1月にリリースされていて,諸般の事情でバタバタしており,ブログに起こしていなかったのですが,久し振りにピンク・フロイドの1970年一次欧州ツアーの音源です.

 1970年1月10日英国ノッティンガムのノッティンガム大学公演を皮切りに,3月21日デンマークはコペンハーゲンのチボリコンサートホール公演まで,英国/欧州/北欧ツアーを行い,3月30日フランスはパリ郊外セーヌ=サン=ドニのル・ブルジェ空港での音楽祭出演後,4月9日ニューヨークのフィルモア・イースト公演を皮切りに北米ツアーを開始します.

 今回,Sigmaレーベルよりリリースされた 『 Nurenberg 1970 (Sigma 173) 』は,上述のツアー終盤に当たる1970年3月14日ドイツはニュルンベルグのマイスタージンガー・ハレ公演を収録したものです.

 既発では,2012年2月に The Godfatherecordsレーベルから 10枚組 『 The Massed Gadgets Of Hercules 1970 - 1974 (Several Species Of Some Unique Performances Gathered Together In A Box And Making A Joy) (G.R. BOX 09) 』 の Disc 1,2 に収録,また Recorder 2 はレーベルが不明ですが,昨年 『 Master Of The Mystic Arts Heiner B. Edition (No Label) 』 のタイトルでリリースされていますが,今回 Sigmaレーベルが施したような補填やトリートメント等は殆ど行っておらず,今回のリリースが,この公演日の決定盤になるでしょう.

 Recorder 1 (Disc 1&2) に関しては,音像は近く,クリアで音質は良いものの,マスター・テープのヨレ等に起因するであろう音揺れ,音圧低下等があり,"Careful With That Axe, Eugene" 程度からは安定し出すものの,オープニングの "Astronomy Domine" は,かなり厳しい状況です.またマイクを触るようなノイズも所々に入ります.

 Recorder 2 (Disc 2&3) に関しては,Recorder 1 に比べて,音像的に若干遠く,一部籠った感もありますが,全体的に安定しています.こちらも Recorder 1 同様にマイクを触るようなノイズ音がありますが,Recorder 1 ほどではありません.

 両音源とも録音された年代を考えれば,非常に高音質です.

 それにしても "Cymbaline" 中間部の足音やドアの開閉音の SE(;Sound Effects)は,臨場感がありますし,半年後の1970年10月にリリースされる 『 Atom Heart Mother (原子心母) 』 収録のタイトル・チューン "Atom Heart Mother" は 4人での演奏で,デイブ・ギルモアのギターもかなりダイナミックに演奏されています.

 メーカー情報では
 『Sigmaレーベルからフロイド最新作が登場です!!
 2017年最初のタイトルとして当レーベルがスポットを当てたのは1970年3月14日の旧西ドイツ・ニュルンベルク公演。以前から音像個性が異なる2つの同日録音によってその名演が残されている音源ですが、これが世界初ディスク化を含んだ最強の4枚組で登場致します!!

 ...とは言いながら、「フロイド・70年・ニュルンベルク」というワードを出されてその演奏やサウンド、または代表的なタイトルがいまひとつ思い浮かばない方も多いのではないでしょうか。通常、70年ニュルンベルク音源と言えば Recorder 1 が定番で、既発タイトルとしては海外 Godfatherレーベルのボックスセット『THE MASSED GADGET OF HERCULES 1970-1974 (GR BOX 09 A/B)』のディスク1・2等が一応は存在しています。ただ熱心なファンの方であれば御存知の通り、このソースにはテープ劣化による音ヨレ(※もしくは、録音中に走行中のテープが噛んだ様な物理的な音像の歪み)がショウ冒頭に顕著で、しかもほぼ全ての曲間でカットが入るというネガティヴな要素も含んでおり、これが理由でファンの記憶に残り辛い・決定打となり辛い側面を持っていた様に思えます。でもだからと言って簡単に一蹴出来る様なソースでは無いのがこの Recorder 1 の凄いところ。何故ならこの録音は基本的に演奏音が大変近く肉厚で、そこに高い透明感も併せ持つという優れたサウンド・ポテンシャルを備えていた為です。だからこそ海外では前述の様なタイトルにもなったと思うのですが、ただそのケースでもこの公演を単体売りではなく、ボックスセットの中の1公演として含めていた点に Recorder 1 の品質の微妙さが伺える訳です。

