ローカルライター日記 -3ページ目

空想屋9

 この日は、午後から講演会とテレビ出演の予定があり、診察をする予定はなかったが、「診察料をいくら払ってもかまわないから、空いている時間に早めに入れて欲しい」 というお願いがあり、急遽午前中の空いている時間に入れたのだ。 松田と名乗る男は、三十前後のサラリーマン。お忙しいのに無理に時間取っていただき、大変恐縮です、と低姿勢に挨拶してくる。「こちらも商売ですから。一人でも私の空想で救われる人がいれば・・・」 俺が言うと、松田が今までとは違う殺気のある目線で俺を睨むので、思わず言葉が詰まり目を逸らしてしまった。 再び松田を見ると、ここに入ってきた時と同じ真面目な表情をしている。俺の見間違いだったのか? 気を取り直して診察を開始する。「それで、どういったご相談でしょうか?」「はい・・・許せない男がいるんです」「許せない男・・・ですか?」「はい。その男を処罰してほしい」「処罰・・・ですか?」「なんなら僕が、この男を処罰してもかまわない」 松田の顔が再び殺気に満ちた表情に変わる。やはり気のせいじゃなかった。「ええとですね。一応確認しておきますが、ここは空想屋であって、お仕置きや仕返しを依頼する場所ではありませんよ」 俺が言うと、そんなことはわかっています、と言い話を始めた。「僕の妹の話です・・・」 松田には二つ下の妹がいる。子供の頃から一度も喧嘩をしたことのない仲の良い兄妹だったという。 高校でバレーボール部に所属した妹は、チームのレギュラーとして活躍し県大会にも出場した。バレー部の顧問は石川先生。同じ高校に通っていた松田の担任でもあった。 「とても優しい先生で生徒にも人気がありました。そして・・・妹は、先生として以上の感情を石川先生に抱いてしまいました」 よくある話ですね、と当たり障りのない言葉を俺は返す。「でも石川先生には妻と子供がいます」 それもよくある話ですね、と俺は返す。「卒業式の日。妹は先生に告白しました」 よくある話ですね、と言おうとしたが、松田に睨まれてやめた。「妹は・・・振られました」 そう言うと松田は、よくある話でしょ、と俺に聞く。俺は余計なことを言わず頷くだけにした。  高校を卒業しOLになった松田の妹は、先生のことなど忘れ普通にOL生活を満喫していたという。ところが、二年経った二十歳のある日。バレーボール部の同窓会が行われ、その会場で二年ぶりに石川先生と再会する。  俺はこの話を初めて聞いた。この松田という男にも会ったことがない。ところが、これから松田が話すことが俺には次々わかってしまう。空想屋としての勘なのか、それともよくある話だからなのか?  同窓会の夜、松田の妹と石川先生は大人の関係になってしまう。 「忘れかけていた石川先生への思いが再燃した妹は、仕事も手につかなくなるほど悩んでしまいます。悩みに悩んだ妹は、ある場所に相談に行きます。そこは・・・」  松田の目線がずっと俺に突き刺さったままだ。君平想二としては、目線を逸らし楽になりたいが、診察料をもらって話を聞いている空想屋としては、ここで相手から逃げるわけにはいかない。もっとも、額にびっしょりとかいた汗は、俺の敗北をすでに意味していたのかも知れないが・・・。 「空想屋に行けば、どんな辛く苦しい悩みも空想で解決してくれる。妹は・・・妙子は悩んだ末、空想屋に自分の気持ちを打ち明けました」  三ヶ月前。大好きな人を空想で忘れたいと相談に来た患者がいた。 名前は、松田妙子。 