サムライカウンセリング3 女優マイラの「当たり前」その2 | フラクタル心理学開発者から 心理分析を学ぼう

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前回の続きです。

 

Script Samurai Counseling 3
女優マイラの「当たり前」
ケースNo.3: “不平等に扱われる原因は…”

Cast List

登場人物:レギュラー
マダム・マヤ(F.カウンセラー)(イメージは中村佐恵美さんで!)
サトル (マダムの弟子/ボディーガード/付き人)
デービッド(弁護士)
ロバート (執事)



マダムマヤのイメージ、中村佐恵美さん

 

第三話登場人物
マイラ・ボッケリーニ  (actress)
アレックス(マイラのマネージャー) 
イーサン(男優)
映画監督
エディ(マイラの長兄)
トニー(マイラの次兄)
マイラの父母

 

 

ACT FOUR
EXT. マイラの自宅の豪華なマンション。夕方。広々として、突飛なデザインの椅子やモダンアートなどが壁に掛けられている。そして、小物やキラキラしたものがあちこちに飾られている。ごちゃごちゃした感じ。マイラはダイニングテーブルに座って、物思いにふけっている。そこへチャイムがなり、チラリとドアを見るが、そのまま考え事をしている。すると、勝手にドアを開けてアレックスがやってくる。ゲイ風の女っぽい黒人の男。黒いスリムな上下と柄物の小さなベストを着ている。小さな袋と大きな袋を持っている。腰で大量の鍵がじゃらじゃらしている。

    
アレックス
どうしたのよ、マイラ。デービッドのところに行ってから、おとなしくなったのはいいけど、あれから時々、心ここにあらずね。ほら、あなたの好きなプラネットカフェのラムサンドを買ってきたわよ。

小さな袋を渡す。マイラ、黙って受け取る。そして、包みを開いて一口かじる。

アレックス
次回のシーズン2も、主役は正式にあなたに決まったわよ。さっき、契約書にサインしてきたの。お祝いよ!
(大きな袋からシャンパンを取り出す) 

マイラ
そう。よかったわ。あの仕事を失うわけにはいかないから、裁判しなくて正解ね…。

アレックス
(シャンパンを開けながら)それにしては元気がないのね。

マイラ
そりゃそうでしょ。だってギャラはほとんど変わらないもの。

アレックス
何言っているのよ。あたしがちゃんと交渉して、1,3倍になったじゃないの。
(ポンッとふたが開く音がする)
グラス、グラスと…。(アレックス、キッチンへ)

マイラ
(アレックスが働く姿を見ながら)そうね。ごめんなさい、アレックス。あなたのおかげだわ。そう、少しだけギャラが上がったわ。ありがとう。

アレックス、グラスを2つ用意して、シャンパンを注ぐ。

アレックス
もっと景気のいい顔をしなさいよ。怒りで興奮しなくなったのはいいけど、元気もなくなっちゃったわね。あの弁護士に何を言われたのよ?

マイラ
弁護士のせいじゃないわ。彼が紹介したマダム・マヤという人にところに行ったのよ。ベルエアに住んでいるというから、興味がわいて行ってみたの。

アレックス
(そばに座って、乾杯を促す。チンという音)で、そのマダムなんとかに何か言われたの?

マイラ
いいえ。なんにも。マダムはいなかったわ。

アレックス
じれったいわね。じゃ、何があったのよ? マネージャーとしては、聞いておく義務があるわ。

マイラ
ゲームをしたのよ。そして、生意気なサムライみたいな男がいたわ。その男に監視されて、そのゲームをクリアせよって言われたの。
(サンドイッチをまた一口食べる)

アレックス
テレビゲーム? どんなゲーム?

マイラ
買い物するのよ。アクセサリーとか、家とか。

アレックス
マダムって、ファイナルシャルプランナーなの? あなたのギャラが少ないなら、それをどう使うかを教えてくれるってわけ?

