母音が正しく言えるようになれば次は正しい声母の言い方です。声母とは単語の最初に来る子音のことです。前回に引き続きピンインのように聞こえない発音について紹介しましょう。

◆◆◆ケース5 “ta”と”da“▶:有気音と無気音の違い◆◆◆

 有気音“ta”は勢いよく息を吐くと参考書で習います。でも実際には、ローマ字読みして “她们” “她”(ta1)は「ター」“很大” (da4)を「ダ-」と言う人も少なくありません。私が日本語「タ」と発音すると中国語教師は“da”に聞こえると言いました。中国人の日本語学習者に筆記テストを行うと「タ・テ・ト」の発音が「ダ・デ・ド」と書く人が多いようです。中国語では”ta”“da”もどちらも清音で濁音ではありません。声の清濁でなく息の強さで聞き分けているようです。日本語の「タ」「ダ」は息が強く聞こえないので、中国人には無気音の”da”と聞こえます。

 参考書では有気音を発音する時は、口の前に垂らした紙が揺れるぐらいに息を出すと書いてあります。でも息だけ出せと言われても実際の会話では難しいと思います。色んな参考書が出ていますが、実践するにはどれも分かり難く説明不足に感じます。

 中国で教師から教わった有気音を言い易くするための工夫を紹介します。前回のプログで"iu""ui"は、中間に"o""e"が存在する三重母音で発音すると書きました。同じように"ta""po"も三重母音構造だと仮定した場合、便宜上その間に息と見做す"u"を挟んで言い易く工夫します。最初に息を出し、後から遅れて母音を発声する二段階発声です。"po"を発音する時は、「ポ」ではなくpu+o”、始めのpuは声を極めて小さくして息を出し、次に母音を大きく出します。無理矢理にカタカナで書くとしたら(プ)~オー」が近いです。一方、"ta"の場合も「タ」ではなくtu+a”、始めのtuは同様に声を小さくして息を大きく出す二段階発声とし、これも無理矢理にカタカナで書くとしたら(ッ)~アー」が比較的それらしく聞こえます。口の前に垂らした紙が揺れると思います。慣れてくれば、声を出さずに息を強く吐くだけにしていきましょう。同じ要領で (ta1pao3le)「彼は走った」 と(chi1bao3le)「お腹いっぱい」を言ってみましょう。

◆◆◆ケース6 "j・q・t"▶:舌面音と舌根音の違い◆◆◆

 中国語会話の中で"j ・ q・ t"で始まる単語はよく使います。筆者は”几点”(ji1dian3)  七点”(qi1dian3)  ”天气”(tian1qi4) ”今天”(jin1tian1)など良く似た発音を、日本語の「チ」で全部片付けていたので全然通じませんでした。これらの使い分けができれば、中国レベルも相当上がっています。"j・q"は舌先を下の歯の裏に当て、下の後部を口蓋部に押し付けて発音します。"q"の有気音は、舌と口蓋部のすき間から強く息を出します。"t"は舌の先を上の歯の裏から歯茎につけて発音します。"j・q"は有気音ですが、比較的発音はし易いと思います。

◆◆◆ケース7 "f"と"h”▶:唇歯音と舌根音の違い◆◆◆

 中国語教師の発音の"fu""hu"を何度聞いてもその違いが分かりませんでした。最も聞き分けが難しい発音です。ある日、同僚の“何”(he)さんを日本語で「ハー」さんで呼んでいた時、同僚から"h"の発音は喉の奥から出した方が良いよと指摘されて気付きました。

 一方"f"の発音は上の歯を下唇に当てて発音します。口唇音"f"は歯と唇で発音し"h"は喉の奥から、発音すれば良いのです。地名から"h"の発音例を上げると、”河南”(he2nan2)や湖北”(hu2bei3)があります。"f"の発音例では、”福建”(fu2jian4)や”福州”(fu2zhou1)があります。"fu"“福”(fu2)を意味し中国では最も好まれる漢字です。"hu"は喉の奥から発音、"fu"は上の歯と下唇の間に息を通して発音です。日本語の「ふ」"hu""fu"でもない発音で代用できません。

◆◆◆ケース8 "eng・ong" “en”▶:悩ましい鼻音付母音 ◆◆◆

 "eng”"ong"も悩ましい単語です。“灯”(deng1) の"eng”(dong1)の "ong"の使い分けが難しいと思います。“eng”"e"「エ」の口の形で「ァ」「ォ」の曖昧な発音、"ng“は口を開いたままで鼻に抜ける鼻音です。他方"en”"n”は舌を口の天井に付けて鼻音を出さないようにします。漢字を日本語の音読みで「ん」であればピンインも"n“で終わります。例えば"天"てん」“tian1”です。さて良く使う単語からイメージすると、中国語で頻出する単語“中国”(zhong1guo2)の“ong”真的(zhen1de)の“en”が既に身に付いていると思います。“eng”“身份(shen1fen4zheng4)の”eng“です。両方組み合わさる“疼痛”(teng2tong4)の発音の使い分けはなかなか難しいです。(写真:歴代皇帝御筆の”福”)