この章の最後として、もう一度依存症患者の気持ちになって頂きたいと思います。そしてハームリダクションアプローチが目指すところを味わっていただきたいと思います。今回は小林桜児氏の『人を信じられない病』から引用しました。
ここでは依存症患者におけるアルコールや薬物を「浮き輪」にたとえて説明しています。
画像 irasutoya.com 板につかまる人
依存症患者とは、船が難破して、海に投げ出されている状態です。彼らは浮き輪や木片などにしがみついて生き延びようとしています。彼らは豪華客船に乗っていました。ところが船が座礁して、彼らは海に投げ出されてしまいました。なんとか浮き輪や浮いているものにしがみついて生きてきましたが、次第に海が荒れてきました。しがみついているだけでもしんどい状態です。このまま手を放して死んでしまおうかと、何度も思いました。
そこに一隻のボートが近づいてきました。ボートに乗った人たちの中には家族もいました。ボートに乗った人たちは、海に投げ出された患者をあざ笑いました。人々は口々に、
「そうなったのは自業自得だ!」
「そんな浮き輪なんて捨てちまえ!」
と、浮き輪にしがみつく彼を攻撃しました。
画像 heisei.or.jp 処方薬を他人にあげる
さらにその浮き輪を無理やり取り上げようとするのです。彼は必死に抵抗しました。今浮き輪を取られたら生きていけません。浮き輪は命なんです。
そんな彼の言い分は無視するように、ボートの面々は、
「そんな浮き輪にしがみついていたら、死んでしまうぞ!」と、強引に浮き輪を取り上げようとします。
彼にとってボートの人々は敵でしかありませんでした。
浮き輪を手放しては生きていけません。しかしみんなはその浮き輪を悪者扱いします。彼は浮き輪があっても安心できないことはわかっていました。しかし、それ以外に生きていく方法が見つからなかったのです。
参考および引用・・・『人を信じられない病』、「ハームリダクションアプローチ」