「ああ、楽しかった」
ハヤトは洗い立ての髪をタオルで拭きながら呟くと、バスルームを出た。
ライブも終わり、打ち上げも終わってホテルに戻って来たのは深夜になっていた。
同室のルイに先にシャワーを譲り、バスタブに熱めのお湯を張って手足を伸ばした。
ライブ後の高揚感と体を満たす湯の熱さに思わず深い吐息が漏れる。
「ふふっ、ルイのやつ・・・」
今日のライブは本当に春日和だった。
普段はハヤトの方からのアプローチがほとんどなのに、今日はやたらとルイの方から絡んできた。
手を繋いだ回数も一回や二回じゃない。
しかもそれがすべてルイの方からとくれば、ハヤトの口角が緩むのも無理はない。
会場にも春ファンしかいないのではないかと思うほどの盛り上がりようだった。
毎回こんなライブだったらどんなにいいだろう。
ハヤトはルイの手の感触を思い出して、にやりと笑った。
「今日くらい幸せに浸ってもいいよな」
ひとりごちると、勢い良く湯船から飛び出した。
バスルームを出て一直線に冷蔵庫に向かい、ミネラルウォーターを煽ってルイを見ると、ベッドでスマホを握ったまま寝落ちしていた。
寝顔が子供みたいだ。
「ルイ、風邪引くぞ」
言いながら近付いて、ベッドの脇にひざまづき、ルイの顔を覗きこむ。
すっきりと通った鼻梁、ふっくらとした唇、ほんのりと薄桃色に色付いた頬。
どれをとっても可愛い。
今まで何度触れたいと思ったことだろう。
「おい、そんなに無防備に寝てたら襲っちゃうぞ」
言いながら布団を掛けると、鈍く痛みだした下半身を無視してベッドサイドの灯りを消した。
続く