 しかし後年出てきた Recorder 2 は違いました。これは Recorder 1 の様なテープの音ヨレが無く、曲間にもカットが一切入らず、音像も綺麗で安定したソースだったのです。しかし難点が無かった訳ではなく、例えば「Interstellar Overdrive」の途中で部分的に音が失われていたり(※恐らくテープの残量切れ・テープチェンジによるもの)、端整で綺麗な音像ではあるものの、サウンドのダイナミックさには若干欠け、Recorder 1 ほどには演奏音が近くないという物足りなさがありました。一応既発盤として『MASTERS OF THE MYSTIC ARTS - Heiner B Edition』という海外製のタイトルが昨年登場したものの、Recorder 1 よりポジティヴな要素を多く持ちながら全く話題にならなかったのはそうした事が理由だったのでしょう。
 でも一長一短はありながらも「これがフロイド70年のニュルンベルクなのか!」と思わず口にしてしまうほどの最終到達点的な優れたアッパー版があれば、見過ごしていたフロイドの名演が1つ再発見出来る筈です。そもそも基本的な音質は決して悪くない同日録音が2つも揃っているのにファンにはさほど認識されていない・それを体系的に総括したタイトルすら存在していないなど、現在も日々考証が進むフロイドの音源史から鑑みても非常に奇妙な話です。そこに快心のアッパー・クオリティでシーンに一撃を打ち込むのが今回のSigma最新作という訳なのです!!

 今回本作に使用したマスターは、イギリス在住の知る人ぞ知る重鎮フロイド・コレクターから当レーベルが直接提供を受けたもので、彼が所有するファン垂涎の音源コレクションから特に優れた Recorder 1、Recorder 2 を元に制作しています。特にショウの序盤でダメージが目立つ Recorder 1 は彼と Sigmaスタッフで綿密に議論を重ねながら可能な限りの補正と調整を施し、音揺れ・音ヨレを軽減させる最新のデジタル・リマスタリングを行っています。この地道なチューンアップ作業によって前述した Godfather盤より音像のプロポーションが引き締まり、収録音の2017年版アップデートが実現したのを初めとして、何故か Godfather盤では曲順が入れ替えられていた「Atom Heart Mother」も今回正しい位置(※アンコール・ラスト)に戻した事で、この日のショウを正しいセットで御愉しみ戴けるようになっています。
 一方 Recorder 2 では演奏が部分的に失われていた「Interstellar Overdrive」に Recorder 1 をミリ秒単位で同期させ、欠落部分にデジタル補填する事で初めてシームレス過去最長版として甦っており、これが世界初の音盤化となってディスク3と4に収まっています。同時にヒスノイズの低減と厳密なピッチ調整、更には使用テープから最も良い状態で音が出るよう最適なゲインとフェーダーの調整もしていますので、研究サイト Yeeshkul! で公開されていたものより音質と品質が格段に向上したバージョンで御愉しみ戴けるのです。
 手前味噌かもしれませんが今後未知の Recorder 3 でも出てこない限り、本作の磨き抜かれたこの音像こそが70年ニュルンベルクのニュー・スタンダードとなる事は確実でしょう。

 【一皮剥けたRecorder 1】
 ディスク1と2は定番の Recorder 1 です。実は Recorder 1 には大元のマスター録音から枝分かれした「2nd Gen」「3rd Gen」「5th Gen」など幾つかのバージョンがあるのですが、本作に使用しているのは「1st Gen」の系統となっています。ただこのバージョンは音は良いのですがコピー時のテープフリップによって「A Saucerful Of Secrets」が2つに分断されているほか「Set The Controls For The Heart Of The Sun」が未収録で、そこだけは大元マスターから別系統を辿り、録音時本来の姿を残している2nd Genで補いました。ソース全体にはまだテープ劣化の片鱗・修正不可能なダメージが残っているものの、それは本当に部分的かつ一時的なものですし、基本秀逸な原音を変更せずに新たな音の輝きを宿している点こそが、今回の大きなアッパー感となっているのです。
 例えば「Astronomy Domine」は序盤で音ヨレ・音像の浮き沈みが未だ残るものの、最新リマスターの成果も手伝って5分もするとかなり安定感を取り戻し、原音が本来秘めていた鮮度と重量感が炸裂して私達を仰天させるのです。「Cymbaline」はベース音を基軸にする中~低音域が更に質感アップしました。中盤の足音シーンも生々しい立体感が備わり、終曲部もシンバルの音を残して終る姿が一段と明瞭に聴こえ、録音によっては埋没してしまいがちなこうした繊細なニュアンスも一層間近で感じ取れる様になっています。「A Saucerful Of Secrets」は序盤の不協音の多層コラージュがますますダイナミックに飛び出し、このシーンだけでも Recorder 1 が単に傷だらけなだけではない、深みと驚きの解像度を備えた録音である事が御理解戴ける筈です。
 ところでこの日は終盤でギルモアがガイド・ボーカルを入れる箇所が半センテンスほど早いのも特徴です。つまり翌年の箱根アフロディーテでの演奏に代表される2コーラスたっぷり歌うタイプと、演奏初期の様に1コーラスしか入れないタイプとの中間にあたる過渡期の表現となっており、これがアッパー感溢れるサウンドで聴ける点もまた要チェックでしょう。
 「Set The Controls For The Heart Of The Sun」は前述の通り 2nd Genに残されたものを使用していますが、リマスタリング効果絶大で音質は殆んど変わりません。特に中間部(※7分07秒付近~)などはシンプルな音の移ろいがしなやかに流れ、音と音の間隙にすら酔える上質なサウンドに Gen違いである事が信じられなくなるでしょう。
 またこの日" Not Called Anything "と紹介される「Atom Heart Mother」はギターの驚異的な伸びと広がりを堪能出来る特級音像となっています。4分54秒付近からは機材不調なのか通常入ってくるオルガン旋律が無いまま進行するシーンがあったり、その後暫くしてやっと入るガイド・ボーカルも他日とは随分違う旋律で歌っているなど(※これはその後に続く2声シーンも同様)、濃淡に充ちたこの日ならではの展開に改めて驚きの発見をされるでしょう。

