毎日通る道に桜の古木がある。
見上げる空に枝を伸ばし、茶色に染まった葉が生を全うするように風に揺らいでいる。
よく見ると細く張り巡らされた枝の先に、いくつも芽があった。
冬支度。
そのうち、あの風に揺れる一葉も、僅かに残った葉もすべてそこを離れ旅立つだろう。
寒い冬を乗り切り、次の年に希望を繋ぐために。
ならばそれは春支度と呼べないだろうか。
体の奥底に力を蓄え、来るべき時を待って花をつける。
ふと名前を呼ばれた気がして通り過ぎた道を振り返った。
桜の木が風に大きく揺らいでいる。
それが今の僕への応援に見えて、軽く手を上げ、昨日よりも尚冷たさを増した風に向かって歩きだした。
コートの襟をしっかり立て、心の温もりを逃さぬように微笑みながら。