アドラーは、「変えられない」と言うイメージがある「性格」と言う言葉を、使いたがりませんでした。その代わり、「性格」よりもっと広い概念を提唱しました。例えば『自分についての信念』とか、『自分の周囲に対する信念』などがあります。これらの概念は一般的に「ライフスタイル」と呼ばれています。
アドラー心理学における「ライフスタイル」は、大きく次の3つにまとめられています。
①まずは「自己概念」
「私は〇〇である」と言うものです。あるオリンピック選手は、周りは「メダルなんて無理」と思っていたとしても、「絶対に自分はやれる」と思って頑張っているとします。
この「私は絶対にやれる」と言うのが、自己概念です。
反対に「自分はダメ人間」と言う「自己概念」を持っていると、周りがいくら能力を認めていても、本人は自分にダメ出しをし続けることになります。
②次に「世界像」です。
「世界や周りについての信念」です。例えば「他人は信用できない」としたら、周りの人たちはまったく頼りに出来ません。反対に「周りはみな、やさしい人」と思っているならば、自分が手を差し伸べることも、協力をお願いすることもできるのです。
③最後が「自己理想」です。
『自分や世界の理想についての信念』です。自己理想が「常に周りの人に勝たなくてはならない」ならば、周りはすべて敵であり、毎日が彼らとの勝負になります。反対に「それぞれの強みを生かして協力していくべき」ならば、どんどん周りと協力し合いながら、チームや共同体を強化していくことが出来るはずです。
こんな風に考えて行きますと、「ライフスタイル」とは、自分を見失ったときに頼りになる、自分自身の辞書であり、地図であり、ナビゲーションシステムなのかもしれません。
Aさんはあることが気になっていました。
『自分は他の同僚と比べて、上司からの扱いが良くない気がする。きっと自分が引っ込み思案のせいなのだ』
彼はこう言うのですが、もしかすると仕事に対する不満を上司のせいにしているだけかもしれません。またAさんが本当に引っ込み思案なのかもわかりません。
もし引っ込み思案だとしても、上司から本当に不当な扱いをされているかどうかもわかりません。もし不当な扱いが本当だとしても、その原因が引っ込み思案によるものかどうかわかりません。
人のせいにすること。
自分の性格を決めつけてしまうこと。
こんなところに大きな落とし穴があるようなのです。
もし上司に不満があるのなら、実際に上司に訊いてみれば良いことです。
けれどこんな風に悩んでしまう人は、「それができるくらいなら、悩まない」のですよね。さらにこういう人は、気持ちを自分の中に閉じ込めてしまいがちなんです。するとますます気持ちが落ち込み、時に爆発して周囲に迷惑をかけたりしてしまいます。マイナス感情がたまった時は、小出しにするのが得策です。それだけでも気持ちが軽くなりますし、悪い方向に行っても軌道修正しやすいのです。
Aさんのように引っ込み思案を気にしている人は多いでしょう。ここでちょっとしたテクニックがあります。
ほんの少しで良いですから、顔を上げてみてください。
ほら、それだけでも引っ込み思案に見えなくなります。
会議などでうつむいているばかりでなく、ちゃんと相手の顔を見て発言すること。そうすることで自然と声も大きくなります。言葉の伝わり方も大きく変わります。言葉が届けば気持ちも届きます。
ぜひ覚えてほしいことがあります。
「性格」は生まれつきのものではありません。自分で決めているだけなんです。Aさんは引っ込み思案だから、意見が言えないのではありません。意見を言うのが面倒くさい、拒否されるのが嫌だ。だから引っ込み思案になっているのです。
だからその「引っ込み思案」は思い立ったらいつでも変えられるのです。
ライフスタイル(性格)を変えるのに手遅れはありません。強いて言えば死ぬ1~2日前までかな。とアドラーも言っています。
参考・・・「ありのままの自分を認める」