中国の習近平国家主席は5月下旬から6月上旬にかけて、半月も公の場に姿を見せなかった。その後、訪中した外国首脳と会談して「健在」が確認されたものの、その外交活動も極めて変則的な形で行われ、不可解な印象を与えた。
■重要会議開いたが、公表せず?
習主席は5月19~20日に河南省を視察した後、雲隠れ状態となった。国内の公式行事にメッセージを送ったり、外国首脳と電話で会談したりはしていたが、会談や会議出席は全くなし。習主席は毎月下旬、共産党総書記として、党指導部である中央政治局の定例会議を主宰するが、5月は同会議開催の発表がなかった。このため、習主席に何か異変があったのではないかとのうわさが流れた。
5月末から6月初めにかけて、党中央の承認を要する中国政府の香港出先機関トップなどの閣僚級人事が発表された。また、6月10日には、汚職容疑で調べられていた元上海市高官について、党中央規律検査委員会が「政治局会議の審議を経て、党籍剥奪処分を決定した」と発表しており、5月下旬に政治局会議が開かれた可能性はある。もし開かれたとすると、会議での議論が公表できないような内容だったということだろう。
6月4日になって、習主席とルカシェンコ・ベラルーシ大統領の会談が国営中央テレビなどで報じられ、習主席の姿が半月ぶりに映像で確認された。習主席がこれほど長く表に出てこないのは非常に珍しい。
■謎が多いベラルーシ大統領訪中
プーチン・ロシア大統領の盟友であるルカシェンコ大統領の訪中は15回目。中国との関係がいかに緊密かが分かる。だが、今回の訪中は(1)訪問の事前発表がなかった。(2)大統領の北京到着を含め、訪問初日と2日目(2日と3日)の中国側報道が全くなかった。(3)党総書記でもある習主席を党中央弁公室主任として支える側近の蔡奇氏が首脳会談に同席しなかった。(4)大統領は習主席以外の指導者に会わなかった─と極めて異例の段取りだった。
首脳会談は人民大会堂や釣魚台国賓館ではなく、主要指導者の公邸やオフィスがある中南海で行われた。中南海は天安門や故宮の西側にある中海と南海という湖周辺の一般人立ち入り禁止エリアで、敷地の北側を国務院(内閣)、南側(南海付近)を党中央が使用。これまで南海の小島にある重要施設に米国やロシアの大統領などが個別に招かれたことがある。この小島は、清朝末期に光緒帝が西太后によって軟禁された場所として有名だ。
しかし、ベラルーシ側の公式報道によると、ルカシェンコ大統領が招かれたのはそこではなく、南海北方の別の施設。外国首脳の接待用とは思えない質素な部屋で、習主席は、そこが「自宅」だと紹介した。
また、大統領訪中に同行したスノプコフ第1副首相は「これは実務訪問でも公式訪問でもない。家庭的で友好的な夕食会のための訪問である」と述べた。夕食会には中国側から彭麗媛夫人だけでなく、外国要人との会食では初めて習夫妻の娘も同席したという。中国側は、夕食会を開いたこと自体を公表していない。
以上の経緯から、ルカシェンコ大統領が急きょ訪中し、中国側はこれを一応受け入れたものの、なるべく公式の色合いを薄めて対応したことが推定できる。まるで引退後の指導者のようだ。
習主席が外国要人に会ったのだから、普通はこれで習主席の異変説が収まるところだが、ルカシェンコ大統領の訪問が変則的で、習主席に何か探りを入れるかのような行動だったことから、「友好国も習主席が政治的に大丈夫かどうか心配している」という印象を与える結果となった。
習主席は、翌5日には2期目のトランプ米大統領と初の電話会談を行った。中国外務省の説明によると、米側の求めに応じたという。トランプ大統領は会談後、首脳相互訪問で合意したことを明らかにしたが、同省は「習主席がトランプ大統領の訪中を歓迎すると伝え、大統領は謝意を示した」と発表しただけで、習主席の訪米受諾には触れなかった。
■タカ派高官、また更迭
前述のように、中国政府の香港出先機関である連絡弁公室(中連弁)主任の交代が5月30日、発表された。突然の異動で、関係者を驚かせた。退任したのは習主席好みのタカ派官僚だった。
香港中連弁の前主任だった鄭雁雄氏(61)は広東省勤務時代、香港・外国メディアが信用できるのなら「ブタも木に登る」と公言し、その排外的政治姿勢で有名になった。習近平派の李希氏(現党中央規律検査委員会書記・政治局常務委員)が広東省トップ(省党委書記)だった頃、同省指導部の一員に抜てきされた。
2020年に香港国家安全維持法(国安法)が制定されると、民主派の徹底的弾圧を使命とする香港国家安全維持公署の初代署長に起用され、23年には閣僚級の中連弁主任に昇進した。
今年4月に更迭された商務省の国際貿易交渉代表(閣僚級)と同様、もともとは習派ではないが、習主席の強硬路線に合う人材として出世した幹部である。
香港の消息筋は「主任交代発表の直前も、鄭氏はにぎやかな様子で、本人は交代を知らなかったようだ」と語った。
6月4日の香港紙・星島日報によると、鄭氏の転出先は全国人民代表大会(全人代=国会)のある委員会の副主任(副委員長に相当)。事実とすれば、閣僚級定年(65歳)前に党・政府の第一線ポストから退く異例の人事で、完全に左遷である。習路線を体現する高官がまた一人、事実上消えることになる。
前出の消息筋によれば、香港では、鄭氏ではなく、その上司である国務院香港マカオ事務弁公室の夏宝竜主任が退任するとの説が流れていたという。夏主任は習主席最側近の一人。習派の浙江省人脈の中で唯一の同省トップ経験者で、72歳の高齢ながら特別扱いで今も現役だ。このような大物が引退を強いられた場合、失脚・左遷が相次ぐ習派にとって、新たな大打撃となる。(2025年6月11日)