妻子のいる人を好きになり、一度だけ関係を結んでしまった。だけど先生は、それ以上自分と会ってくれない。頭では理解しているが、気持ちは抑えきれない。学校や家の近くまで彼を追いかけ見つめ続ける日が続き、このままでは自分が駄目になる。彼のことを忘れよう。そう決意して、妙子は空想屋にやって来た。  普通なら、好きな人を忘れるための空想、「その彼より何倍も素晴らしい人がこの五年以内にあなたの前に現れる。ところが、あなたが過去の恋を振り返りすぎるせいでその出会いを見逃してしまう、次の恋が近づいているのです。彼のことは忘れましょう」 といった言葉を投げかけ、過去を忘れさせるための空想治療を行うのだが、この日の俺は違った。 「本当にあなたは、彼を忘れられるのですか?」 この質問に彼女は動揺した。 忘れられるはずがない。いや、忘れてもらったら困るのだ。「忘れると言うことは、記憶を無くすこと。記憶が無くなるということは、思い出も消える。思い出が消えるという事は、空想することもできないのです」 彼女の動揺は最高潮に達する。「考えてみて下さい。石川先生のことを思い出すことのできなくなるあなたの生活を」 彼女は目に涙を溜め、小刻みに震えている。もう少しでとどめを刺せる。「大好きな人の記憶は、そう簡単に消すことなどできないと思いますよ。忘れたと嘘をついて無理矢理始める次の恋なんて、始まった途端にもう嘘で色褪せているに決まっています」「でも・・・先生には、奥さんと子供がいるし・・・。私さえいなければ」「私さえいなければの私に、どうしてあなたがならなければいけないのですか?」  俺は空想屋である。 空想はあくまでも空の想いを、思いつきで言葉にするだけ。その言葉には根拠も科学的な定義もいらない。あくまでも頭の中で思いついたまま、作り出したことなのだ。 だからこそ、無責任に一人の人間の人生を弄ぶことだって簡単なのだ。  俺は、でっち上げの空想論を語る。 俺は、メモ用紙に『空想→実想』と書く。「実想。辞書には載っていない言葉、私が作りました。私はこれまで何百人と空想の世界で悩む患者達を見てきました。そのほとんどはあくまでも空っぽ。つまり本物の空想患者でした。彼らは、現実から逃げるため、ストレスを別の何かに置き換え、平凡でつまらない自分を否定するために心の中に空想の世界を作っているのです。私の仕事は簡単です。空想の世界で生きている彼らのプライドを壊さず、そして空想とごちゃ混ぜにならない正直な現実を空想の片隅にさり気なく入れてあげる。それだけで患者も空想の中の自分と現実の自分をきちんと分けることができる。治療法は簡単なものですよ」 妙子は、俺の書いた『実想』の文字をジッと見つめながら俺に聞く。「実想の場合・・・。どういった治療を?」「実のある想いは、空想ではどうすることもできません」 石川先生を愛しているその想いは、偽りでもその場しのぎの愛でもない。だから空想ではどうすることもできない。「実想は、実らなければならない。そして、一つの想いを実らす為には、何かを壊さなくてはならない。全て傷つかず、誰もが幸せになれて、何の障害も起こらない。そんな幸せは真実ではない。幸せという漢字は辛いという字に似ている。本当の幸せを掴むまでは、辛い日々が続くものなのです。しかし、ほんの一本の線を書き足すことで辛いは幸せに変わる。その一本の線、それが実想なのです」 俺の話を聞き終えた彼女は、何かが吹っ切れたように笑顔を見せ、何度も何度も俺に礼を言ってから診療室をあとにした。  これが三ヶ月前。

