【小説】スターゲートの向こうへ・1 | 沈黙こそロゴスなり

沈黙こそロゴスなり

The Message from the stars that illuminate your life.

カルデアの首都ウルの中心にそびえ立つジグラットは、とても不思議な神殿だった。

神殿は大きく、その頂きには時々燐光に輝く雲がかかっていた。
そしてそんな時は誰も神殿に立ち入ることは許されなかった。
神殿内で話されていた言葉は当時の地球上で話されていたどの言語とも違っていて、人々はそれを神官語と呼んでいた。

神殿の入口には、巨大な蛇の象が立っており、神殿内には蛇の化身である神が住んでいると考えられていた。
実際神殿では人々の病の治療が行われており、治療で訪れた人々は、神殿内で蛇のような、光沢のある薄緑色をした肌をもち、目が大きく細面をしている人々を見かけた。
人々は彼らを恐れと畏敬の念をもってヒビル(分かたれた者の意)と呼んだ。
彼らはあまりにも人々とは様相が違うのに加え、卓越した頭脳と技術を持ち合わせていた。

ウルがこの地方で最大の都市に発展したのは彼らがもたらした知恵によるものであることを人々はよく知っていた。
それまで遊牧民だったのが、ヒビルが来たことで人々の生活は一変したからだ。
ヒビルは農業、漁業、建築などありとあらゆる技術を人々にもたらした。
人々は定住し、生産し、都市はますます発展した。

しかしヒビルはなんの見返もなく、それらの技術を人々に与えていたわけではない。
彼らには目的があった。
それは彼らが持っていた遺伝子工学の技術によって、新しい人類、つまり地球に定住できる彼らの子孫を残すこと、人類とヒビルの合いの子を作り出すこと。
もうひとつは長年の懸案であったスターゲートの完成であった。

遺伝子工学の成果は「ネフィリム」と呼ばれた新人類を生み出したことだ。ネフィリムたちは非常に優秀で身体的にも頭脳的にもそれまでの人類を遥かに上回っていた。
彼らは人々から勇士と呼ばれていた。
しかし彼らには遺伝的な問題があった。それは寿命が短いということだった。
当時の人類の寿命は、平均で800歳から900歳。人によっては1000年近く生きられた。
ヒビルに至ってはその何倍かの寿命を持っていたという。
しかし、彼らの遺伝子を融合して作られたネフィリムの寿命はわずか250歳程だったのだ。
結局ウルでの研究では、ネフィリムの寿命を延ばすことは出来なかった。
結果、この寿命の長さは現代の私たち人類にもそのまま受け継がれることとなる。

しかしこの後、ウルの時代から数えて1万数千年先の未来において、ヒビルの遺伝子技術をグレイが完成させ、エササニという新たな種族を生み出すことに繋がるとは想像だに出来なかったことだろう。


さて、サラはネフィリムだった。少し灰色がかった肌の色と銀色の髪、緑色をした瞳が印象的な彼女は、とても美しく聡明な女性だった。
彼女は他のネフィリム達よりも抜きん出て頭がよかった為、ジグラットの研究施設でヒビル達と働いていた。
彼女はスターゲートの開発チームの主幹研究員だったのだ。
彼女の研究チームにはヒビルの他に、数人のネフィリムと地球人たちもいた。
地球人の名は、ラハブとザヒ。二人とも優秀な男性でチームをまとめる役割をはたしていた。
そもそも、ヒビルは感情がほとんどない種族なので、ネフィリムにとっても感情表現は苦手であった。
そこで人間である。彼らは感情がゆたかで、ポジティブだったため、チームをまとめ、モチベーションを上げるのが得意であった。
そんなこんなで、サラとラハブが恋に落ちるのも時間の問題だった。
しかしそれを面白くないと思っていたものがいた。ザヒである。

ザヒもまたサラに好意を寄せていたのだが、サラとラハブが愛し合っているのを知り、ショックとジェラシーは怨みへと変わっていったのだ。

ザヒはその後、スターゲートのある秘密を知るようになる。
ザヒは思った。
これを利用すれば二人を引きはがすことが出来るかも知れない。


つづく