2009年 集英社から刊行。

 

京都祇園祭の前夜祭である「宵山」のパラレルワールドに織りなす群像劇。伏線がよく拾われていて、綾に描き込まれた世界がマーベラス。最初の話のトーンが少し暗めだったので、また辛気くさい短編集かと思ったが見事に裏切られた。

 

連想されるのは高橋留美子のうる星やつら、はじまりはコミカルな学園ノリから違和感がジワリと増幅し、螺旋に描かれる2回目の情景は違った意味を持たされてますます深みを増す。この本もアニメ化にぴったりだと思う。

 

小品ごとにまた軽くあらすじをまとめておく。「宵山姉妹」は簡単なイントロダクション。宵山とモチーフとなる金魚と神隠しが妹の視点から描かれる。「宵山金魚」はモリミーらしい、大掛かりな法螺話で人を担ぐ話。「宵山劇場」はそのセッティングのメイキング。これも、妄想迸る先輩と振り回される後輩の学園もの。「宵山回廊」では、別の姉妹(正確に言うと従姉妹同士)でモチーフが重ね合わされ、「宵山迷宮」で「劇場」の本来の目的と神隠しの関係性が明らかにされていく。最後の「宵山万華鏡」は全体を包含したフィナーレとなる大合奏、イントロの「宵山姉妹」のプロットを姉の視点から描いて「宵山」が終わる。

 

大きなストーリーと小ネタがバランスよく、計算され尽くした意欲作であった。ナイスリー。

 

p68 「クラスから孤立するわけでもなく、かといって人気者であるわけでもなく、つねに横道に身をひそめ、あれこれ工夫を凝らして妙ないたずらに耽っている。自分という存在を吹聴する必要も感じていない。好きにやれればそれでいい。『つくづく自分に満足している』という感じがした。」