「歌うクジラ」上・下(村上龍著)を読んだ。
本の上巻までは「五分後の世界」「ヒュウガ・ウイルス」「半島を出よ」の匂いがしていたけれど、下巻まで読み終えてみると、そうではなかった。
「半島を出よ」までの上記作品は近未来の戦闘物と言ったジャンルになる。
「歌うクジラ」も近未来の物語ではあるが、生きることについてが大きなテーマとなっている。
そのことが15歳の主人公アキラの成長とともに描かれている。
今回の物語も村上龍という作家の発想力、表現力、知識力、そして国語力にただただ圧倒される。
題名の「歌うクジラ」って何だろうと読む前は思っていたが、読んでいくとすぐに説明されていて、ヘェーそうなんだ、面白い発想だ、と改めて感心する。
「半島を出よ」みたいにハラハラドキドキして読んでいく感じではない。
けれど、見てきたように書かれている未来の情景、状況は細部にわたって描写されていてすごい。
そこまで考えていなかったというところまで、しっかりと描かれている。
物語の構成力はさすがと言うしかない。
また物語の中で反乱移民の子孫グループがわざと助詞を崩して会話をしているのだけれど、その理由とかも考えられているな、と感心してしまう。
また、日本語の言語自体の大切さなども考えさせられる。
当然、村上龍という作家の日本語に対する国語力の凄さも発揮されている。
最終章でこの物語の言いたいことは書かれている。
気づいた。
生きる上で意味を持つのは、他人との出会いだけだ。
そして、移動しなければ出会いはない。
………
だが、人間の一生とはこんなものかもしれない。
誰もがいろいろなことに気づき、だがそれを人生に活かすことができないという怒りを覚えながら消えていく。
………
ばくは生まれてはじめて、祈った。
生きていたい、光に向かってつぶやく。
生きていたい、ぼくは生きていたい、そうつぶやき続ける。