マイラ
違うわよ。そうじゃないの。ゲームの結果、私は欲張りで、ほしいものを先に手に入れようとするからうまくいかないんだって言われたの。…でもね、それはどうでもいいのよ。あのサムライ男がむかつくの。

アレックス
(シャンパングラスを口に運ぼうとして、手を止める)はあん? むかつくというわりにはおとなしいじゃない。

マイラ
そいつは、レディファーストなんかしったこっちゃないというようなやつで、自分のために扉を開けろとか、お茶は自分で入れろとか、本当はお前が俺のお茶を入れるべきだとか…。とにかくむかつくのよ。

アレックス
で、なんでおとなしいの? いつものマイラらしくないわね。いつものマイラなら、完全に切れているわよ。

マイラ
そうよね。あんな扱い、生まれて初めてだった。(フウとため息)。それなのに、怒る気になれないの。まるで、なんだか別の人生を生きたみたいだった。ほんの少しね…。

アレックス
ふうん。逆に女らしくなったってわけ? わかるわ。女心は複雑よね…。

マイラ
やめてよ。そんなんじゃないわ。なんだか、お父さんに怒られたみたいな気分なのよ。

アレックス
ふうん…? あんた、マゾだったかしら?

(ふたりで夕空を見上げる)

END ACT FOUR


ACT FIVE

EXT. マダムの洋間。マイラ、再びマダムを待っている。マダム、姿を現す。

マダム
こんにちは。マイラ。初めまして。私がマダム・マヤです。先日は失礼しましたね。ゲームはお役に立ったかしら?

マイラ、マダムの印象が想像していたもの(頑固そうなアジア人のおばあさん)とまったく違っていて、美しいので、ちょっとショックを受けるが、すぐに平常心に戻り、

マイラ
マダム。あのゲームはどういう意味があるんですか?

マダム
あなたはなにかつかんだのかしら?

マイラ
サトル…は、私が欲張りだって言っていたわ。

マダム
他にもまだ、体験したことがあるでしょ? 
(フフフと笑いながら)
…ところで、あなたは男の兄弟がいるかしら?

マイラ
ええ。私は兄が二人います。三人兄妹です。

マダム
そう。……あなたは今、映画会社があなたを差別していることに腹を立てているのよね。
では、その原因を探りましょう。そして、根本的に解決しましょう。

マイラ
根本的に解決するって、どういうことなんですか?

マダム
つまり、二度と差別を受けないようにするということよ。

マイラ
二度と?

マダム
そう、一生のあいだ、二度と。

マイラ
デービッドもそんなことを言っていたけど、そんなの、わからないと思うわ。私が差別を受けたくないと思っていても、相手が差別するかもしれない。それが仕事の相手ならば、逃げられない。どうやって、二度と差別を受けないようになれるというんですか?

マダム
それを私はあなたに教えるの。それが私の仕事なのよ。その方法を知りたい?

マイラ
えっ、…知りたいですけど…でも、そんな方法は、あるはずが…。

マダム
あら、知りたくないみたいね。あなたは差別が存在する世界に生きたいのね?

マイラ
まさか! 誰だって差別が存在する世界に生きるのは嫌なはずだわ。

マダム
じゃ、あなたは差別のない世界に生きたいということね?

マイラ
そうです。そうでありたいわ。

マダム
あなたは今、差別のある世界に生きている。あなたの知っている範囲の理屈では、この世界は差別が当たり前のようにある場所なのよね? だったら、この世界の理屈を捨てなさい。あなたが信じているこの世界の理屈は、あなたが差別のない世界に生きるためには役に立たないわ。だから、ひとまず、今までの常識やあなたの理屈を捨てることよ。

マイラ
はあ…。で、どうやって…??

マダム
あとは私に任せて。
これから、誘導瞑想をするの。よく心理カウンセラーがする催眠療法みたいなものね。子どものころに戻って、再体験をするというもの。いいかしら? 

