まじめで几帳面なJ君。もちろん仕事もきちんとこなすので上司からも厚い信頼を寄せられています。ただ、ちょっとだけ神経質なところがあり、絶えず人の顔色とか思惑とかを気にしてしまいます。
彼によると「何だか知らないけれど、常に嫌われているような気がする」のだそうです。こういう人は結構多いかもしれません。
会話でちょっと相手のリアクションが少なかっただけで、すぐに「自分は嫌われている」と早合点してしまう人も、いるかもしれませんね。
他人から冷たくされたり、嫌われているかもしれないと思うと、「あの時私の一言で傷つけてしまったのではないか」とか「私がしたことで、迷惑をかけてしまったのかも」とあれこれ考えすぎ、心はすっかり疲れてしまいます。そこで嫌われないようにふるまおうとして、無理に「いい子」を演じたり、自分に厳しく接してみたりするのです。
J君もまさに、自分に対して常に「こうあるべき」というスローガンを掲げていました。最初はそれでもうまくいきました。しかしこれを続けていると何となく鬱的になったり、反対に投げやりになってしまったりするようになりました。さらに悲しいことに、ますます他人から嫌われるように思えてしまうようになってしまったのです。
他人に嫌われないために、自分を抑え、自分に厳しくしているのに、なぜ嫌われてしまうのでしょう。
それは自分に対して「こうあるべき」と縛っていると、他人に対しても同じ要求を無意識のうちに突きつけることになるのです。本当の意味で「自分に厳しく、他人に優しい」人は、おそらく神様だけです。
相手にも「こうあるべき」と厳しさを要求します。足りない点があるとそれを容赦なく糾弾したりします。また、相手が自分と同じ条件でないと、「不公平だ」とばかりに、相手を俎上に乗せて徹底的に叩きのめすのです。SNS上ではあちこちで炎上を巻き起こします。
自分に厳しい人ほど、相手にも厳しい要求をし、そして互いに厳しく束縛しあう人間関係になってしまうのです。
では、どうすればいいのでしょう。まず考えるべきことは、人は嫌われても仕方がないと観念すべきなのです。あなたも胸に手を当てて考えればわかるように、どうしてもいけ好かない、相容れない人間というのはいるものです。こういう場合、無理に好きになる必要はありません。あとで「苦手な人間」という項目を設けますが、とにかく嫌いなら嫌いなままで良いのです。それを恥じる必要はありません。
ですので、あなたも他人から嫌われている可能性は十分にあります。それは覚悟しておいてください。
ただ多くの場合、「嫌われているのでは?」という不安は、杞憂の場合が多いものです。つまり、相手は何とも思っていないのに、自分で「嫌われてしまった」、「迷惑をかけてしまった」と一人芝居をしているのです。
つまり、大半は「思い込み」です。
それでもどうしても、「私は嫌われているかもしれない」と不安で仕方がないのなら、相手に聞いてしまえばよいのです。
認知行動療法の手法の一つで、「聞いてみよう、見てみよう」というのがあります。これはあなたの思い込みが正しいのかどうか、実際に人に聞いてみたり、観察してみたりする方法です。
例えばあなたが人に嫌われているのが不安だと思っているなら、家族や友人などに、自分と同じように感じているかを聞いて、確かめてみるのです。そうする中で、自分の考え方の癖に気づいたり、どうすれば思い込みを外せるのかといったあたりのヒントがもらえたりするのです。
でも、一番気になるのは、自分が嫌われているかも・・・。と思い込んでいる相手ですよね。
まさか相手に直接、「ねぇ、私の事嫌い?」と聞くわけにもいきません。
こんな時役立つのが「アイメッセージ」という方法です。「アイメッセージ」は、「私メッセージ」ということで、二人称ではなく、一人称で、例えば「自分は~感じています」とか「私は~思います」というように、自分の感じている感情をそのまま話すようにするのです。
「私メッセージ」の反対は「あなたメッセージ」です。「あなた」の事を主体にして二人称で話す方法です。
このやり方だとしばしば角を立ててしまったり、場合によっては相手を怒らせてしまったりします。
例えばJ君が、「あなたは私を嫌っていますよね」などと言ったらどうでしょう。本当にJ君を嫌っていたしても、相手は怒りだしてしまうでしょう。これでは本当に嫌われてしまいます。
そこで「アイメッセージ」に変換します。すると、
「私はあなたに嫌われているように感じて、とても悲しいです」となります。いかがでしょう。これなら相手は怒りませんよね。
例えばあなた(これを読んでいるあなたですよ)が、誰かから、「私はあなたに冷たい態度をとられ、とっても悲しんでいます」とか、「あなたに嫌われたみたいで、とても不安です」などと言われたら、どんな気持ちになりますか? おそらくですが、
「そそ、そんなことはありませんよ、もしそう感じてしまったのならごめんなさい!」と、慌ててフォローしながら、自分の正直な気持ちを語りだすことでしょう。もし誤解されているようなら、それを解決するべく行動を起こすと思います。
いつも帰りが遅い旦那に向かって、
「あんた! 一体何時だと思ってんの! こんな時間までどこほっつきあるってたのよ!」
などと奥さんに言われた日には、旦那踵を返して「ホステス」というカウンセラーのもとに走ってしまうかもしれません。
そうではなくて、
「あなたお帰りなさい、今日も遅かったのね、私、事故に遭ってるんじゃないかって、とても心配だったのよ」
とか、嘘でもいいから言ってごらんなさい。
その日を境に旦那の帰りが早くなるかもしれません。
いかがでしょうか。これが「アイメッセージ」の効果です。
相手を変えようとするときには、必ずしも責め言葉や強い態度は必要ありません。
ただ、自分の感情を素直に伝えるだけでよいのです。
これで誤解やわだかまりがなくなると思えば、試してみる価値は大いにあると思いますよ。
参考・・・「私らしさよ、こんにちは」、「心のくせの治し方」