末期がんだというので

一家で伯父のお見舞いに行った

抱える私の顔が見えなくなりそうなほど

大きな花束を持って病室のドアを開けると

真正面に

こちらを向いて座る伯父がいた

私もだが、伯父の

めちゃくちゃ驚いた顔が印象的だった

 

この後、少しして亡くなった伯父は

頭がよくてはっきりものを言うタイプ

私が小さいころはよく遊んでくれたのだが

手加減がない上に鋭いからか

いつも最後には泣かされていた

 

私が小学生の頃らしいが

私をピアニストにするのだと息巻く母に

「将来ピアニストになるような子は

 もうこのくらいの年には

 海外で演奏旅行をしていないと」

と言い、諦めさせてくれたらしい

 

そんな伯父は子どもの頃から頭が良く

県で一番の難関高校を受験する際の

「落ちたら坊主になる」発言の責任をとって

中学卒業と同時に高野山に入った

 

修行の後、寺の小僧を経て

住職となった伯父の大きな古い寺には不似合いな

新しくて美しい装丁の美術全集があって

私のお気に入りだった

 

決して多くはない伯父と私との会話は

今思うと伯父が驚くシーンばかりで

よく覚えているのは

高校1年夏休みに友人と3人だけで

この伯父のところに

観光がてら旅行した時のこと

 

伯父が、

どこを観光したいのかを聞いてきたのだ

当時の私は、「意志」というものが

自分の中にあるとは

微塵も考えたことがなく

かなり戸惑ったが

伯父にとっては当然の質問だったらしい

 

どうやら伯父は私に

色々と期待していたようで

戸惑う私に

少し失望したような

驚いたような顔をしていた

 

自分のお寺の参道を

コンクリートと割れ瓦で

小洒落たデザインを考えて

手作りしたりしていた伯父は

私に似ていたのだなと

だんだん気づくようになった