ピンク・フロイドはイタリアのポンペイで10月4日から7日にかけて撮影・録音を行った後,英国内で肩慣らし的な公演を行い,北米ツアーを開始します.

 本CDは,1971年10月15日から1971年11月20日にかけて行われた,この北米ツアーから,最終日である11月20日オハイオ州のシンシナティ公演をオーディエンス収録したものです.
 翌年の1月20日英国のブライトン・ドーム公演で始まるツアーは,未完成の「狂気」プロトタイプをモチーフにしたライブとなることから,この日は「狂気」セットが登場する直前のピンク・フロイドの姿を捉えていることになります.

 何と言っても驚くのは,そのセットリストのオープニングを飾る28分の "The Embryo" です.今まで同曲のこんな長い演奏は聴いた事がありません.中間部はそれまでとは考えられない展開で,ジャジーなインプロビゼーション,"Careful With That Axe, Eugene" を思わせるロジャーのスクリーム, "Echoes" 中間部を思わせるような演奏,後の「The Dark Side Of The Moon」中の "Breathe" の導入部と同様の演奏 等が,ちりばめられており,非常に興味深いです.ちなみに "The Embryo" は,この公演を最後に演奏されなくなりますので,それも意図した演奏なのかも知れません.
 それ以外の曲も完成度は高く,70-71年フロイドの最終的な姿を聴く事ができます.
 ニューアレンジを試みる円熟の極みといった "Fat Old Sun","Set The Controls For The Heart Of The Sun" そして,この時期4人のみで演奏される "Atom Heart Mother" や "Careful With That Axe, Eugene" ,"Echoes"と,最高の演奏が行われます.残念なのは "Careful With That Axe, Eugene" の11分30秒過ぎに発生する 1瞬のカットとアンコール前に演奏される "Echoes"が,約15分の収録となっている点です.ただし,この日の音源は 2種類存在しており,Disc 2 に多少音質の落ちる別音源の "Echoes" と,アンコールで演奏された "Blues"を収録している点はありがたいです.

 曲間のオーディエンス・ノイズは多少気になりますが,音像的に近く高音質です.

 なお, "The Embryo","Fat Old Sun", "Cymbaline" は,ここでの演奏が最後となり,翌年以降は演奏されませんので,そういう意味からしても,重要な 1枚になるものと思われます.

 メーカーの情報では
 『今回メインで使用されたテープ(収録時間118分)は,当時としては驚くほど安定した高音質で収録されています.更に,このテイクの音質よりやや落ちるものの,同日のコンサートを収録した別音源から「Echoes」の完全版とアンコールの「Blues」を追加収録してあります.なお既発盤では途中でテープが終了する「Echoes」の後半を同別音源で補填しており,メイン音源の欠落部にのみ使用されていたため,別音源の「Echoes」が完全版で聞けるのは今回が初めてとなっています.どちらもマスター・クオリティを保証します.』
との事.

 28分に及ぶ "The Embryo" を聴く為だけに,購入する価値があるかも知れません.(笑)


The Growing Embryo (Sirene-031)
 
 Live at Taft Auditorium,Cincinnati,Ohio,USA 20th November 1971

DISC 1
 1. The Embryo
 2. Fat Old Sun
 3. Set The Controls For The Heart Of The Sun
 4. Atom Heart Mother

DISC 2
 1. Careful With The Axe, Eugene
 2. Cymbaline
 3. Echoes (Incomplete)
 4. Echoes (*)
 5. Blues (*)

 (*) 同一公演の別ソースからの収録です.


 何れにしても本公演は,未完成の「狂気」プロトタイプをモチーフとしたセットリストで翌年から行われる英国ツアー直前.1971年北米ツアーの最終公演という事で,歴史的にも非常に重要な位置付けであるのは,言うまでもありません.


 以下はYoutubeに時間制限が掛かっている関係で,3分割していますが,CD上は繋がっており,1トラックとなっています.

 The Embryo #1
 
 The Embryo #2
 
 The Embryo #3
 

 余談ですが,10月4日から7日にかけてポンペイで行われた撮影・録音は「Live at Pompeii」として,約1年後に一般公開されます.

[参考]
Live at Pompeii


1971 North American Tour Dates
 October
  15 Winterland Auditorium,San Francisco,CA,USA
  16 Civic Auditorium,Santa Monica,CA,USA
  17 Convention Hall,Community Concourse,San Diego,CA,USA
  19 National Guard Armory,Eugene,OR,USA
  21 Willamette University,Salem,OR,USA
  22 Paramount Theater,Seattle,WA,USA
  23 Gardens Arena,Vancouver,B.C.,CANADA
  26 Eastown Theater,Detroit,MI,USA
  27 Auditorium Theater,Chicago,IL,USA
  28 Hill Auditorium,University of Michigan,Ann Arbor,MI,USA
  30 Taft Auditorium, Cincinnati,OH,USA
      → Rescheduled To 20 November
  31 Fieldhouse,University of Toledo,Toledo,OH,USA

 November
  02 McCarter Theatre,Princeton University,Princeton,NJ,USA
  03 Central Theatre,Passaic,NJ,USA
  04 Music Hall, Boston,MA,USA
      → Rescheduled to 11 November
  04 Lowes Theatre,Providence,RI,USA
  05 Lowes Theatre,Providence,RI,USA
      → Rescheduled To 4 November
  05 Assembly Hall,Hunter College,Columbia University Of New York,New York City,NY,USA
  06 Emerson Gymnasium,Case Western Reserve University,Cleveland,OH,USA
  08 Peace Bridge Exhibition Center,Buffalo,NY,USA
  09 Centre Sportif, Université de Montréal,Montréal,Québec,CANADA
  10 Pavillion de la Jeunesse,Québec City,Québec,CANADA
  11 Music Hall,Boston,MA,USA
  12 Irvine Auditorium,University Of Pennsylvania,Philadelphia,PA,USA
  13 Chapin Hall,Williams College,Williamstown,MA,USA
  14 The Gymnasium,State University Of New York,Stony Brook,Long Island,NY,USA
  15 Main Hall,Carnegie Hall,New York City,NY,USA
  16 Lisner Auditorium,George Washington University,Washington D.C.,USA
  19 Syria Mosque Theater,Pittsburgh,PA,USA  
  20 Taft Auditorium,Cincinnati,OH,USA