マイラ
(なんだ、つまらないという表情をしながら)
わかりました。お任せします。

マダム
では、ゆったりと座って…そして、目を閉じて…

マイラ、目を閉じる。

マダム (V.O.)(声のみが聞こえる)
では、あなたがギャラのことを聞いて、とても腹を立てたシーンへ戻りましょう。

マイラの目を閉じた顔にオーバーラップして、過去のシーンが浮かぶ。
マイラがギャラのことを聞いて、怒り狂ってクッションを何度もソファに投げつけている。


マダム (V.O.)
あなたはとても腹を立てているんですね。

マイラ(V.O.)
そうです。私が主役なのに、どうして私のギャラが三分の一なの!? こんなの絶対におかしいわ!!

マダム (V.O.)
では、この怒りとよく似た怒りを感じた、六歳以下の子どものころに戻ってみましょう。

マイラ(V.O.)
六歳以下? 

マイラが子どものころのシーン。家族が全員いる。父親が出張から帰ってきたシーン。なぜか、六歳のマイラは大泣きをしている。

マダム (V.O.)
あなたはなにを泣いているんですか?

マイラ(V.O.)
私は、すごく怒っていたんです。そして、ソファの上で暴れていました。あんまり暴れたので、上から壁にかけていた額が落ちてきて、私は額で肩をケガしたわ。あら、今と同じね。ケガは大したことはないけど、悔しいやら、痛かったやらで、大泣きをしているの。
それを兄たちがあきれてみているの。それがまた悔しいの。お父さんは怒ってる。なんで私がお父さんに怒られるの? お母さんは助けに来てくれないわ。本当に悔しい。なんでこんな目に遭うのかしら。

マダム (V.O.)
いったい何があったのですか? 

マイラ(V.O.)
泣いている原因? 

マダム (V.O.)
悔しがっている原因ね。あなたがとても腹を立てて泣く原因がわかるシーンへ戻りましょう。

場面が変わり、父親が家に戻ってきたばかりで、子どもたちにプレゼントをあげている。
まず一番上の兄(10歳)に高価な犬のロボットをあげた。二番目の兄(8歳)にゲームソフトをあげている。二人とも歓声をあげている。そして、マイラは高価な箱入りのお菓子をもらっている。


マイラ(V.O.)
……お父さんがお土産を買ってきてくれたのだけど、私にはただのお菓子で、兄たちにはとても高価なものを上げたの。それで、私が怒っているの。特に、一番上の兄がもらった犬のロボットは300ドルもするのよ。私のお菓子なんか、30ドルもしないわ。私も犬のロボットがほしいと思っていたのに、私には買わずに兄に与えたの。それで、私が「ずるいわ!エディ。私にちょうだい!私がほしかったのよ!」と言ったら、エディは「やだよ~!女の子にはロボットなんかいらないだろ!」って言ったの。それで私がお父さんに、「お父さん、私にも犬のロボットを買ってよ!」って言ったけど、お父さんは「お前にはいらないよ」と言ったから、私は本気で腹を立てて、ソファで飛び跳ねて怒っていたの。

マダム (V.O.)
そのとき、あなたはどう感じていたんですか?

マイラ(V.O.)
私は女の子だからバカにされるんだ。私は女の子だから、価値あるものを与えられないんだ。…って思ったわ。

マダム (V.O.)
女の子だから差別されたと感じたのね。ほかにもこんな思い出はあるかしら?

マイラ(V.O.)
あるわ。いつだってそうだった。母は、兄にはいつだって食べきれないほどの肉を与えているくせに、私には「太るからやめなさい」とか、兄たちには野球の練習から帰ってきたとき、母はコーラを与えるくせに、私にはくれなかった。それから、兄たちには16歳から車を与えたのに、私には車は危ないからダメだとか。
大学に行こうとした時だって、「あなたは奨学金が出ないと、大学には行かせられないわ。でも、この成績じゃ難しいわね」って言ったのよ。兄二人にはなにも言わず、大学に行く費用を用意したわ。
悔しい…。いつも私はちゃんと与えてもらえない…。

