★第69話:映画「男はつらいよ」 | 中高年の中高年による中高年のための音楽

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長い間「男はつらいよ」は観なかった
 
 実はつい最近まで、国民的人気映画である「男はつらいよシリーズ」に全く興味が湧かなかった。1969年に初放映があったときからだから、半世紀もの長い間、無関心を決め込んできたことになる。
 
 それが、昨年のBSイレブン「やっぱり土曜は寅さん」で何気なく番組を観てからというもの、ようやくその面白さに気が付いている。
 
 どうして、これまでこの映画を避けていたのだろうか。
 
任侠物が苦手だった
 
 日本人は「任侠もの」が好きである。1960年代後半の任侠映画全盛のころ、たまたま入った映画館で、高倉健が活躍する場面に観客のみんなが一斉に拍手する姿に驚いたことがある。
 
 「暴力団」や「愚連隊」というのは引いてしまうが、それと同義語の「やくざ」という言葉に日本人は何となく親しみを感じている。少し死語に近づきつつあるが、「判官びいき」とか、「強気を挫き弱気を助ける」という言葉がもてはやされ、「股旅もの」とか、「的屋(テキ屋)」とか「香具師(ヤシ)」とか、世の中から少し外れたアウトローたちに人気が集まった。
 
 寅さんもその一人である。(写真)
 
 
 当時、東映では、鶴田浩二(1987年、62歳で没、写真左)、高倉健(2014年、83歳で没、写真中央)、藤(現在は富司)純子(69歳、写真右)らを擁して仁侠ブームを作った。
 
 
 
  寅さんをやくざ者というのには問題があるだろうが、古い言い方で、「股旅者」という言葉が的を得ているのではないだろうか。これは、「沓掛時次郎」「番場の忠太郎」(瞼の母)「駒形茂兵衛」(一本刀土俵入り)など、多くの有名な渡世人を生んだ小説家・長谷川伸(1963年、79歳で没)(写真)の造語で、「旅から旅を股にかける男で、非生産的で、多くは無学で、孤独で、いばらを背負っていることを知っているものたちである」と定義している。
 
 
 
渡り鳥とか、渡世人という言葉も多くの日本人が憧れているはずだ。だが、自分には定職を持たないフーテンとか、テキ屋とかにはどこかでアレルギーを感じていたのかもしれない。
 
 それが、遅まきながら今頃になって、彼のようなまったりとした生き方に共感できるようになったのだろう。
 
 不寛容で息苦しい社会だからこそ、寅さんの生き方が際立って見えるのだろうか。
 
「男はつらいよ」は全国でロケをしている
 
 「男はつらいよ」シリーズは現代版「股旅もの」のため、下図のように、撮影は海外の2地域(アリゾナ、ウィーン)と共に、ほぼ全国で行われているが、高知県富山県埼玉県では撮影が行われていない。 
 
 ただし、高知県と富山県では後に、『男はつらいよ』以後松竹の看板映画シリーズになった『釣りバカ日誌』において、連続して撮影が行われたという。(Wikipedia 参照)
 
最近の「男はつらいよ」観賞経験(ネタバレ)
 
昨日の1月2日、「男はつらいよ お帰り 寅さん」を映画館で観てきた。
 物語の軸となるのは渥美さん演じる寅さんの甥っ子の諏訪満男こと吉岡秀隆だ。
 
 常に彼の側にいて見つめてくれている寅さんの回想と、今や国連難民高等弁務官事務所の職員となって束の間に帰国した際、偶然出会った元恋人・後藤久美子演じる泉とのやり取りがストーリーの中心である。
 
 
 イズミとの出会いのシーンは自分の昔の思い出が重なって、ウルウルしてしまう。諏訪満男と同じで、あの時何かの一言で人生がすっかり変わったのにと後悔に似た気持ちになる。
 
 これが山田洋次監督(現在88歳)を中心とした出演者の面々だ。みんな歳をとった。
 
 左から倍賞千恵子(現在78歳)、前田吟(現在75歳)、浅丘ルリ子(現在79歳)、一人置いて、夏木マリ(現在67歳)、後藤久美子(現在45歳)、吉岡秀隆(現在49歳)。
 そしてこれが、人物相関図
 

 半世紀も続いている映画であれば当然物故者は多くなる。黒枠で囲んだ名前は既にお亡くなりになった人だ。寅さんこと車寅次郎の渥美清は1996年、68歳で没。長い間務めた叔母・つねこと三崎千恵子2012年に91歳で没、タコ社長こと桂梅太郎の太宰久雄1998年、74歳で没。おいちゃんこと叔父の竜蔵は3人代わったが、森川信(1~8作、1972年、60歳で没)、松村達雄913作、2005年、90歳で没)下條正巳1449作、2004年、88歳で没)と、みんなこの世にいない。

 
 映画では、若き日の姿を見せる歴代マドンナの面々も華を添える。日本の美女が勢ぞろいである。黒い枠で囲った7人の女優は既にこの世にいない。昨年はこの中で京マチ子さんと、八千草薫さんが鬼界に入った。
 
