わが家は生協でよく食料を調達をする。

毎週、注文した食材を担当者が自宅まで配達してくれるのだ。

ある日の昼下がり。

チャイムが鳴った。生協だった。

妻はそのとき、大福餅を食べていて、口をもぐもぐさせていた。

そんなとき、皆さんならどうします?

私だったらこうします。

大福餅を皿か何かの上に置き、玄関へと向かう。

皆さんの多くも、似た行動をとるのではないでしょうか。

できれば、ほお張っていた大福餅は飲み込みたいし、そうそう、口の周りについた白い粉も拭き取っておきたい。

妥当な行動ではないでしょうか。

ところが妻は、私が目を離したすきに……

口いっぱいに大福餅をほおばったまま、しかも、片手に大福餅を持ったまま(!)、玄関へ行ってしまった……。



驚いた生協の若い男性担当者、当然、言いますがな。

「あっ、お食事のところスイマセン」

そんなとき皆さんならどう答えます?

私ならこう答えます。

「あっ、スイマセン、こんなの持ったまま」(しまった!という雰囲気を醸し出しつつ)

これまた、かなり妥当なリアクションではないかと。

しかしワタシ、妻を見くびってました(15年近く一緒に居ながら)。

「あっ、お食事のところスイマセン」と謝る担当者の言葉に対して——

「食事じゃありません。お餅です」

こう言ったのです。

空耳ではありません。

自分の滑稽な姿に気づき、恥じらってもいい場面で、相手の言葉を否定し、なおかつ「お餅です」と言ってのけるとは……。

大福餅がそれほどおいしかったのだろうか?

それとも、おやつである大福餅を「お食事」と言われたことに傷ついたのか?

真意は分からない。



続きがある。

妻の片手が、大福餅でふさがれているため、生協の担当者がなかなか食材を渡せないでいる。

そのときの担当者の気持ちを代弁するなら、こんな感じでしょう。

「今からでも遅くはないから、オクサン、その大福餅をどこかに置いたらどうですか?」

いや、ゼッタイ思っていたと思います。

もちろん、そんな空気が読めるような妻ではありません(読めるなら、最初から大福餅を持って玄関へは行かないでしょう)。

優しい担当者は、

「あのー、ここに置いておきましょうか?」と言う。

が、ここでも読めないものは読めない。

「いえ、受け取ります」

相変わらず大福餅を片手に握りしめながら、

口の周りに白い粉をつけたまま、

ある意味、毅然とした態度。

「はあ、じゃあまあ…」

仕方なく、妻の空いたもう片手に、野菜がぎっしり詰まった袋を渡す担当者。

予想以上に重たかったらしく、ゆらゆら揺れながら、それを受け取る妻。

今さら助け船を出すこともできずに、わが妻を哀れむワタシ。

妻は頑張って食材を受け取ったが、もう片方の手に握られた大福餅からは……

……ハラハラと白い粉が舞い落ちていた。

季節外れの雪が舞う。

そんなわが家の、愛すべき日常。