(兄たちが肉をほおばっているところを、恨めしそうな目で見ている自分。兄たちが車を自由に乗り回しているのに、自分は兄に乗せてと頼んでいる屈辱的なシーン。母親がダイニングテーブルで自分の成績のことを話しているシーン)

マダム (V.O.)
はい。では、お土産のシーンに戻りましょう。
あなたは今、お父さんがお土産を配る前に戻ります。
そして、お父さんの顔をよく見ます。それから、お父さんの体の中に入ってみましょう。

(大人のマイラが、子どものころのシーンを傍観し、それから父親の体に後ろから入る)

マダム (V.O.)
あなたは今、この子たちの父親です。この子たちのことをどう思いますか?

マイラ(V.O.)
(父親として)みんなかわいいです。1か月ぶりに家に帰ったので、とても会いたかったです。

マダム (V.O.)
あなたは一番上の子に高価なものを買いましたね。それはなぜですか?

マイラ(V.O.)
(父親として)エディは私が留守をしている間、母親をとてもよく手伝ったんです。私がいない間、男として、母親を守る役割をしてくれました。それをほめたかったんです。それに、勉強もよくできて、本当に良い息子です。
(夜、敷地内の納屋で作業をしようとしている母親のそばにいて、エディがまわりを見まわして安全を確かめている様子)

マダム 
あなたはマイラにはお菓子を買いましたね。それはどうしてですか?

マイラ(V.O.)
(父親として)私は子どもを平等に愛しています。しかし、女の子には正直、何を買っていいのかわかりません。マイラはきれいなお菓子が好きだから、色とりどりのゼリーを上げたら、きっと喜ぶと思ったんです。それに、まだ6歳ですから、高価なものを上げても価値がわかりません。おいしいものならばわかるだろうと思いました。
(父親が出張先でお土産を探している様子)

マダム (V.O.)
あなたはとても平等に考える人なんですね。

マイラ(V.O.)
(父親として)そうです。エディもトニーも、働きに応じてご褒美を上げています。それは、この子たちにはわかっています。
(二人の息子がマイラの世話をしたり、母親の手伝いをしているシーン)

マダム (V.O.)
マイラは、兄たちのほうが肉が多く与えられたと言っています。食べ物でも兄たちのほうが大切にされていると思っていますが、あなたはどう思いますか?

(みんなで食事をしているシーン。それを見守る父親)

マイラ(V.O.)
(父親として)マイラは、こんなに小さいころから、人前に立つのが好きで、おしゃれをするのが好きでした。だから、美しい子でいてほしかったんです。だから、私も妻も、太らせないようにと気を配りました。息子たちは、スポーツをしていたので、運動量があるから、多少肉を食べさせても、太らないのです。今、彼女が女優になってくれて、うれしいです。太る体質になってしまったら困りますからね。

マダム (V.O.)
あなたの娘は今、とても有名な女優になりました。それをどう思いますか?

(マイラが女優として華やかに活動しているシーン)

マイラ(V.O.)
(父親として)うれしいです。誇らしいです。マイラには幸せになってほしいです。誰よりも輝いていてほしいです。

マダム (V.O.)
では、抱きしめてあげてください。

マイラ(V.O.)
(父親として)
はい。
(6歳のマイラを抱きしめる)

子どものマイラが嬉しそうにしているシーン。

マダム (V.O.)
では、大人の自分に戻りましょう。

(回想シーンが終わって、マイラの目を閉じた顔)

マダム 
あなたは今、自分が不平等を願っていたことがわかりましたか?

マイラ
(目を閉じたまま驚いて)えっ、私がですか?

