ただ、怖いだけ
ただ、
怖がっているだけ
怒っているあの人も
どなっているあの人も
暴力をふるうあの人も
他人を批判せずにいられないあの人も
言いたいことが言えなくて
黙っているあの人も
やりたいことができなくて
立ち止まったままのあの人も
そして
それらを見張りながら
同じことをしている私も
ただただ
怖くて
しかたがないだけ
私たちは
同じ
とてつもなく
怖がっているという点で
同じ
いったい何が
そんなに怖いのだろう
たぶん
責められることが
怖いんだ
自分の“罪”を
責められることが
怖いんだ
この世界に
生まれてきた“罪”
生まれてきただけで
誰かの手を煩わせ
誰かの負担になり
誰かを傷つけ続けている
そんな
罪がある という 幻想
私は悪くないんだ！
私は間違っていないんだ！
そうやって大きな声で
叫びたい
誰かにそう言ってもらいたい
誰かにそう許してもらいたい
許されたくて
許されたくて
しかたがないのに
許されるわけがない
とも信じてもいる
私には
罪がある
という
強い強い幻想
私には
罪がある
それを人に悟られてはいけない
誰にも
バレてはいけない
だから
誰かの役に立ちたい
誰かに認められたい
すごいんだと言われたい
それによって
私は悪くないんだ！
私は間違っていないんだ！
そう証明したい
それなのに
ああ、
また人を傷つけてしまった
また人を悲しませてしまった
また人をがっかりさせてしまった
ああ
また間違ってしまった
また罪を犯してしまった
私たちは
そうやって
幻想だったものを
本当らしきものへと
どんどんどんどん
色を濃くしていく
ああやっぱり
あの時も
この時も
こんなふうにしてしまった
こんなふうに言われた
間違いない
私には罪がある
そうだね
確かに
間違ってきたかもしれない
罪がある という色眼鏡で
この世界を見てきてしまった
私たちに間違いがあるとすれば
その色眼鏡を通してみているものを
事実だと勘違いしてしまったことだ
私の中に罪がある
あの人に罪がある
その色眼鏡こそが間違いであり
それを通してみた世界が真実だと
信じてしまっていたことこそが罪だ
罪は
幻
その幻を
いつの間にか信じてしまった
みんな
みんな
ただ、怖かっただけ
あの人も
私も
幻を
ただ、怖がっていただけ
もう
いいじゃないか
ただ
怖かっただけなんだから
もう
いいじゃないか
それ
幻 だったんだから
怖くて怖くて
固く閉ざした殻を
ほんの少しひらく
また怖くなって
ひゅっと閉じて
やっぱりひらきたくなって
えいっとひらく
少しずつ
本当に近づいていく
怖くて怖くて
出せなかった
本当の気持ちに
少しずつ少しずつ
近づいていく
生きていくって
そんなもんなのかもしれない
そうして
一生をかけて
少しずつ少しずつ
幻に気づき
自分のことを許していくのかもしれない
そうして
本当は許されていたのだという事実を
一生をかけて
受け取っていくのかもしれない
なあんだ
みんなで
幻を
怖がっていたのか
そうやって
ぷっと笑える日は
もうすぐそこに
きているのかもしれないね
おわり
＊＊＊＊＊＊
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