埋め尽くされて行く。
見慣れた街が白く塗りつぶされ、まばゆい光が降り注ぐ。
こんな光景を見たことがある。
いつだっただろう。
君と一緒の時だった。
雲間を割り、降り注ぐ光の美しさに見惚れていると、君は言った。
「Angel's Ladder」
「えっ?」
「天使の梯子って言うんだ」
「天使の・・・梯子?」
「そう、旧約聖書創世記28章12節に、ヤコブが夢の中で、雲の切れ間から差す光のような梯子が天から地上に伸び、そこを天使が上り下りしている光景を見たという記述があることからそう呼ぶんだよ」
そう教えてくれた。
ただの曇り空が、特別な意味のあるものに変わった瞬間だった。
オーロラほど会うのが難しくなく、田舎だから見れると言うものでもない。
都会でも林立するビルの谷間に現れることもある。
偶然にもその光景に巡り合えた人は、その美しさに僕と同じように見惚れることだろう。
「何だか幸せが降りてくるみたいだね」
そう言った僕を君は優しく引き寄せ囁いた。
「俺の元には君と言う天使が降りて来てくれた」
「飛べない天使でもいいの?」
「飛べるけど、飛ばないでいてくれるんだろう。俺を置いて行かないように」
翼の名残と言われる背中の部分を撫でながら、彼はいつまでも僕を抱き締めた。
まるでその手を離すと僕がどこかに行くと言わんばかりに、強く強く抱き締めた。
あの日、でも僕は翼を手に入れた。
自由と言う翼を、君から与えられた。
だから飛ぶよ。
君の元へ。
雲間が割れて光が差したら、両手を広げて僕を受け止めて。
天使の梯子を君へと架けてみせるから。