 複数回出演したマドンナは栗原小巻さん、歌子こと吉永小百合さん大原麗子さん松坂慶子さん竹下景子さん。最高は、リリーこと、浅丘ルリ子さんの5回である。泉こと後藤久美子さんは数度出演しているが、寅さんのマドンナではない。なお、その吉永小百合、浅丘ルリ子、後藤久美子の3人以外は、別人の役だ。
 
 その1日前の1月1日、NHKBSプレミアムで14時から19時までの5時間、3本の映画を観た。
 
 その3本は多分、49作中のベスト3と言ってもいいような映画であると共に、新作の映画を意識した作品のようで、新作の回想シーンとして挿入される映像パートが多く、それを事前に観たので、唐突に現れても流れが分かった。
 
●第一作「男はつらいよ」(1969年8月27日) マドンナ:光本幸子さん
 26年にわたる下町人情大河喜劇映画シリーズの記念すべき第1作。当初はテレビドラマ版最終回の抗議を受けての映画化のため、本作で完結ともとれるラストになっている。
 
 14歳の時、今は亡き父と大ゲンカして家出してから20年振りに故郷、東京は葛飾柴又の、とらやに帰ってきた車寅次郎(渥美清)。翌日、さくら(倍賞千恵子)の見合いに出席した寅次郎だが、酔ったあげくの大失態。見合いをぶち壊した寅次郎は、おいちゃん達と大ゲンカし、柴又を去っていく。その後、柴又へ帰った寅次郎は、とらやの裏にある印刷会社の工員・博(前田吟)が妹のさくらが好きなことを知り、またちょっかいを出して破談になりそうだったのが、博の一世一代の告白で結婚へと進むが、また、その結婚式でドタバタが…。
 
第九作「男はつらいよ柴又旅情」(1972年8月5日) マドンナ:吉永小百合さん
 
 
 旅先の金沢で3人の女性旅行客と出会った寅次郎。そんな彼女たちと仲良く記念写真に収まることになった寅次郎は、「はいチーズ」という所を「はいバター」とやってしまった事で大ウケ。これですっかり彼女たちと打ち解けたのだが、その中の一人で著名な小説家高見の娘である歌子(吉永小百合)に強く心惹かれてしまった。旅から単身帰った寅次郎は、歌子への募る想いから鬱状態に。そんなある日、歌子がとらやを訪問。寅次郎はすっかり上機嫌になったが、歌子の口からは恋人との結婚話がさくらに打ち明けられるのだった。
 
第十五作「男はつらいよ寅次郎相合い傘」(1975年8月2日) マドンナ:浅丘ルリ子さん
 リリー(浅丘ルリ子)をキャバレーまで送った寅次郎は、そのあまりの環境の劣悪さに驚き、肩を落としてとらやに帰って来る。「俺にふんだんに銭があったら…」寅次郎は大ステージで歌い上げるリリーの姿を想像し、臨場感たっぷりにさくらたちへ語って聞かせる。寅次郎の切ないまでの愛情が渥美清の演技によって表現されている。山田洋次によれば、後日リリー役の浅丘ルリ子がこのシーンを見て涙を流していたという。このシーンに限らず、渥美清独特の語り口によってなされる“一人語り”はスタッフの間から「寅のアリア」と呼ばれていた。
 
 その寅次郎は青森で、通勤途中不意に蒸発したくなったというサラリーマン・兵頭(船越英二)と出会う。自由な生き方に憧れる、という兵頭に手を焼いてしまう寅。だがそこで偶然にも、青森に来ていたリリーと再開して大喜び。そして寅とリリーは兵頭も巻き込んで北海道へと向かう。ごろ寝や啖呵売もこなして楽しい道中となるが、小樽に着いた兵頭はどうしても会いたい人がいるという。それは彼の初恋の人だったが、彼女(信子、岩崎加根子)は夫を亡くし女手一つで子供を育てており、懸命に生きる姿を見た兵頭はいたたまれなくなる。そんな彼の複雑な心中をめぐって寅次郎とリリーは対立し、ついには喧嘩別れしてしまう。去っていくリリーをどうすることもできない寅次郎。
 
 ここではいくつかの名場面があるが、その一つ「メロン騒動」

 寅次郎の世話になった男から高級メロンをもらったとらやの面々。切り分けて食べ始めたところへ寅次郎が外出から戻ってくる。寅次郎の分をうっかり勘定に入れ忘れていたことに気付いた一同は、大慌てで場を取り繕うとする。そんなとらやの人々を心が冷たいと激しくなじる寅次郎だったが、リリーが核心を突いた言葉で一喝し、それに対し寅次郎は酷く腹を立てて反発した事で、大喧嘩となってしまう。以降のシリーズでも作中でマドンナとなる人物が正論で寅次郎の身勝手を咎め、感情的になった寅次郎がそれに憤慨して口論や取っ組み合いにもつれ込んでしまうという、このシーンをオマージュしたような場面がしばしば見受けられる。
渥美清/男はつらいよ・同名主題歌(1970年)

(Wikipedia、松竹映画「男はつらいよ」公式サイト参照)

 

 是非、映画館へ。そのときは、ハンカチも忘れずに。