梅雨の頃の白い花たち | 神経質逍遥(神経質礼賛ブログ)

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梅雨の季節の花、と言えば多くの方が『アジサイ』を思い浮かべるでしょう。ですが私の場合は少し違うのですね。梅雨の走りの頃から咲き始める花々たちは、なぜか白い色の花が多い気がするのです。そこで今夜は、雑木林でよく見られる、今頃咲く白い花について、いくつか取り上げてみたいと思います。

まずは、

 

◇エゴノキ◇

梅雨特有のなんとも言えない重苦しい空の下、私の目を楽しませてくれるのは、明るい色の花たちです。とくにこの季節、白い色の花が良く目立ちます。花粉の媒介者であるハチにとっても、白い色が好ましい色であるようです。

エゴノキの花は全て下向きに咲きます。まるでシャンデリアです。その見事さは、わざわざ出かけて見に行ってみても、無駄とは思えない豪華さがあります。

 

深く5つに裂けた花は、まるで5弁花のようです。けれどこれが落花するときは、その形のまま地面の落ちるので、合弁花である事が分かるのです。たわわに咲いた花たちを下から眺めていると、無数の鈴が華麗な音を鳴らしながら、降り注いでいるかのように感じてしまいます。

 

 

雑木林の下の道で、地面にはらはらと散り敷いた白い花に気づき、ふと見上げる樹冠にエゴノキの白い点々を仰ぐとき、こずえを渡る五月の風の中に、梅雨特有の湿気臭さを感じるのですね。

~山萵苣の白露しげみうらぶれし 心に深めてわが恋やまず~

ここの山萵苣と言うのが、今のエゴノキを指すようです。

万葉人が『わが恋やまず』と詠んだ緑の季節の感傷も、その風の中に感じ取れるような気がするのです。

 

この花は日本人にとって、あまり関心を持たれないようです。けれど海外の園芸家が、ジャパニーズ・スノーベルとか名付けて愛好しているのは、やはり緑の中に映える白の、品のよさそうな清冽な情緒を感じ取れるためでは無いでしょうか。

 

◇ミズキ◇

こずえに咲く白い花は、中々地面から観察しにくいので、あまり知られていない花かもしれません。ミズキの花も盛りを過ぎたら地面に落ちてきます。ですか一つ一つが非常に細かいので、あたかも白い木屑を撒き散らしたようにも見えるのです。

ミズキの花がそれと確認できるのは、河岸段丘などに白い花の階段を、あたかもなだれのように展開しているときなんです。電車に乗っているとき、親の斜面に白い層状になった木の花が、重なるように枝を張っていたら、十中八九ミズキであります。

 

 

ミズキの特徴ある樹形は、葉を全て落とした冬に良く見られます。横に張り出した小枝は扇形に広がり、それが幾重にも段を作っています。その扇の先端には真っ赤な冬芽が、斜めに天を指しています。

ミズキは、その名のとおり枝先を折ると水が滴るほど、水っぽい木です。さらにミズキは、水際の崖のようなところに良く生えるので、その花はいっそう雪崩のように見えるのですね。

~水木なだれ咲いて靄ある夜明けかな~

 

ミズキは材が白くて美しく、さらに木目が細かいので、こけしを始めさまざまな細工物に使用されています。特に東北ではこの木を轆轤引きにして、お椀、茶盆、お皿、仏具、徳利、湯桶、茶入れなどの日常雑器などが、沢山作られていたようです。

ところが最近、国の林業政策の影響で、針葉樹林ばかり増やされ、水木のような落葉広葉樹は大幅に減ってしまったのです。そこで東北の木地師たちは、自分の手で、ミズキを植林しているという話しです。

 

◇ドクダミ◇

在る有名なお寺の庭に、ドクダミが沢山咲いていました。一緒に散策した講師の先生は、ドクダミを見て、こうつぶやきました。

『私、この花が好きなんですよ』

その先生は、数年後帰らぬ人となりました。ほんの些細な経験ですが、一生忘れられない思い出となりました。

それまであまり見向きもしなかったドクダミの花が、なぜかとても高貴な花に思えてきたのです。

 

実際のドクダミは、むしろ寂しい趣の花です。しかもかなり強い異臭がします。とても人に好かれる草だと思えません。でもなかにはこの花の熱烈な愛好者がいらっしゃるんですね。

それから気をつけてみると、ドクダミファンは意外にも少なくないことが、判明したんです。

とある酒場で働く新潟出身の女性も、ファンの一人でした。彼女がこの花を好きになったのは、この花が咲き始めると、海に入るのを許されたからなんだそう。冷たい日本海は、ドクダミの季節になってようやく泳げるようになるらしいのです。

 

 

広辞苑を編んだ新村出は、かつてドクダミを『無比ない花』と書いていました。探せば思わぬところにドクダミの理解者がいらっしゃるのかもしれません。

そんなロマンチックな話しでなくとも、ある程度の年配者なら、この草にご厄介になった人は、少なくないはずです。

ドクダミは別名『十薬』と言います。さまざまな薬効があるという意味です。生の葉をもんだり、蒸して患部に貼ると、腫れ物の吸出しに効果があると言われていました。

風呂に入れれば腰の痛みを癒し、煎じた汁は下剤や駆虫剤になりました。さらに尿道炎にも効いたそうです。

 

ドクダミの白い部分は、花びらではありません。総苞と呼ばれるものであり、その中心にある黄色いのが、花弁の無い小花の集合体です。小花をよく観察すると、先が三つに分かれた雌しべと、三本の雄しべから出来ています。花の器官が三で構成されているのは、双子葉植物では珍しい部類なんだそうです。

最近ではドクダミを双子葉植物ではなく、単子葉植物に分類しなおす動きもあるようですが、素人にはどうでも良いことですね。

 

~どくだみの白き小花は過ぎんとす 飽けるが如き五月雨降りて~

梅雨のさなか、雑木林のほとりに白く浮かんでいるドクダミの花は、親しんでいると、その異臭さえ懐かしく思えて来ます。

鹿児島では、『ガラッパ草が咲くと河童が渡る』と言う伝説があるそうです。ガラッパとは、河童のこと。河童が渡るというのは、シギやチドリが夜鳴きしながら、渡っていくさまを表したものらしいです。

村の生活では、いつでも花が生活の指標なんですね。

 

参考・・・『12ヶ月の自然観察』、『雑木林の博物誌』、『日本の樹木、野草図鑑』