ビクッと震えるユチョンの手をなだめるように、ゆっくりと指を交差させる。
ピアノを奏でるために存在するかのような、長くすらりと伸びた指。
この指が奏でる音に、何度心を掻き乱されただろう。
ユチョンの歌声もそうだが、ピアノの音も深く心に入り込む。
多くの哀しみを体験したものの音。
どこまでも深く優しい音色を奏でる指先が、躊躇いつつも僕の手を包みこんだ。
「ユチョン」
「ん?」
「ごめんね」
「えっ?」
「僕、我儘ばかり言って」
「いいんだ。ジュンスが俺に我儘言ってくれるのは、特別って感じがするから」
「うん。特別だよ」
「えっ?」
「ユチョンは僕の特別なんだ」
どういう意図でそう言っているのか図りかねたように、ユチョンが黙り込む。
ここで真意を告げてしまったら、僕の日常は消える。
穏やかで安定したのどかな日々。
そこは失うもののない世界。
もしこの気持ちを告げたら、消える世界。
でも、新しい世界の幕が開くだろう。
僕はごくんと唾を飲み込むと、強くユチョンの手を握った。
「僕の好きな人だから」
カーテンの隙間から一筋の光が差した。
柔らかい月の光が部屋の隅に溜まった闇を払い、新しい世界への扉を開いた。
続く・・・