2019/01/03  1  なかにし礼「夜の歌」  毎日新聞出版   | 虚弱爺の俗物的日録

虚弱爺の俗物的日録

「一身にして二生を経(ふ)る」の二生目を生きるにあたって、サンデー毎日の日常を記録したい。なるがままに。

2019/01/03  1  なかにし礼「夜の歌」  毎日新聞出版  2016年12月10日発行

初出  サンデー毎日2015年6月~2016年9月の連載



著者は1938年中国黒竜江省(旧満州)牡丹江市生まれ。その著者が6歳で敗戦を迎えてから食道がん克服した2015年までの自伝的回想が週100枚のペースでサンデー毎日に1年3か月にわたって連載された私小説的長編。

昭和40年、心臓発作に襲われたとき、夢の中で「ゴースト」が現れる。このゴーストによって、過去の記憶が呼び覚まされ、生きることの指針が示される。過去の記憶は、中国黒竜江省で敗戦を迎える直前にソ連軍が満州に侵攻してきたときから呼び起こされる。関東軍は民間人を置き去りにして真っ先に逃亡し、置き去りにされた著者の一家はじめ多くの民間人がソ連軍の機銃掃射に晒され戦車が迫ってくる阿鼻叫喚の恐怖の中で飢えと寒さに苦しみながら逃避行を続ける。完全にソ連軍の支配下に置かれた抑留者たちの中で、女性たちはソ連兵の性の慰み者となるのだが、その女性たちを選んでソ連軍に差し出す日本人抑留者のソ連軍協力者がいるのだ。その協力者の妻や娘は積極的な協力の見返りに性の慰み者になることが回避される。この引き揚げ逃避行の中でわずか6~8歳になる「れい」少年は、飢えと寒さと恐怖と不条理さと軍は国民など守ってくれないのだという救いようのない絶望の一切を経験してしまう。

そのご「礼」少年は、超売れっ子作詞家になり、作曲鈴木邦彦、作詞なかにし礼による黛ジュンの「恋のフーガ」が大ヒットする。歌詞は表面的には裏切られた恋の歌であるが、実は、満州国、日本、日本軍によって裏切られた満州国開拓民の慟哭の歌でもあったらしい。
   ハレルヤ  花が散っても
   ハレルヤ  風のせいじゃない
   ハレルヤ  沈む夕陽は
   ハレルヤ  止められない
   愛されたくて
   愛したんじゃない
   燃える想いを
   あなたにぶっつけただけなの
   帰らぬあなたの夢が
   今夜も 私を泣かす

書けば大ヒットの著者は、当然、印税も莫大なのだが、稼いだ傍から知らないうちに実兄が勝手放題に使い込んで大借金を抱え込まされ、兄が死んだとき「万歳!」と叫んだという。