『どこへ行こうか、心理療法』(創元社、2022年)を読んだ。神田橋條治先生と3人の達人心理療法家の対談集である。
神田橋先生がイギリス留学から帰ってきた時、迎えた西園昌久先生の「僕が留学から帰ってきた時のことを思い出したよ」というフレーズに、神田橋先生は、相手の主体性を引き出す言い方を読み取っている。この神田橋先生の着眼はすごいと感じた。神田橋先生は、ちょっとした語尾や言い回しの取り扱いが絶秒である。僕の中では、勝手に神田橋先生を「語尾のアーティスト」と呼ばせていただいている。
ほかにもたくさん、神田橋先生のフレーズに魅了された。いくつか抜き書きしておく。
「出会いに別れはない。(中略)別れがあるなら、本当には出会ってないんだと思うんですね」
「ちょっと皮肉で言うと、クライエントは治らなくても治療者は治る」
「その質問にはあなたの意図が込められているから、その質問を忘れないようにいつも持っておくと、きっといいよ」
「文字を読み書きできない人は、素晴らしい表情をしている」
語尾のアーティストは、やろうと思えばいくらでも無限に文章を続けられる日本語だからこそ成り立つ。語尾の豊かさが思考の自由さを担保しているといってもよい。語尾砂漠は、そのまま生命のエネルギー減少を示唆する。語尾療法なんてのも良いのかもしれない。