第71回カンヌ国際映画祭で、最高賞のパルムドールを受賞した映画『万引き家族』。

 

是枝裕和監督の底力に圧倒された。<家族と絆>をテーマに、極めてニュートラルな位置から「善と悪」「建前と本音」「愛と打算」「親と子」「身内と他人」「真実とウソ」「理想と現実」「幸せと不幸せ」……それぞれの対極を両睨み(にらみ)する。

 

古びた平屋に暮らす5人。老女・初枝(樹木希林)の年金を頼りしながら、足りない物資は、万引きで調達していた。ある日、団地のベランダで寒さに震えていた幼い女の子を、治(リリー・フランキー)が家に連れ帰る。その女の子の体には無数のアザや傷跡があった。不憫に思った信代(安藤サクラ)は、その子を自分の手で育てることにするが……。
           
日本の最下層を思わせる暮らしから放たれる「混じり気のない笑い声」や「屈託のない笑顔」を、私たちはどう受け取るべきか。法律や道徳、規範、倫理、世論……といったモノサシで測りすぎる世の中だからこそ、この作品があぶり出す“決して測りきれないものの正体”に心を揺り動かされるのだろう。
          
日本社会が抱える問題点に鋭く斬り込みながら、それでいて押し付けがましくならないよう冷静さを保った2時間1分。この作品は、エンターテインメントという枠を突き破り、観客一人ひとりの「色眼鏡」の存在を浮き彫りにする“挑発”でもある。
          
あなたにとって大切なものは何ですか? お金? 血縁? 正しさ? 劇中に登場する“見て見ぬふりをする”ある人の姿勢が、是枝監督のひとつの回答なのかもしれない。「せつなさ」と「清々しさ」という相反する2つの余韻を残しながら物語は幕を降ろす。

 

監督・脚本:是枝裕和 出演者:リリー・フランキー/安藤サクラ/松岡茉優/池松壮亮/城桧吏/佐々木みゆ/緒形直人/森口瑤子/山田裕貴/片山萌美/柄本明/高良健吾/池脇千鶴/樹木希林ほか

 

映画『万引き家族』

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