津波のような問い合わせが一段落した頃、事務局では手紙やはがきで訴えられてきた悩みの内容について調査が進められていた。いわゆる『アンケート』では無いので、集計するのに非常に困難を極めたが、どうにか次に示すような結果が得られたのだった。
訴えの中で、明らかに精神の病が疑われるものや、内容が不明瞭なものを除いたら、おおよそ次の五つに大別できることが判明した。
①強迫神経症的訴えが強いもの
②不安神経症的訴えが強いもの
③身体症状が主訴となるもの
④新聞記事で、自分もそうではないか、似たような症状があると訴えるもの
⑤いわゆる『心の病』とは直接関係のないもの
ここでは、①~③について、どのようなものなのか、読者の皆様と共に見ていくことにしよう。
なお、ここで使用する『病名』は、森田先生自身が独自に分類したもので、現在医療の分野で使用されている『疾病および関連保険問題の国際統計分類(ICD)』や米国で定められた『精神障害の診断と統計の手引き(DSM)』などの分類とは異なっているので、ご注意願いたい。
①強迫神経症とは
強迫神経症と呼ばれるものには、次のような症状がある。
人の視線が気になって動作がぎごちなくなる、人前で緊張してしまい、話が出来ない、自分の視線のやり場に困る。自分の視線が相手を不快にする。人前で赤面する。顔がこわばって不愉快にさせてしまう、などの症状により、人前に出るのを恐れてしまう『対人恐怖症』
がんや高血圧、梅毒や精神病になるのでは無いかと恐れおののき、仕事も家事も手につかなくなる『疾病恐怖症』
戸締りやガスの元栓などを何回も確認しないと気がすまない。ポストに手紙を投函するも、ちゃんと入ったかどうか手を突っ込んで確認しないと不安であるという『不完全恐怖症』
雑念や雑音が気になって仕事や勉強に集中できないと訴える『雑念恐怖症』
トイレの後、汚物がついているような気がして、何回も手を洗わずには居られない『不潔恐怖症』
何か物がなくなると、自分が疑いを掛けられているように感じてしまう『嫌疑恐怖症』
ナイフや針の尖ったものを見ると、それが刺さるのではないかと恐怖する『先端恐怖症』
高い場所や下が見えるエスカレーターが恐怖の対象となる『高所恐怖症』
数や道順、方向や衣類などに縁起を担がなければ不安になる『縁起恐怖症』
自分の身体から悪臭が出ているため、人に不快感与えると訴える『体臭恐怖症』あるいは『自己臭恐怖症』
自分の唾を飲み込む音が、相手を不快にさせていると思いこむ『唾恐怖症』
まだまだあるのだが、きりがないのでここいらにしておく。
いずれも一つの観念にとらわれ、たえずそのことが気になって心が流れていかない状態になっているものである。