三日連続

最近デスクワーク作業の方が増えてきた。

編集業務を兼ねることが増えたのと、

コラムや評論のような取材を必要としない仕事が増えているから。

で、いつ以来かな、三日連続朝から夜まで取材に行った。

取材自体は楽しい。

見たことのないものを見れたり

取材しない限り体験できないことを得たり

そこで聞く話なんかが創作に生きたりもするし

とはいっても4時間も5時間も撮影に付き合ったり偉いさんと話すのはやはり疲れる。

一昨日なんか夜八時に家に着いて仕事が山ほど残ってるのに

何もしたくなくてずっとボケーッとしてた

昨日は23時過ぎまで働いて

コンビニで買ったビール2缶と日本酒ワンカップでピザ3枚という

何人やねん?の飲み方で疲れでそのまま潰れてバタンキュー


取材はひとまず完了。

も、来週からは3月発売の書籍の取材が入る。

これがまたやっかい。

ま、あと一ヵ月半。

2005年の最後も走りますか


空想屋8

「それで田之上さん、今日はどういったご用件で?」  田之上は、日常で起こった話をいつも俺に喋る。大抵ごく普通の話だったり、オチもない尻切れトンボの内容だったりする。 そして話を終えると、俺にこう言う。「さあ、空想で話を膨らませてくれ」 彼曰く、面白い話やオチがある話はいちいち俺に話すまでもなく番組で使う。空想屋の俺は、田之上の喋りネタのために空想を働かせるのだ。 「昨日街中を歩いているとね」 から始まる田之上の話は、本当にごく普通の内容だった。 要約するとこうだ。 街中を一人歩く田之上は、赤信号で横断歩道の前に立ち止まる。ふと電信柱を見ると、そこに一冊の本が捨てられている。 『パスタの美味しい作り方』というタイトルの本を拾うでもなく、田之上は先を急ぐ。 三分ほど歩くと、今度は道路にビニールごと放り捨ててあるトマトがある。いくつかのトマトは潰れている。 さらに先を急ぐと、道の真ん中に壊れたフライパンが落ちていたそうだ。 それだけ。 そんな何の変哲もない話を、いつも田之上は、俺に聞かせるのだ。「相変わらず、だからどうした?と言いたくなるような話題持ってきますねえ」 俺が言うと、「でもさ。歩いて数分で料理本、トマト、フライパンが落ちているなんて何か事件の匂いを感じない?イタリア料理店シェフ殺人事件とか。キャーッ」 戯ける田之上に、ないない、と突っ込みながら田之上の想像とは全く違う発想で、一本の空想物語が頭の中で生まれた。「わかりました。料理本、トマト、そしてフライパン。三つの共通点から物語を作りましょう」 俺が言うと、待ってました、と田之上が拍手をした。  主人公は一人の女性。仮に名前を真美とする。真美には、恋人がいる。彼の名前は健二。 二人は交際三年。一緒に住んではいないが、お互いに合鍵を持っている。 しかし合鍵を持っているとはいえ、真美は勝手に鍵を開けて健二の部屋に入ることはない。これが恋人として最低限のマナーだと考えており、必ず一本電話を入れて健二の許可をもらってから部屋に入ることにしている。 翌日にデートを控えたある日。 真美は急に仕事が入ってしまい、健二にキャンセルの電話をする。「ごめんね健二」 と謝る真美に、健二は、仕方ないよ仕事なら、と許してくれた。  ところが、である。 この日の朝、急に真美の仕事がキャンセルになり、ポッカリと時間が空いてしまった。 どうしようかなと迷った真美だったが、せっかく休みなんだからと健二の家に遊びに行くことにした。 合鍵を見つめながら真美は考える。 きっとデートのキャンセルで予定のなくなった健二は、まだ寝ているに違いない。 急に行って驚かせよう。 そうと決まればと、真美は準備する。 健二にブランチを作るために。 本棚から取りだした本は、『美味しいパスタの作り方』。 パラパラと本をめくりながら、何を作ろうか考える。 外食が多い健二の食生活には野菜が不足しているはずだ。