保定滞在中、急に咳が止まらなくなり、河北大学付属病院へ診察を受けにに行ったことがあります。非常に立派な病院で、廊下には古代の名医の紹介パネルが展示されて興味深く見ていました。

その中で日本では馴染みがありませんが、歴史上最も古い医者“扁鵲”(bian3que4)が紹介されていました。扁鵲は漢時代をさらに遡る春秋戦国時代(BC770~221年)の名医です。山東省出身で彼が考案し誰でも知っている診察法が今でも残っています。それは「脈診法」です。脈診法とは、人差し指・中指・薬指を患者の脈拍に触れ、病気の性質を判断することです。私たちは脈診で何が分かるのだろうと思いますが、今のようにX線、CTやMRTなど医療機器のない時代では重要な診察法でした。中医では、脈のパターンは28種類あり、脈で判断するポイントは三つと記されています。「脈の速さ」「脈の強さ」「脈の深さ」です。例えば風邪の引き始めの脈は浅く、指で押した時に脈が浅い表面で感じられるものです。一般に朝夕の脈はゆっくり落ち着いていますが、ストレスを抱えている場合はせわしなくなり、脈が不規則に打っていた場合、脳梗塞の前兆を示すようです。

 中医の原型はBC1000~700年に成立、BC200年の漢時代には人体の構造や病気の仕組み、鍼灸治療や健康法をまとめた黄帝内(huan2di4nei4jing4)が編纂されています。“黄帝”の名前が付くのは、皇帝と医者との問答形式で書かれたためです。これが中国最古の医学書で、現代においても中医の医師・漢方薬剤師・鍼灸師にとっては重要な古典医学書です。因みに薬局で売られている栄養ドリンク「黄帝液」の名は、ここから引用されているようです。

 中医の中で一般的な治療となっているのは灸”(zhen1jiu3)です。人体の特定のツボを押すと内蔵が良くなることを見付け「針」で刺激することを見出しました。また人々が焚火にあたって暖をとっていた時、患部を温めると症状が改善したことから「灸」が編み出されました。

 中医では身体を構成する三要素は「気・血・水」で成り立っていると考えます。気とは自立神経・内分泌系・臓器などをつかさどるエネルギーです。気・血・水の集中しているところがツボとなり、鍼灸はそれらの澱みを解消するものらしいです。よく「病は気から」と言う言葉を耳にしますが、免疫力は朗らかな生き生きとした気持ちで高くなり、心配事や不安、ストレスを感じると低下することが医学的に証明されています。

 話しは一転日本に移りますが、この頃は弥生時代、100以上の小国に分かれて「我こそが大将なり」とドンパチ戦いに明け暮れ竪穴式住居に住んでいた頃、中国では薬物治療・鍼灸治療が実用化されており、非常に文明が進んだ先進国でした。中医が日本に伝わってきたのは、遣唐使以前の古墳時代(AC400年頃)、漢字を使い始めたのと同時期です。朝鮮半島を経由してやって来た渡来人は、文字・暦学・医学・儒教・仏教・政治制度等の文化や技術を伝え日本の発展に大きく寄与しました。(写真:河北大学付属病院と脈診法)

 

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