マダム
そうです。あなたは子どものころ、自分が不当に扱われていると思っていましたが、あなたが「平等」と思っているものそのものが、実は不平等です。

マイラ
え…、どういうことでしょう。

マダム (V.O.)
あなたのお父さまは、子どもたちがどんな働きをしたかを考えて贈り物をしました。一番上の兄は、良く母親を手伝い、よく勉強をし、スポーツもしていました。だから、父親はそのご褒美を上げたのですよね。

(再び回想シーン)

マイラ(V.O.)
そうです。私がそう言いましたよね。父親として。

マダム (V.O.)
つまり、あなたは自分が兄たちと同じ働きをしていないのに、同じものを欲しいとわがままを言っていたのです。実力の伴わない平等は、不平等です。それから、あなたはいつも、兄たちに見守られ、兄たちに世話をされていましたね。

(兄たちがマイラの両側に立って、手をつないで歩いているシーン)

マイラ(V.O.)
そうです。いつも兄たちが私を助けてくれていました。
私が何かを落としたら、拾ってくれましたし、私が転んだら、起こしてくれたり、痛いところを撫でてくれたりしました。

マダム (V.O.)
それは、あなたが一番下の女の子だからですよね。あなたが一番下の立場にいるならば保護されますが、その分、あなたは支払いが必要です。

マイラ(V.O.)
えっ、支払いですか?

マダム (V.O.)
そうです。あなたは兄たちに世話をされ、助けてもらっていたならば、あなたは兄たちを自分よりも上に置かなくてはいけません。そして、兄たちを尊敬すべきです。それなのに、兄たちを尊敬せず、自分が一番大切にされて当たり前と思っていました。だから、エディがすばらしい贈り物をもらったときに、妬ましく思い、エディから奪おうとしました。自分は一番大切な存在で、なんでも手に入れる権利があると勘違いしていたのです。

マイラ(V.O.)
それがいけないのですか…。

マダム (V.O.)
あなたが願っていた理想の世界は、反対側から見ると、とても不平等な世界です。
兄の立場で考えてみてください。
なにかの働きをしても、ちゃんと報酬が得られない。
何の働きもしない人に、報酬を奪われる。
この世界は平等ではない。

(ロボットを手にしているのに、マイラに貸さないと泣き止まないので、しぶしぶ貸しているエディの姿)

これがあなたの頭の中の回路として成立したのです。
つまり、大人になったら、あなたはこの回路で周りから扱われます。
そして、あなたの頭の中でこの法則が回っています。
この世界は平等ではない。
この世界は平等ではない。

(この言葉の音がマイラの頭でこだましているシーン)

この世界は、あなたの思考が作り出している世界です。
こうして、あなたは平等ではない世界に生きることになるのです。

マイラ
え、そうなのですか? 私の思考が作り出している世界?

マダム 
不平等な世界は困りますよね? だから、あなたがち
ゃんと子どもの自分に教えてください。
この世界の平等というルールを守りなさい、と。

マイラ
えっ…私は今まで、まわりが不平等なのだと思ってきたわ。
逆だってことなの?

マダム
そうです。世界が不平等だと思っているのは、自分を特別に扱ってもらおうとしている人です。誰が見てもあなたに価値があるならば、あなたは当然、特別に扱われます。でも、価値がなければ、あたを特別に扱うのは不平等となります。

マイラ
でも、私は女優よ。だから、まわりが特別に扱ってくれるのは当然でしょ? 

マダム
ファンに対しては、あなたは価値があります。でも、監督や同じクラスの俳優仲間にとってはどうかしら? あなたは同じ価値のある仲間や上司たちにも、特別に扱われたいの? だとしたら、それはあなたがエディやトニーにしてもらったようにされたいだけね。家族はあなたが小さいからしてくれたけど、大人になったら、それは通用しないのよ。

(しばらく黙っている)

いつの間にか、ロケ現場で、監督として自分を見ている。いつも文句ばかりで忍耐が足りず、自分よりも誰かが優先されているのを見ると、すぐに腹を立てている様子を観察している。

