同じ体験をしても、さほど感じない人もいれば、落ち込んでしまってウツ状態にまでなってしまう人も居ます。すぐ立ち直れる人も居れば、何時までも引きずってしまう人も居ます。
なぜ、人によって反応の違いが出るのでしょうか。単に性格の問題なのでしょうか。
例えば仕事でミスをします。もし『失敗は絶対にあってはならない』と言う信念を持っている人であれば、仕事上のミスは受け入れがたい体験であるので、当分の間、立ち直れないと思われます。
しかし一方で、例えば、
『失敗は成功の母、失敗を経験する事で、多くの学びが得られる』
と言う考え方を持っている人であれば、いやな気分にはなるでしょうが、すぐに気持ちを切り替えて失敗の分析をしたり、そこから得られた教訓を次の挑戦に生かすことが出来るでしょう。
このように私たちの反応は、単に客観的な体験によって決まるのではなく、物の見方や考え方(認知と言っても良いし、価値観と言っても良い)などによって、大きく左右されるものなんですね。
(上図参照)
うつ病の治療に良く用いられる『認知行動療法』は、今述べてきたような考え方をベースに、組み立てられています。
認知行動療法では、自動思考と言う概念を良く用います。
自動思考とは、私たちがある体験をした際に反射的に浮かんでくる考え方の癖のようなものです。つまり大元に偏ったものの見方(認知の歪み)があって、そこから引き出される想念と考えていただけばよいでしょう。自動思考にはさまざまなものがありますが、ここでは代表的なものだけを紹介しましょう。
①『~すべき思考』
いわゆる『かくあるべし』の考え方です。
例えば自分が引き受けた仕事が重荷になってきた・・とすると、『自分が引き受けたのだから、弱音を吐かず最後までやるべきだ』となってしまいます。
他には、『どんなに辛くても仕事はこなすべきだ』
『常に親の期待に応えられる良い子であるべきだ』
『親を悲しませてはいけない』
『人に嫌われてはいけない』『好かれなければならない』
『常に正義を主張しなければならない』
②『プラス面を認めない思考』
つまり、良い面と悪い面があるにもかかわらず、悪い面しか認識できない心の状態です。例えば、アンケートをとったら好意的な評価が多かったものの、ごく一部に批判的な意見があった』のが事実なのに、『批判的な意見があった』所だけ認識されてしまうのです。
③『心の読みすぎ思考』ないしは『根拠の無い推論思考』
例えば、友人に何度も電話したけれど、出なかった。と言うのが事実なのに、そこから勝手に『居留守を使っているに違いない』と結論付けてしまいます。
他には、『上司が自分を誘わず同僚と食事に行くと、勝手に自分は嫌われている』と考えたり、『友人がたまたま自分の挨拶に答えなかった』だけなのに、自分は避けられている。と考えてしまいます。
④『自分への関連付け思考』
親睦会の幹事をしたけれど、参加者が少なかった。
と言うのが事実なのに、『私が幹事をしたからだ』と、結論付けてしまいます。他には、上司が不機嫌そうだと、自分に責任があるように感じてしまう。親が怒っていると、自分が悪いことをしたのではないかと恐怖してしまう。などがあります。
⑤『完璧主義思考』ないしは『過剰な一般化思考』
朝六時に起きるつもりだったのに、七時半になってしまった。
それだけで『今日一日がだめになった』と考えます。
他には、いくつかの薬が合わなかっただけで、自分は治る見込みが無いと悲観してしまう。一度友人と気まずくなっただけで、友人と全て合わない、気に入らないと考えてしまう。
⑥『マイナス化思考』あるいは『過少過大評価思考』
他人から『今のお仕事はあなたに向いていますねぇ』と言われたのに、『自分の学歴でこんなお仕事をしているのは情けない』と考えてしまいました。
けれど言った他人に対しては、
『あなたはいいですよねぇ、立派なお仕事に恵まれて有意義で幸せな人生を送っていらっしゃるんだから・・・』
お分かりですね。自分には過小評価。他人には過大評価です。
⑦『全か無か、白か黒か思考』
物事を両極端でしか捉えることのできない思考です。いわゆる『グレーゾーン』の認識が出来ません。
例えば、小さなミスをしただけで、もうこの仕事は自分に向いていないと考える。周りの人を『良い人』、『悪い人』と振り分けてしまう。
⑧『決め付け思考』
客観的事実ではなく、自分の気分や感情を主体として考えてしまいます。
例えば、『あなたと居るととても辛い、だからあなたはひどい人。』
『こんなに寂しいんだから、私は孤独なのよ』
『いやなものはいやなんだ! もうこんなところ辞めてやる!』
まだまたありますが、こんなところにしておきましょう。
あなたにも心当たりがありますか?
ストレスのセルフケア、明日が最終回です。