認知行動療法には、自分を大切に出来ない考え方が、いくつも掲げられています。その中でも神経質者に多いのが、『すべき思考』と呼ばれるものです。
たとえば他人から、『こうした方が良い』などとアドバイスされると、神経質者の頭の中で、『こうするべきだ』と翻訳されてしまいます。
ずいぶん意味が変わりますよね。
神経質は『~でなければならない』、『~であらねばならない』と言う考え方が好きです。『~すべき』は英語でmustですから、いつも"~ねばならない"の考えに凝り固まっている人を、musturbationなどと揶揄したりします。
対人恐怖の人が、人前で堂々としゃべらなければならない。
等と考えるのも、『~すべき』思考です。火の上に手をかざして、尚熱くないと思わなければならないとする考え方と同じです。我慢の結果、やけどをするだけです。
さて、今は森田の時間ではありませんから、認知行動療法的に考えていきます。
そうです。感じ方の元となる考え方の癖 = 認知を修正する必要がありますよね。
たとえば、『こうでなければならない』と言うのを、『こうであるに越したことはない』と修正します。
『誰にでも好かれなければならない』を、『好かれるに越したことは無いが、嫌われることも有る』と言う風に修正します。
『修正』と簡単に言いましたが、今まで何十年と染み付いた考え方は、そう簡単に修正できません。
そこで治療者と患者の間で、何度もセッションが行なわれるのです。それだけ認知を修正するのは大変なんですね。
ここでは『自動思考記録表』について説明します。下記の表がパニック障害における自動思考記録表です。いろいろな形式があります。
まずは『状況』を書き込みます。
ここでは、『上司に怒鳴られた』とします。
次にそのときの気分、ないし落ち込み度を記入します。
たとえば怒り80%、悔しさ90%、不安60%。落ち込み度100%だったりします。
そのとき感じた自動思考の内容を記入します。
『また叱られた。俺って本当にダメ人間だ』とか、
『上司は自分を嫌いに違いない』と言うようなものです。
次に、上記の思考に至った根拠を書き込みます。
たとえば、『他人はあそこまで厳しく叱らなかった』とか、『前回の失敗の時も叱られた』とか、『叱られるのはいつも自分だけ』。
今度は、上記の根拠を異なる角度から見つめていきます。具体的には根拠に対する反対の証拠を挙げていくものです。ここが最も難しいかもしれませんね。
たとえば、『売り上げが上がらない時も有る』、
『自分に期待しているから、叱ったのかもしれない』、
『優しく諭されたこともあった』
と言うように、自動思考と矛盾している事実を書き並べていくものです。
そして『適応思考』と言って、反証を含めた事実を良くかんがみて、改めて、冒頭の状況をどう解釈するかを、書き込んでいきます。
たとえば、『失敗するときも有るし、うまく行ったときも有る。波が有るのが人間なのだから、気楽に考えて行こう』と言う風に。
最後に再び『現在の気分』を書き込みます。
怒り10%、悔しさ30%、不安30%、希望30%となりました。
めでたしめでたし。
勿論セッションではこれ何度も繰り返しますが、自分の考え方の癖を知るだけでもずいぶん勉強になりますよね。