ピアノの前に座ると、誰かの痕跡を認めた。
「ふふっ、可愛いやつ」
楽譜にいたずら書きがしてある。
舌を大きく出した顔。
あっかんべーと言っている声が聞こえるようだ。
「さてと・・・やるか」
書きかけの曲を完成させるため、鍵盤に指を乗せた。
しばらく目を閉じてから、ふうっと溜息を吐いた。
楽譜を手に取り、新しいページを開く。
ペンを持つと、止まっていた感情が溢れだすように、言葉が溢れだす。
いたずらっ子の彼を思い描き、切ない言葉の羅列が仕上がった。
太陽と称される彼を当てはめるには、遠い言葉達。
「分かってくれる・・・かな」
胸を締め付ける想いに、溢れそうになる涙をぐっとこらえた。