marginalia

この夏はボロボロに体調を崩していました。そんなわけでひさしぶりの更新です。

東京創元社の『紙魚の手帖 vol.25 OCTOBER 2025』の書評欄でSFを担当しています。

 

 

今回紹介したのは以下の6作品です。

  • 『絶滅の牙』レイ・ネイラー/金子浩訳(創元SF文庫)
  • 『宙の復讐者』エミリー・ティッシュ/金子浩訳(早川書房)
  • 『ウは宇宙ヤバイのウ2 天の光はすべて詐欺』宮澤伊織(ハヤカワ文庫JA)
  • 『ときときチャンネル ない天気作ってみた』宮澤伊織(創元日本SF叢書)
  • 『レモネードに彗星』灰谷魚(KADOKAWA)
  • 『聖シスコ電説』荒巻義雄(小鳥遊書房)
今回は海外作品が少なめで迷っていたんですが〆切直前にゲラで読ませてもらえた『絶滅の牙』が抜群に面白かったので文句なしにイチオシにしました。遺伝子工学で蘇ったマンモスに百年前に死んだ女性科学者の意識を移植して群を率いてもらうというめちゃくちゃな計画のお話ですが、密猟者との戦いを軸に身体と記憶をめぐる思弁SFとして展開されるのがめっちゃかっこいいのです。これはオススメですねー。
 

8月12日発売の東京創元社のエンタメ小説誌『紙魚の手帖vol.24』夏のSF特集のいくつかの企画に参加しています。

 

 

まず、座談会「まずはここから! SF入門のための10の名作短編」の国内編に参加して、オススメのSF短編をリストアップしていろいろ語っております。私はここ十年ほどの作品を中心にリストを作りました。過去の「名作」を挙げるよりもその方が自分にはしっくりくるような気がしたんですが、座談会の時には気づかなかったものの、よく考えると自分が批評家としてデビューした後の作品の方がより記憶鮮明に残っている、ということだったのかもしれません。思えば長めのSF評論でも書いてみたいと思うのはいつも同時代作家たちの作品だったりします。

 

もう一つ、SF BOOKREVIEWの拡大版で、24年の8月以降の注目国内作品を8作選んで紹介しています。

  • 『伊藤典夫評論集成』伊藤典夫(国書刊行会)
  • 『山手線が転生して加速器になりました。』松崎有理(光文社文庫)
  • 『一億年のテレスコープ』春暮康一(早川書房)
  • 『風になるにはまだ』笹原千波(創元日本SF叢書)
  • 『まるで渡り鳥のように』藤井太洋(創元日本SF叢書)
  • 『鹽津城』飛浩隆(河出書房新社)
  • 『エルギスキへの旅』森下一仁(プターク書房)
  • 『去年、本能寺で』円城塔(新潮社)

このところずっと評論を選んでいなかったのですが、今回ばかりはメインにするしかないと思ってどーんと書きました。藤井太洋さんは上のオススメ短編に入れたかった作家さんで、その時に候補で考えていたのが『まるで渡り鳥のように』巻頭に収録されている「ヴァンテアン」でした。藤井さんの作品にあるソフィスティケートされた反逆精神がなかなか好きだったりします。

 

東京創元社さまからいただいた本を紹介します。

『行方知れずの仲人屋 妖怪の子、育てます5』廣嶋玲子(創元推理文庫)

 

 

人気シリーズの最新巻です。力を持った結晶を持って十郎が逃亡、恋人のあせびは打ちのめされて、というお話で、結構シリアスなのにどこかのんびりしているのは人外の者たちだからでしょうか。きちんと大団円に(まあ大体)なるので安心して読める作品です。

 

『時の果てのフェブラリー』山本弘(創元SF文庫)

 

 

先日物故されたSF作家の実質的な第一長編です(再刊されたときに加筆修正されたヴァージョン)。そのハードSF的な緻密な設定(タイトルの赤方偏移世界、ですね)をきちっと反映した描写はまったく古びておらず溌剌としたアイディアの奔騰を楽しめます。未完の続編の冒頭部が収録されていて、いろいろな事情から放置されていたのでしょうが返す返すも病に斃れられたのが残念でなりません。

 

『バベル』R.F.クァン著/古沢嘉通訳

 

 

 

19世紀のオックスフォードを舞台に、世界各地から連れてこられた言語のエクスパートたちが、英国の覇権を支える二つの言語の意味の違いからエネルギーを得る魔法技術を学んでいくのだが、やがて自分たちのアイデンティティとの相克に苦しみ、帝国に対抗する秘密組織の活動にのめり込んでいく、という物語。テロリズムが重い主題になっていて、その結末は非常に苦いが、読み応えたっぷりの長編小説だ。主要キャラクターの一人がハイチ出身の黒人で、フランス語を話すという設定になっているのだが、いうまでもなくハイチ黒人のフランス語はビジン語であり、彼女は「正しいフランス語」を話しているであろうと思ってその来歴を想像したりした。ハイチは黒人による革命(独立)に成功したものの、その後過酷な運命を辿ったのだったとか。

 

『月のケーキ』ジョーン・エイキン著/三辺律子訳(創元推理文庫)

 

 

幻想短編集の文庫化です。ややダークめの児童文学ですね。扉に一つずつさかたきよこさんのイラストが入っていて雰囲気を盛り上げてくれています。