野菜を多く取れるメニューにしよう。それと前日は深酒をして二日酔いの可能性もある。それならサッパリして食べやすい料理のほうが・・・。 いろいろと迷ったあげく、真美が選んだのはトマトスパゲティ。 何度もレシピを繰り返し読み、大事な箇所には赤線を引き準備万端で家を出る。 家を出て、三歩歩いたところで真美は健二の家に、まともな台所用品がないことに気づく。 真美は部屋に『フライパン』を取りに戻る。 健二の家に行く途中、スーパーに立ち寄り材料を買う。 さあ買い物も終え、いざ健二の家!とスーパーを出た瞬間、真美は気づいた。 トマトスパゲティの材料を買いにスーパーへ来たにも関わらず、肝心のトマトを買うのを忘れていたのだ。何とうっかりさんだこと。 慌てて店に戻り『トマト』を買う。 後で買ったため、三個のトマトは、他の材料とは別の袋に入っている。 そして真美は健二の家に到着する。 ピンポーン。 チャイムは鳴るが、物音はしない。 おかしいな? もう一度チャイムを押す。 やっぱり誰も出ない。 どこかに出かけているのか? それともまだ寝てるのか? 真美は、少し躊躇ったが合鍵を使い、健二の部屋に入る。 カーテンは閉めたまま、薄暗い部屋の中に健二は・・・いた。ベットの中に。 そして、その隣には・・・全裸の女性が眠っている。 真美の姿を見て、驚く健二。「ち、違うんだ」 必死で誤魔化そうとする健二だが、誤魔化しようがない。 真美は、無言で健二に平手打ちを浴びせ、合鍵を叩きつけ、そのまま部屋を後にした。 健二の部屋を飛び出し、目に涙をいっぱい溜め前へ前へと歩く真美。「私、何やってるんだろう?」 「来なければ良かった」という後悔や、「信じていたのに裏切られた」悔しさなどいろんな気持ちが頭の中をグルグルと回る。 赤信号で立ち止まった横断歩道の前。 真美は、手に持っている『美味しいパスタの作り方』の本を見つめる。「せっかく、健二に作ってあげようと思って張りきっていたのに・・・」 寂しさと怒りにまかせ、真美は『美味しいパスタの作り方』を電信柱に叩きつける。 一歩一歩歩きながら、惨めな気持ちになりながらも怒りが沸々と沸いてくる。「何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのよ」  怒り任せに、今度はトマトの入った袋を地面に叩き付ける。 グチャッという、生々しい音がしてビニール袋の中が真っ赤に染まる。 さらに前へ歩く真美の足元に、さっきからガンガン当たる邪魔な物体がある。 フライパンだ。 こんな重たい物まで持って、バスに揺られ真美は健二の家までやって来たのだ。 なのに、なのに・・・。 そう思うと、罪のないフライパンまで憎くて憎くて・・・。 パーン!!!!! 大きな金属音が鳴り、周囲の人々が驚いて真美の方を見る。 怒りより憎しみより、多くの人に驚いた表情で見られている恥ずかしさでいっぱいになり、真美は駆け足でこの場を立ち去った。 「家に着いた時、真美の手元には投げ損ねたトマト以外の材料だけが残っていた」 一通り話し終わると、ひたすらメモを取り続けた田之上が、なるほどねぇ、と小さな声で呟いた。「トマトスパゲティって、トマトの他に材料何入ってるの?」 と聞いてきたので、それくらい自分で調べろ、と言ってやった。「さすが空想屋だねえ。早速使わせていただくよ」「トマトスパゲティの話は好きに喋ってかまわないけど、野球の話は原型ばれないようにアレンジして下さいよ」 そう俺が言うと、わかったわかった、と曖昧に田之上は答える。  それから二週間後。「僕はあの大森を三振に打ち取ったんだ。もしあの時野球を続けていれば、僕もプロ野球で、いや大リーグの大舞台で投げていたかも知れない・・・なあんて思いながら、おっ明日はたそがれ朝野球の三回戦。相手は居酒屋青波軍か。目覚ましは三時三十分に合わせてと・・・みたいな生活してるんだろうねえ」 やっぱり奴には、秘密の話をしてはいけない。

