"欲望"は捨てられず | 神経質逍遥(神経質礼賛ブログ)

神経質逍遥(神経質礼賛ブログ)

何のとりえもない平凡で臆病者の神経質者が語る森田的生き方ブログです。

以前、このブログで、『投影』と言う心理現象を紹介しました。簡単に言うと、自分に不都合な感情などを無意識下に抑圧しすぎると、抑圧しきれない感情が外に出て行ってしまうことがあります。その中のひとつが『投影』と呼ばれる現象です。

 

たとえば自分の『意気地の無さ』を、無いものとして無意識に抑圧しても、抑圧しきれない分が他人の姿の中に『投影』されてしまうのです。具体的には、なぜか自分の周りには『意気地の無い』人間が集まっているように感じます。非常に不愉快ですよね。だって自分の見たくないところを、他人の言動によって無理矢理見せつけられるのですから。

 

 

実は、昨日からお話している『理屈』を並べなければならない理由のひとつに、この『投影』と言う現象が一枚絡んでいるのです。

え? 意味がわからない? それでは順を追って説明しましょう。

 

皆さんがたとえば受験勉強をするとします。ご経験の有る方も多いと思いますが、予定を立てて行おうとしても中々予定通りに行きませんよね。急な用事が入ったり、せっかく時間が出来たのに、体がだるくてまったくやる気がしなかったり、ああ、私ってなんてだめな人間なんだぁ・・・。 こんな経験ありますよね。

 

そんな自分に嫌気が差している頃、こんなことも考えませんでしたか?

ああ、自分が怠けている時にも友達はサクサク勉強を進めているんだろうなぁ。何で友達はすいすい出来て、私は出来ないんだろうな。いいなぁ、みんな楽して勉強できて・・・

 

勿論友人だって苦労しながら勉強しているんです。それは頭ではわかりますよね。でもなぜか、上記のような考えが頭を占領し、友人に対して羨みとやっかみの気持ちを抱いてしまいます。これって精神衛生上非常によろしくありません。

実は、これも『投影』なんです。

 

友人が楽して勉強が進んでいると言うのは、勿論事実ではありません。その誤ったものの見方の大元は、ほかならぬあなた自身の中に有るのです。

意識しているかはともかく、あなたは『ラクに勉強したい』と言う欲求をお持ちでいらっしゃるのです。

 

ムシの良い話しですよね。合格はしたい。でも勉強は出来れば苦痛や苦労は最小限でありたい。そんな気持ちが上記のような『屁理屈』を考え出したのです。でもこんなムシの良すぎる考えて、おおっぴらに出来ませんよね。自分でも恥ずかしくなってしまいます。だから無意識に抑圧してしまうんです。

もうお分かりですね。

抑圧したあなたの『屁理屈』が、そのまま友人に投影されてしまっているのです。

 

 

『志望校に合格したい』のほかにも、私達はさまざまな欲望を抱えています。欲望を抱えていることは、楽ではありません。できれば心の負担を軽くするために、捨ててしまいたいとも思います。でもそれは不可能です。こんなとき私達が良くやるのは、欲望そのものを抑圧してしまうことなんです。抑圧が強いと、本人さえも自分の欲望に気づかないことも有ります。

 

森田先生は、こう言っています。

出世したいと言う気持ちを忘れ、上司の前で必要な事も伝えられず、嫁さんが欲しいと言う欲望を忘れ、水商売の女に手を出そうとするのは、みな自分の心底に有る捨てがたき欲望の存在を忘れているからである。

 

上司の前で用件が言えないのは、赤面するためである。

水商売の女と遊ぶのは、将来の妻に対する予行演習である。

こんな屁理屈を平気で立てることになる。

それは本来の欲望を真っ正直に抱えて生きるのは、とてつもな辛いことなので、ほんのちょっと、その苦痛から逃れようとする凡人のはかなき足掻きなのであろう。

 

参考・・・『森田正馬全集5巻』