中国に滞在時 動詞の[lai2]において、本来の「来る」以外の使い方を度々耳にしました。は向こうからこちらへ「やって来る」の基本的な使い方以外に、「積極的にやる」と言う意思や「人に促す呼びかけ」あるいは「料理の注文」、加えて「方向補語」の用法を持つやっかいな動詞の一つです。
の語源を辿る
 語源を辿ると[lai2]は、たわわに実った麦を表す象形文字を表しています。と麦の文字の関係は、今から3300年前、文字を持たず、まだ口語でコミュニケーションしていた頃、「やって来る」と言う表現を“ライ”と発音していました。その頃「大麦」が中国に伝わり、食料問題が解消、感激して西アジアから大麦が「やって来た!」と大麦を同じ“ライ”(注1)と呼びました。その後、象形文字が発案され、麦が[lai2]を表す象形文字として用いられました。しかし時を経て、を同一文字で用いることは混同して不便であり、後に[mai4]と言う言葉が新たに誕生しました。この「来る」を意味するが、人の積極的意志を表す言葉を表し、以下のような言い方へ拡張していきます。
►積極的にやると言う意思表示
 来(去も同様の使い方)は、話し手が聞き手の場所へやって来ること、聞き手との距離を縮める積極性を表し、積極的な行動の含意を持ちます。の後ろに動詞を付けて積極的に「何かをやる」と言う用い方で表現します。例を挙げると你先洗澡,我来做饭(あなたが先にシャワー浴びて、私がご飯作るから)、我来吃饺子(さあ餃子を食べるぞ)、我来介绍一下(では私が紹介しましょう)、今天我来请客(今日は私がおごります)などがあります。その他の参考例として、你去买东西,我来收拾行李(君は買い物に行ってきて、ボクは荷物を片付けるから)の去も同様に積極性を表す用法として使います(本文では説明省略)
►人に促す呼びかけ
 同一場面で話し手と聞き手が存在、双方が共に認識し即時性の行動には、後続動詞を省略しで「する、やる、作る」として代用できます。例文として、你感冒了,我来洗衣服(あなた風邪引いてるから、私が洗濯するよ)の言い方を、你感冒了,我来,我来(あなた風邪引いてるから、私がやるよ)、你累了,我自己来(君は疲れてるから、自分でやるよ)と後続動詞を省略しても来のみで十分通じます。
 また、を「人を促す呼びかけ」に用いる例としては、来!我们干杯吧(さあ、乾杯しよう)、来来来!吃吧(さあさあ、食べて)などがあります。今でも来来来!を聞けば何かが始まると、当時の緊張感が浮かびます。これらは、来来!「おいでおいで」から派生した用法と推察されます。
►料理を注文する
 飲食店へ入ると服務員が、您来点什么?(何にしますか?)、我来一杯咖啡吧(コーヒーを下さい)、または再来一瓶啤酒(もう1本ビールを下さい)とを使います。また注文した料理が出て来ない時は、我点的菜还没来(頼んだ料理がまだ来ていません)と言えば通じるので、これらの事から、は「注文する」と「来る」の両方の意味合いを持つと考えられます。宴会でホスト役になれば、服務員から、现在点菜吗?(ご注文しますか)と必ず問いかけされます。は「調べる」と言う意味を持ち、会食などで菜单(メニュー)を見ながら料理を選んで注文する場面の言い方です。
 中国語を学習すれば、日本語の意味からは想像できない用例に出会います。今から1600年前、日本で選抜された優秀な留学僧達が、中国から漢字を日本へ持ち帰り、彼らが基本的用法を伝達しました。ただ漢字の派生的な用法については、伝承が難しかった何か理由があり、は「来る」と言う基本の意味だけが定着したと想像できます。私たちは電子辞書で整理配列された記述を丸暗記せざるを得ませんが、漢字の語源を知ることにより、中国語の理解が一層深まると考えます。注1)古代では麦を“ライ麦”と言いましたが、ライ麦と来の“ライ”の同一性はまだ未解明です。(写真:麦は来を表す象形文字の変遷)