 【リールから甦る、世界初音盤化の Recorder 2 全長版】
 ディスク3と4は、Recorder 2 として近年登場したリール音源です。音源史を紐解くとこの原録音は当時 Heiner B なる人物がドイツ製ポータブル型リール録音機" Magnetophon 301 "で行った事が判明していますが、今回ディスク化するにあたって若干高めだったピッチを正確に補正し、原録音で部分カットがあった「Interstellar Overdrive」をソース1(=Recorder 1)で補填する事で音源史上初めてシームレスに聴き通せる全長版として甦っています。
 また Recorder 1 には無い大きなアドヴァンテージとなっているのが、MCや軽めのチューニングを含む曲間がノーカットで含まれている点でしょう。これはディスク冒頭から表面化しており、「Astronomy Domine」の演奏が始まるまでの場内の様子やサウンドチェック・シーン、そしてロジャーによる曲紹介が約55秒間も含まれているのです。またこの曲に関しては Recorder 1 で顕著だった激しい音ヨレが無い為に演奏の全体像がバッチリ掴めるというアドヴァンテージも兼ね備えており、これは Recorder 1 でしかこの日の演奏に接した事が無い人にとっても嬉しい初体験となる筈です。「Cymbaline」も Recorder 1 で発生していたテープの音揺れ・音ヨレが全く無い為、本来あるべき姿で演奏が聴けるのが魅力です。サウンドの質感も素晴らしく、歌詞1番の途中からボーカルに軽めに掛けられるエコーがエコー発生時から綺麗に出てきますし、ドラムの打音とベース音も Recorder 1 以上にそれぞれの音が明瞭に聴き分けられる解像度を誇っている点も見逃せません。
 「A Saucerful Of Secrets」では音の近さと迫力こそ Recorder 1 に一歩譲りますが、一貫して全く音がブレないトータルなサウンド・クオリティは Recorder 1 を軽く凌駕し、リールによる実況録音の極みを存分に満喫して戴ける筈です。終曲直後に入るギルモア(ロジャー?)のMCも、Recorder 1 では言葉の途中でカットされていたものがノーカットで登場し、「The Embryo」も演奏が始まるまでの様子をRecorder 1より約30秒近くも長く含んでいる点も魅力です。「Interstellar Overdrive」は前述の通り元ソースの7分11秒付近で音の欠落が生じていたものを Recorder 1 の同部分をデジタル補填する事で全く違和感無く仕上げ、Recorder 2史上初めて音楽的な流れを止めること無く聴き通せるようになっています。
 最後の「Atom Heart Mother」も演奏開始前の曲紹介を含めたMCとサウンドチェックの模様がノーカット収録されているほか、Recorder 1 では途切れる演奏終了後のMCがこちらもノーカットで含まれている点も嬉しいアドヴァンテージとなっています。

 かように70年ニュルンベルク音源は演奏内容もマニアックですし、避けられないテープ劣化も若干残っているため初心者向けのタイトルとは言えない側面を持っているかもしれません。しかし一方のソースで薄れている音楽的・音像的なニュアンスをもう一方のソースが確実に補填し合うシンメトリーは聴いて接するほどに面白く、これは2つの録音から多角的にその日の演奏を掴み取る悦びも知っている中級以上の音源ファンにとっては、久し振りに手応えある知の興奮をもたらしてくれるでしょう。音源初体験の方は勿論ですが、どちらか片方のソースしか聴いた事が無い方でも存分に47年前の埋もれた名演に再接近出来る逸品です。機智に富んだ当日の演奏と、それに息を呑む会場の空気を最大限に吸い込んだ優良音質でありながら、羽に傷を負った鳥の如く音源史に息を潜めていた2つの同日別録音。今それは充分に傷を癒した生命力逞しいプレス盤4枚組となって飛び立ち、我々が見失っていた名演に邂逅させてくれるのです!!』

