には許しを請い、懇願のためお招きして接遇するなどです。現代中国語も同じように①求める②敬語③させる(してもらう) ④招聘するなど基本的に変わっていません。
请客の请は「おごる」の使役動詞
 一般には敬語の「どうぞ~ください」の英語pleaseのイメージを持ちます。でも请客がなぜ「おごる」の意味に結び付くのか違和感を覚えます。解明していくとは使役動詞の「させる=してもらう(③)」の働きを持っており、请客を敢えて使役文で書けば、我请你做客「私はあなたを客にさせます(なってもらう)」となり、省略されて请客となっています。他の例を挙げれば今天我请女朋友做晚饭(今日は彼女に晩御飯を作ってもらう)と「~してもらう」のニュアンスで使います。
 他方 请坐请喝茶などの请は使役動詞ではなく、敬語(②)の使い方です。目上の人や普段あまり会わない人に敬語のを使います。自分から所望する時は、请给我一杯茶(お茶を一杯下さい)とやはり敬語のを付けて丁寧に言います。
请假は一つに括られた離合詞
 会社で我今天身体不舒服。明天我想请一天假(今日は体調が悪いので,明日休暇をとりたいです)のように日常よく使います。この文例の请假(休暇をとる/もらう)も違和感を覚えます。このの使い方は、「求める①」の動詞に目的語のを付けた離合詞として南朝時代(AC500年頃)に誕生し、一つに結合した語句となっています。前述の使役文形式の「×我请你请假」に置き換えることはできません。请假は「動詞+名詞」の離合詞、この後に目的語を置けません。他に请假以外には请问,请教,请示,请求があります。この三つの語句は「動詞+動詞」で目的語を置ける普通の動詞です。请假も目的語を置くなら、请求假期请求放假なら文として成立します。他には他向医生请教病因(彼は医者に病因を教えていただく)など動詞の後ろに目的語を置けます。
►結言
 
漢字のを例に挙げて述べたことを纏めれば、中国語にも文法は存在するのですが、英語のように厳格なものでありません。英語は発音通りに記述する表音文字、中国語は漢字の一つひとつが、ある対象を総括する概念を表す表意文字です。中国語の漢字一つひとつが、多様な意味と用法を有します。したがい英語と同じような明瞭な文法体系ではないですが、中国語の文型として成立していればそれでいいのです。中国語の文章を作るには漢字一文字ずつをブロックのように繋げていきますが、基本文型や組合せの熟語(殆どが二文字熟語)を覚えることも大切なことです。

(写真:保定市名酒の広告看板)