誰か。
ではなく、何故君なんだろう。
何故、君でなくてはならないんだろう。
「ちょっと、聞いてる?」
レッスン中だと言うのに、ぼうっと君に見惚れてしまっていた。
「あっ、ごめん」
「いいけど・・・疲れた?大丈夫?」
心配そうに俺を覗き込む君。
君のダンスが好きで、君に少しでも近づきたくて頼んだダンスレッスン。
身近で見る君のダンスは、息を飲むほどに美しい。
だから、見惚れるのは仕方ない。
胸の奥に芽生えたチリチリとした想いをそうやって誤魔化す。
本当はとっくに気付いているくせに。
これは憧れと片付けられる感情ではない。
そんな気持ちを悟られないように、苦笑いすると、君の表情が曇った。
「ずっと練習だけだもんな。今日はここまでにしようか」
「いや、もう少し」
「無理は禁物。これから長いんだからさ。なっ、相棒」
ポンっと肩を叩かれ、君が微笑む。
笑顔には力があると思う。
特に君の笑顔は破壊的だ。
抑え込んでいた感情が爆発して、柄にもなく俺の顔は真っ赤に染まった。
「あれ?熱でもあるんじゃないか」
俺より小さな体で背伸びした君が、俺の後頭部に手を掛けぐっと引き寄せると、自分のおでこをこつんと当てた。
突然の君の大接近に、俺の体はかちこちに固まる。
こんなことくらいでらしくないが、緊張にごくんと唾を飲んだ。
「大丈夫みたいだけど、今日はゆっくりした方がいいな。スカイは頑張り屋だから、ついオーバーワークさせてしまう。ごめんな」
両手を合わせてごめんの形を作る君。
「いや、蓮くんは悪くない」
そう、悪いのは俺。
君にこんな感情を抱いてしまう俺。
「ふふっ、スカイ、今、自分が悪いって思っただろう」
「えっ?」
「スカイはいつも人のことを責めないんだよな。そういうところ、好きなんだけどさ。僕には甘えてよ。僕、一応兄さんなんだからさ」
「ありがとう。俺も蓮くんのそういう優しい所好き」
蓮くんはにっこり笑って、俺の頭をよしよしと撫でた。
ねえ、知ってる。
俺は蓮くんのそういうところだけじゃなく、すべてが好きだってこと。
だから、これからもずっと君の足跡の隣に俺の足跡をつけさせて。
いつか振り返った時、その足跡が重なって、その先の二人の歩む道が輝きますように。
そう願って、俺も蓮くんに負けない笑顔で微笑んだ。