無駄のようなの時間

週末から妻と子が実家に帰ってるため

この週末は一人で過ごした。

金曜真夜中まで仲のよい編集者とi飲んでいたこともあり

土曜日は二日酔いでグダグダ

それでも九時に起きて新聞や何やらをチェックして

腹がへったので近所のカレー屋でカレーを食うまで元気に回復。

そしてそこから驚くほどの睡眠。

寝たり起きたりだが深夜まで寝てやがる。

俺は冬眠のクマか

もっともクマはアジアシリーズを見たり(1)

明治神宮野球大会を見たり(2)

ワールドカッププレーオフを見たりはしないだろう(3)

(1)は台湾野球って生で見たいな。五輪の予選は見たことあるけど、プロのリーグを見てみたい

(2)は駒大苫小牧の安定感。やっぱこの年代の子は指導者で変わるね。

(3)はいつもプレーオフで散るオーストラリアに肩入れする自分がいた。水曜が楽しみ


で、日曜も驚くほどの寝さらし人生で

13時にやっと行動開始。

書きかけの小説を1時間ほど書いて

そのまま温泉へ。

ふわーーーっと1時間ばっか

サウナ中心に汗を流しまくり

当然のように生ビールを飲む。

汗流してビール体内入れてその行動にお金をかけてもったいない

とビールを飲まない人から見たら思うかもね

グビグビとイカの焼いたやつを相手に二杯飲んで

そのままお気に入りのそば屋へ。

玉子焼きと鴨抜きを相手に冷酒をグビグビと三杯やっつけて

最後はざるそばで締める。

クー満足なんて思ってるときに

そーいえば今日は笑い飯が小倉の番組に出るんだったと思い出す

もう終わってるな仕方ない。

うち帰ってサッカーと野球交互で見て21時からはトリック見よう

と思っていたのだが、深夜二時頃テレビを着けたままの部屋で目をさます。

ちょっとだけ野球とサッカーを見た記憶はあるが

トリックが始まる前には眠りについていた。

ああ失敗。

酒と睡眠で終わった二日間。

無駄のような気もするが

元気な状態で今月曜朝を迎えてるのだから

たまにはこーいう

サラリーマンの週末も悪くない。

さ、今週は忙しいぞ


サバクサルナイト

タイトルは意味なし。

昔ラジオ番組を作っていたときに、その番組のタイトルにつけた名前。

土曜深夜の一時間番組で、

ショートコントを50本エンドレスで流したり、

夏にクリスマスドラマをやったり、

生放送で深夜にその日の朝刊を読んでコメントしたり

マニアックの域にも達せず

ほとんど語り継がれることもリアクションもなく

半年程度で終わった番組だった。

ちなみにタイトルの意味は

サバって生ものじゃん。だから腐ったの食べたら腹壊すよね。

そんなサバが腐ったような番組を作ろう。

そんな意味でサバが腐った夜

サバクサルナイトだった。

これってタイトルだけで自分は納得しちゃって(納得するな)

番組はグダグダのまま終わっちゃいましたなあ。

と思い話トークを書いてるうちに

ほんとに書きたいことを忘れてしまったので

これにてジ・エンド

小説「空想屋7」

「よう、君平ちゃん元気?」
 そう言いながらやって来たのは、空想屋の常連である田之上龍大である。
 田之上は小劇団に所属する俳優で、テレビ、ラジオや映画にも多数出演している。
 とはいっても、定期的に仕事があるわけでもなく、そのくせ妻と三人の子供を養っており生活は大変だと時々愚痴ってくる。
 俳優としてこれといった代表作のない田之上だが、二年前から始めたラジオ番組が人気を呼び、先月発表された聴取率調査で局の最高記録を更新して局長賞をもらったほどだ。
 毎週土曜日に生放送されるこの番組は、リスナーからのメッセージや街角中継など様々なコーナーで綴られているが、田之上のフリートークが絶大の人気を誇っている。
「○○といえばですねえ・・・」
 と、その日のテーマや旬の話題から田之上が喋り始めるトークは、時には原型が無くなるほどに脱線し、まるで漫談ネタのようだ。 
田之上龍大の発想力は素晴らしいとある雑誌のコラムで、著名文化人に絶賛されたこともある。
 前出したが、田之上は空想屋・君平想二の常連である。
田之上龍大の発想力は素晴らしい。
 いえいえ・・・ねえ。

「田之上さん、この前ラジオで喋ったでしょ。マリリンモンロー女の話」
 俺が言うと、田之上は悪びれるでもなく笑う。
「そうそう。聞いた?もうスタッフにも大受けで。俺の周りにもそういう勘違い女いますってfaxやメールも多くて番組盛り上がったよ」
 マリリンモンロー女とは、先月訪れた患者のことである。

