日本でレストランに入って料理を注文したい時、「すみませ~ん」と言ってウエイトレスに注文します。中国では料理を注文したい時、日本語の「すみませ~ん」に相当する言い方として、服务员[fu2wu4yuan2]と言います。中国のレストランは大抵賑やかですから、普通に「フーウ・ユェン」と言っても気付いて貰えないでしょう。少し間延びさせて「フーウ・ユェ~~ン」と言うと日本語の「すみませ~~ん」のように声が良く通り、気付いてくれる筈です。食事が終わると日本のレストランでは勘定書きをテーブルの上に置いてくれます。中国の場合は会計カウンターまで歩いて行って支払いする所が多いです。会計カウンターでテーブル毎の料金を把握しています。「お勘定お願いします」は、中国では买单[mai3dan1]と言います。なお中国では割り勘と言う習慣がありませんから、目上、年長者、上司、またはその日誘った人が支払います。仲間同士の食事なら、いつも面子を意識し、払いたい男気のある者同士が会計カウンター前で揉めています。この時、私が払うからと言っても、先方がいやいやこちらで払うからと言われれば、日本人の場合は大抵そこで引き下がります。中国では簡単には引き下がってはいけません。3度も4度も強引に押し戻さなければなりません。時には気付かれないように隠れて先に支払いを済ませる人もいます。割り勘と言う習慣がないから、こうなってしまうのです。
 中国で初めて会社を訪問した時、大抵は一緒に食事でも如何ですかと誘われます。日本のように遠慮して辞退すると私と親しくなりたくないのかと勘繰られますので、遠慮の必要はありません。中国の人間関係において会食は重要な儀式、その為に街はレストランで溢れかえっています。
 中国では知り合いにご馳走になった時に、お呼ばれした側から「幾らでしたか?」と聞いても特に問題ありません。「安かったですね」は褒める言葉になりますが、「高かったですね」は値段の割に不味かったと言うことになりますので注意しましょう。また食事の後、お礼を言いますが翌朝や次に会った時に「この前はご馳走さまでした」と普通は言いません。言えばまたご馳走して下さいの意味になります。お礼は1回言えばそれで良いのです。別れの挨拶も同じです。一回別れの挨拶を言えば、日本人のように何度も振り返って「さよなら」と手を振りません。また、一度 家へ遊びに来て下さいと誘われれば、訪問しても問題ありません。本当に大喜びされます。
 日本語の「すみません」は便利な言葉で、謝罪や感謝そして依頼など色んな場面で用います。中国人は日本人が簡単に「すみません」と言うような用い方はしっくりしません。筆者の滞在中、对不起不好意思を聞くことが滅多にありませんでした。特に对不起は比較的重い言葉、自分の不手際や過ちを認めたことになり、謝罪を言葉だけでない形あるものを求められる時もあって、使い難いのです。レストランで料理を頼む時、「すみませ~ん」となぜ客が謝らないといけないのかすっきりしないのです。文化大革命で古き良き習慣を破壊していく中で、とうとう儒教の教えも否定した時期がありました。この謝りづらい感覚はその後遺症として残っており、今の中国っ子の悩みの一つだと思います。
 日中国交再開の交渉時、ある元総理が「多大のご迷惑を掛けました」と述べた挨拶を通訳者が很大的麻烦と通訳し、言葉が軽すぎると大揉めになったことがありました。中国語の麻烦は「面倒を掛けた」程度の軽い意味になりますので、国家間で共同声明を出すような重要な局面では、謝辞の言葉は国際的に通用する明確な表現が求められます。(写真:「サービスに満足できなければ無料」の案内を掲げた保定市内ファミリーレストラン)