マイラ
マダム、この前のゲームの意味がわかりました。私は欲張りでした。人が持っているものが欲しくなるんです。私が持っていないものを持っている人を見ると、悔しくて妬ましくなるから、先に奪ってしまいたいんです。ものだけじゃなく、誰かが私以上に大切にされているのを見ると、妬ましいんです。心の中では滅びてしまえ!と思っています。
だから、本当は犬のロボットが欲しかったわけじゃない。エディが素直に喜んでいるのが妬ましかったんです。私が一番大切にされるべきなのにって。
いつもいつももっと欲しい。だから、どんなに大切に扱われても、感謝していません。ありがとうと、口では言っても、それはただの挨拶なんです。だって、本当に感謝したら、もうなにもしてもらえない気がするんです。満足してしまったら、そこでもうもらえなくなる気がしています。
だから、いつもまだ足りない、まだ足りないって思おうとしています。私は不当に扱われている。もっと大切にされるべきなのにって、いつも心の中で思っていました。それが間違いなんですね。なんの根拠もないのに、人の好意を当たり前のように要求していました。

マダム
よく理解できましたね。
人に対して、奪いたい心があると、自分が奪われていると感じます。実際は、誰にも奪われていなくてもね。お金の支払いは、人と人との間のことのように見えますが、本当はそうではありません。自分の頭の中のエネルギーの使い方が、自分がいくらお金を手に入れられるかを決めています。ネガティブな思い、非生産的な思いは、あなたからエネルギーを奪います。100,000ドル稼いだつもりでも、実際には70,000ドルしかもらえないのは、差別ではなく、あなたの頭の中の破壊的な活動に、エネルギーが使われているからなのです。それを不平等だと思えば、あなたの世界で、また「不平等」が現実化します。これでは抜け出せませんね。

マイラ
なんとなくわかってきました。私は自分の妬みで滅びているんだわ…

(大人のマイラが子どものマイラに話しかけている。子どもの自分の顔がアップになる)

(大人の)マイラ
マイラ! あなたはたくさんの人に守られているのよ。もっと大切にしてと、わがままを言うのはやめなさい。あなたがそうやって人の働きを評価しないから、大人になったあなたは、不平等に扱われるのよ。
そして、誰よりもたくさん欲しいと思うのをやめなさい。実力や働きがないのに、エディよりもトニーよりも良いものをもらおうとするから、不平等を作り出してしまったのよ。
大人になったら、あなたのつくった不平等な世界で生きることになるのよ。
平等というのは、実力や働きによって評価されることよ。
働きに関係なく同じものをもらうことではないのよ。
あなたが人の働きを評価して、感謝する人になれば、あなたの仕事も評価され、実力に応じた扱いを受けられるようになるのよ。そのほうが幸せになれるね?

(しっかりとうなづく子どものマイラ)

END ACT FIVE


ACT SIX


Ext.高級ホテルのパーティー会場。たくさんの人が集まっている。マイラのエミー賞のお祝いのプライベートパーティー。楽しそうに笑っているマイラ。少し大人びた雰囲気に変わっている。
そこへ、はかま姿のサトルがやってくる。


マイラ
サトル! ようこそ! いえ、サトル先生。ようこそ。

サトル
おめでとう、マイラ! すばらしい賞だね!

マイラ
ええ、マダムとあなたのおかげだわ。
(マイラ、サトルにシャンパングラスを差し出す。そして、二人で会場を歩きながら話す)

私、すっかり謙虚になったし、感謝の心も持てるようになって、本当の意味で大人になったわ! あのとき、私を怒ってくれたおかげよ。今では仕事も心から打ち込めるようになったの。今まではいつも人のことが気になっていて、心の中では勝ちたい、勝ちたいって思っていたのよ。それがなくなって、無駄なエネルギーを使わなくなったわ。
この賞は、そのおかげよ。

サトル
勝ちたいと思うことをやめたら、本当の意味で勝てたってことだね。それはよかった。それでこそ、マダムへの恩返しだ。

マイラ
そうね。さ、サトル先生、ここにお座りになって。
(マイラ、サトルのために椅子を引く)
お料理をお持ちするわ。どんどん召し上がってね

サトル
おう!

マイラがサトルに料理を運んで、サトルが勢いよく食べている様子。

END OF ACT SIX