少し前に「サッドヒルを掘り返せ」という映画を見てきました。

以下、その映画のネタバレ的な内容がありますのでご注意下さい。

The Good, the Bad and the Ugly」(邦題は続・夕陽のガンマン)という60年代の傑作西部劇があるのですが、その映画のロケ地、何十年も経ってすっかり雑草に覆われた場所を当時の姿にしようとするファンの姿を追ったドキュメンタリーです。

私も元の西部劇映画のファンで、そのロマン溢れる内容に、

「なにこれ!ぜったいおもしろいに決まってるやん!!」

と期待度100パーセントで見に行ったのですが、もうその期待を軽く超えてめちゃくちゃいい映画でした。

ラストは感涙どころかほとんど嗚咽(笑

大げさでもなんでもなく、人生とか人間についてとかそこまで感じられるような映画でした。

全編面白くてしょうがなかったんですが、なかでも忘れられないシーンがひとつ。

なぜファンたちはロケ地を復元しようとするのか、について、まず評論家や著名な監督などがいかにもインテリチックに分析します。

見てる方は

「うーん、まあそういうことなんかな? ようわからんけど」

みたいな感じで拝聴しているわけですが、最後にファンの一言。

「なんでそんな事するかって?だってイーストウッドの踏んだ場所を自分も踏みたいやん!」

そうやんなーー!

それまでの偉い人たちの言葉をスコーン!とひっくり返すこの発言に映画館で笑ってしまいました。

で、このシーンでこの本の事を思い出したんです。


前置き長くてすいません。

この本は映画評論家の川本三郎さんのエッセイです。

川本さんならではの選択眼で、アカデミー候補の映画からミニシアター系まで、いろんな作品のエピソード、トリビアがたくさんの楽しすぎる本です。

あとがきにはとある映画ファンのエピソードが書かれています。

「男はつらいよ」について、

「あんな映画つまらない」

と切って捨てる川本さんに対して、その映画ファンは

「あの映画には宇宙大怪獣ギララが出てきたんです。それだけで感激しました。僕には忘れられない映画になるでしょう」

と言います。

こどもの頃好きだったギララが「男はつらいよ」に出てきて嬉しかった、という話を聞いて川本さんは

「一本の映画をこういう小さなディテイルで感動する「ファン」に「評論家」はとてもかなわない」

「評論家がいくら冷徹に一本の映画を分析し、批判しようが、ギララへの愛情にはかなわない」

と書いています。

そんなふうにひとりの映画ファンの愛に打たれて自戒する川本さんの本こそ、いつも映画愛にあふれています。

タイトルの、クリスの眼、というのは俳優のクリストファー・ウォーケンのことです。

20年以上前、本屋でこの本を見かけた私は、

「クリスてもしかしてウォーケンのこと? いやまさか。でも、もしそうやったら嬉しすぎるやん」

と、ドキドキしながら手にとってみたら‥‥ビンゴ!

しかもウォーケンのインタビューまでのっていて、あまりの嬉しさにダッシュでレジに向かったのを覚えています。

そして、イーストウッドの拍車、の方は、もちろんあのクリント・イーストウッド。

この本にはイーストウッド監督・主演の「許されざる者」の評が収録されています。

ダーティヒーローとしてのイーストウッドの描写はいつ読んでも胸が熱くなります。

そして締めの文章。

「決闘のシーンでイーストウッドの拍車が鳴った。西部劇で凛とした拍車の音を聞いたのはいつ以来だろう。ジーン・ハックマンが追っ手を組織しようとする " 徒党を組む男 " なのに対し、イーストウッドはあくまでもひとりだ。その誇り高い孤高のヒーローを象徴するように拍車が鳴った。あの音は忘れられない。」