中国と北朝鮮の関係に悪化の兆候が出ている。外交路線を巡る食い違いから、金正恩政権が中国よりロシアを頼る姿勢を鮮明にしたことが、習近平政権との摩擦を拡大させている可能性がある。

 

■双方の行事格下げ

 

 平壌の中国大使館は7月11日、軍事同盟の取り決めを含む中朝友好協力相互援助条約の調印63周年を記念するレセプションを開催したが、北朝鮮側から国家レベルの指導者は誰も出席しなかった。

 同大使館の発表によると、北朝鮮側の主な参加者は最高人民会議(国会)の朝中友好議員団委員長を務める金日成総合大学の総長だった。昨年は最高人民会議常任委員会の姜潤石副委員長。同副委員長は国会首脳の一人なので、今年は明らかに格が落ちた。

 また、大使館の発表では、昨年は姜副委員長のほか、労働党国際部副部長、外務次官、朝中友好協会会長(対外文化連絡委副委員長)、国防省対外事業局長らも出席したが、今年の発表文で紹介されたのは前出の総長だけだった。党・政府対外部門の幹部は全く参加しなかったとみられる。

 北京の北朝鮮大使館で同じ日に開かれたレセプションも同様。昨年は国会副議長に当たる全国人民代表大会(全人代)常務委の彭清華副委員長が出たが、今年は人民政治協商会議(政協)外事委の何平主任になった。議会ではなく諮問機関の政協は全人代より格が低い上、全人代副委員長は閣僚より格上の「国家指導者」、政協の委員会主任は閣僚級。中国の閣僚級は事務レベルのトップぐらいの地位にすぎない。

 中国の主要公式メディアが報道する自国政治家は原則として、党中央・国家レベルの「党・国家指導者」だけだ。従って、彭副委員長の中朝条約レセプション出席は国営通信社の新華社が報じて、その記事を党機関紙の人民日報が掲載したが、何主任のレセプション出席は報道されなかった。

 

■各分野で疎遠に

 

 今年は中朝国交樹立から75年に当たることから、習政権ナンバー3で全人代常務委員長(国会議長)の趙楽際氏が4月11~13日に北朝鮮を公式訪問し、金正恩党総書記らと会談した。しかし、中国大使館公式サイトの「中朝往来」欄を見ると、趙委員長訪朝後の行事記載は北京の中朝条約レセプションだけ。この欄は次官レベルや地方レベルの交流も載せているが、3カ月間も往来が全くなかったことになる。

 韓国メディアなどでは、趙委員長訪朝で北朝鮮側は経済援助などの「お土産」を望んだが、実際には期待外れで、不満を抱いたとの説もある。

 また、7月2日の韓国・聯合ニュースなどによれば、北朝鮮は最近、国営テレビの海外送信のために使う通信衛星を中国からロシアに切り替えた。ロシアの衛星を経由する放送は画質や音声が悪いそうなので、衛星の変更は政治的理由によるとみられる。

 中国のSNSで北朝鮮が行ってきた一般向け宣伝活動にも影響が生じている。微博(ウェイボー)のアカウント「今日朝鮮」はいつの間にか消滅。別のアカウント「私があなたをコリアへ連れていく」は残っているものの、データがすべて消えた。北朝鮮側が撤収したか、中国当局が規制した可能性がある。

 

■崩れた中ロ朝のバランス

 

 北朝鮮外務省報道官は5月27日の談話で、日中韓首脳会談の共同宣言が「朝鮮半島の平和と安定」「非核化」に言及したことを「乱暴な内政干渉」「主権侵害」と非難した。中国に対する個別の批判は避けたものの、談話が中国も対象としているのは間違いない。中国が北朝鮮やロシアと一定の距離を置きながら、北朝鮮が「主敵」と見なす韓国を含む米国陣営とハイレベルの交流を続けていることに対し、北朝鮮は不信感を強めたようだ。

 一方、中国は米国の「覇権主義」にはあくまで反対で、そのためにロ朝と連携する方針は不変だが、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射などによる対外挑発路線を全面的に支持して、米国に対中包囲網強化の口実を与えることも避けたい。

 このように中朝の利害が食い違う中で、北朝鮮は6月19日、来訪したロシアのプーチン大統領と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、軍事同盟を復活させた。中朝条約の軍事介入条項は死文化したと言われるようになって久しいので、ロ朝の新条約により、中ロ朝3国間の関係は中国に不利な形でバランスが崩れ、これが中国をさらにいら立たせていると思われる。(2024年7月15日)