「君平さん。私ね・・・あっ、絶対笑わないで下さいね」
 その客は、そう何度も私に笑わないでと念を押す。そして、私はマリリンモンローの生まれ変わりなの、と真顔で言ったのだ。
「ほお、なぜそう思われるんですか?」
 笑わないことを約束させられた私は、反則ギリギリの温かい笑顔を彼女に向けながらその理由を聞く。
「私わかるんです。モンローの苦悩や辛さが。モンローは美しすぎたから、それ故に一般人ができる、当たり前の幸せを得ることができなかった。今度生まれ変わる時は見た目で判断されるような人間にはなりたくない。そう思ったモンローは、ごく普通の人生を求め私に生まれ変わったんです」
 ちなみにこの女性、身長は百五十センチ前後。体重は百キロはあると思われる。そして顔は、先日横綱に昇進した関取そっくりときたもんだ。
 普通の人生を求めたわりには、モンローから関取へと大きな変化だこと、と思いながら笑いを堪えながら俺は彼女が納得してくれるような空想を披露した。

 患者の秘密は、外部には絶対に漏らさない。それが『空想屋・君平想二』の約束事なのだ。とはいっても、それは表向きだけの話で、友達や飲み屋先でベラベラと人の秘密を喋ってしまうこともある。
 その喋ってしまう相手の一人が、目の前の田之上龍大だ。
「ここだけの話にしてってお願いしたのに・・・」
 そう文句を言っている俺も、別に本気で怒っているわけじゃない。田之上が放送で喋ってから二週間。モンロー女から抗議がきたという連絡は入っていない。彼女の耳には届いていないようだ。
 それに彼を怒れない最大の理由は、俺自身がDJ田之上の大ファンだったりするからだ。
 田之上の喋りの魅力は、空想屋の俺が言うのもなんだが発想力の豊かさにある。1+1が3にも4にもなるし、0にしたあとで百にも千にも、はたまたマイナスにも変えることができる変幻自在のアドリブトークは面白く、俺も仕事上参考にすることも少なくない。
 モンロー女の話にしたって、楊貴妃の生まれ変わりだと思いこんでる四十五歳の独身女性に設定を変え、話も原型から大きく異なる展開になっており、田之上にその話をした俺は別として、モンロー女がラジオを聞いても自分のことだと気づかないかも知れない。
 空想屋の俺が話した言葉を、田之上がどうアレンジするか?
 田之上の一ファンとして、そして空想を職業とする男として、俺は今日もまた患者の秘密を話してしまう。
「なるほどね・・・。大森を中学時代に三振に取った男の話か・・・」
 つい三十分前までここにいた野口の話を田之上にすると、はじめは興味をしめして聞いていたが途中で何か思うことがあるらしく、しばらく黙り込む。
 そして、ちょっとこれ貸してくれる?
 と俺のパソコンでインターネットを開き、何やら検索している。
 三分後。
「やっぱりそうだ」
 そう言って田之上は、パソコンを指差し俺に見るように促す。
 そこには、ジャイアンツのホームランバッター・大森智次のプロフィールが書かれている。
 一九○×年生まれ。八歳で野球を始める。小・中学は投手だったが、レギュラーになれず○○高校入学後打者に転向し才能が開花・・・・・・・。
「え、どういうことだ?」
 このサイトは、ジャイアンツの公式HP内に書かれている選手プロフィールだ。嘘が書かれているはずがない。
 嘘をついたのは、野口だ。
「その野口って男が、中学時代エースだったか、高校入学前に父親が亡くなったか、その辺のことは調べようないけど、ただはっきり言えるのは野口は中学時代に大森と対戦していない。だから当然ながら大森に、甲子園で会おうとは言われていない」
 説明を終えた田之上は、これも使えるな、とノートに今の話をメモしている。
 俺は、ちゃんと原型が無くなるようにアレンジして下さいよ、と言いながら先程までいた野口の顔を思い浮かべる。
「僕、野球部のエースで四番だったんです」
「あの大森を三振に取りました」
「そして大森は僕にこう言いました。甲子園で会おうと」

「空想屋に空想話するなんて・・・」
 俺が言うと、
「その話に君平ちゃんが空想話を作るんだから、まさに空想の数珠繋ぎだね」
 と笑う。
 その後、田之上が輪をかけた空想をラジオで披露し、空想の数珠はさらに大きく広がる。