Nurenberg 1970 (Sigma 173)
 
 Live At Meistersingerhalle,Nuremberg,GERMANY 14th March 1970

 [Recorder 1]
  Disc 1
   1. Astronomy Domine
   2. Careful With That Axe, Eugene
   3. Cymbaline
   4. A Saucerful Of Secrets
   TOTAL TIME (47:56)

  Disc 2
   1. Soundcheck
   2. The Embryo
   3. Interstellar Overdrive
   4. Set The Controls For The Heart Of The Sun
   5. Atom Heart Mother
   TOTAL TIME (59:46)

 [Recorder 2]
  Disc 3
   1. Intro - Soundcheck
   2. Astronomy Domine
   3. Careful With That Axe, Eugene
   4. Cymbaline
   5. A Saucerful Of Secrets
   TOTAL TIME (48:13)

  Disc 4
   1. Soundcheck
   2. The Embryo
   3. Interstellar Overdrive
   4. Set The Controls For The Heart Of The Sun
   5. Atom Heart Mother
   TOTAL TIME (62:49)

 Astronomy Domine [Disc 1,Track 1] 
  
 Careful With That Axe, Eugene [Disc 1,Track 2] 
  
 The Embryo [Disc 2,Track 2] 
  
 Cymbaline [Disc 3,Track 4] 
  
 A Saucerful Of Secrets [Disc 3,Track 5] 
  

[参考]






 The Massed Gadgets Of Hercules 1970 - 1974 (GR BOX 09 A/B)
 Several Species Of Some Unique Performances Gathered Together In A Box And Making A Joy
 

 Master Of The Mystic Arts (No Label)
 Heiner B. Edition
 

1970 1st European Tour Dates
 January
  10 The Ballroom,University of Nottingham,Beeston,Nottingham,UK
  17 Lawns Centre,Cottingham,Hull,UK
  18 Fairfield Hall,Croydon,UK
  19 The Dome,Brighton,UK
  23 Civic Hall,Wolverhampton,UK
      [Cancelled]
  23 Theatre des Champs-Elysées,Elysée,Paris,FRANCE
      [Broadcast On Europe 1 Radio]
  24 Theatre des Champs-Elysées,Elysée,Paris,FRANCE

 February
  02 Palais des Sports,Lyon,FRANCE
  05 Cardiff Arts Centre Project Benefit Concert,Sophia Gardens Pavilion,Cardiff, UK
  07 Royal Albert Hall,Kensington,London,UK
  08 Opera House,Manchester,UK
  11 Town Hall,Birmingham,UK
  14 King's Hall,Town Hall,Stoke-On-Trent,UK
  15 Empire Theatre,Liverpool,UK
  17 City Hall,Newcastle-upon-Tyne,UK
  22 The Electric Garden,Glasgow,UK
  23 McEwan Hall,University of Edinburgh,Edinburgh,UK
  28 Endsville '70,Refectory Hall,University Union,Leeds University,Leeds,UK

 March
  05 Studio B, BBC TV Centre,White City,London,UK
      [Line Up, BBC1 TV, Broadcast 13 March]
  06 Great Hall,College Block,Imperial College,London,UK
  07 University of Bristol Arts Festival - Timespace,Colston Hall,Bristol,UK
  08 Mothers,Erdington,Birmingham,UK
  09 City (Oval) Hall,Sheffield,UK
  11 Stadthalle,Offenbach,GERMANY
  12 Kleiner Saal,Auditorium Maximum,Hamburg University,Hamburg,GERMANY
  13 Konzert Saal,Technische Universität,Berlin,GERMANY
      [Two Shows]
  14 Grosser Saal,Meistersinger Halle,Nuremberg,GERMANY
  15 Niedersachsenhalle,Hannover,GERMANY
  18 Gothenberg,SWEDEN
      [Cancelled]
  19 Stora Salen,Stockholm Konserthus,Stockholm,SWEDEN
  20 Akademiska Foreningens Stora Sal,Lund,SWEDEN
  21 Tivolis Koncertsal,Copenhagen,DENMARK
  30 Le Festival Musique Evolution,Le Bourget,Aeroport de Paris,Siene St Denis,FRANCE