小説「空想屋6」

 いい客だ。俺は心の中で思い、空想を始める。 部屋の明かりを落とし音楽を止め、そして青い紐を首からぶら下げる。 ちなみにこの青い紐は、フリーマーケットでアジア人留学生から百円で買った。 祖国で御利益のある紐だと、拙い日本語で力説していたが、何を話していたか覚えてないし知りたいとも思わない。 俺は宗教や神を一切信じない。だからお守りに頼ることはしない。だが、こういう所を訪れる人間は、神や神秘的なことに興味を示す人が多い。 空想プラス何か・・・・ だからこの青い紐は、俺の思いつきで発する言葉に博をつけてくれる小道具なのだ。 今さらながら告白すると、俺には超能力もなければ、何かを予言できるような神秘的な力など何も持ち合わせていない。 だから俺の空想は、相手をいかに喜ばせるか、ここに来たことによって何かが救われた気分に患者がなってくれれば、それだけで俺は役割を果たしたことになる。 だからといって、むやみやたらによいしょしたり誉めまくることは絶対にしない。アメと鞭じゃないが、喜びと悲しみ。 納得と後悔。 そのどちらをも一緒に相手の胸に打つことができるのが、プロの空想屋だと考えている。  俺はこの男の経歴書と、彼が今まで話したことを頭の中に叩き込み、ゆっくりと空想を始める。  空想の時、俺は何度も頭を掻く。 正直言うとこれは子供の頃からの癖なのであるが、今ではこれも空想のポーズとして定着している。「頭を掻くことによって、脳の中で眠る空の想いを呼び起こしているのです」 医学的には考えられないことでも、空想屋が言うのだから説得力がある・・・のだそうだ。 頭を掻きながら、野口の表情を盗み見る。 野球に未練があるといっても、今からプロ野球選手を目指すようなことはまず考えられない。後悔よりも、これで良かったんだという思い出に変えた方が・・・よし、できた! 俺は天井に顔を向け、お答えしましょう、と呟く。もちろんこの行動にも意味などない。「お答えしましょう。地元の野球強豪校に入学したあなたは、持ち前のコントロールの良さが認められ、一年生からベンチ入り。二年の春からエースナンバーをつけ、チームのエースとしてマウンドに上がる」 おー、と野口は言い、俺の話に聞き入っている。 非常に扱いやすい患者だ、本当に。  エースとして活躍した野口は、三年の夏に念願の甲子園出場を果たす。 そしてその一回戦で、大森のいる高校と対戦する。「すごい!ドラマティックじゃないですか!」 私の言葉一つ一つにわかりやすいくらい喜びの表現を続ける。喋っていて気分がいい。しばらくは、野口を喜ばせるとするか。俺は立て続けに頭を掻く。「この日の野口さんは絶好調。自慢の速球と変化球を組み合わせ、相手打線を全く寄せつけないピッチングを見せます。そして打線もそんな野口さんのピッチングに応えようと、相手投手陣から三点を奪います。三対〇。このまま逃げ切れるかと思った九回裏相手チームが猛反撃、ツーアウトながら満塁とチャンスを作りバッターは・・・」 俺は野口を見る。「大森ですか?」「その通り」 俺が言うと、やっぱりと嬉しそうに微笑む。「ここまで野口さんに三打席とも抑えられている大森。プロのスカウトも注目するこの打席で結果を残したい。ピッチャー野口、バッター大森」 俺もさっきの野口さんばりの空想シーンをやりたかったが、いかんせん野球に関するボキャブラリーが足りない。それでも難しい言葉や情景描写を散りばめながら、今回の空想の山場を語り終えた。 結果は三振。野口の高校が大森の高校を破り、二回戦に進出を決めたのだ。「やった、じゃあ俺・・・」 野球を続けていればと希望的発言をしようとしている野口を制し、俺は首を二回横に振る。 この仕事の基本は、アメと鞭。 喜ばせるだけが空想屋ではないのだ。「中学時代からのライバルだった大森を破った野口さんでしたが、この力投で肩を痛め、二回戦は〇対十五で大敗してしまう」「え・・・」「肩を痛めた野口さんは、野球の道を断念。高校卒業後、建設会社に就職します。そして、肩の痛みが癒えた二十歳過ぎから趣味で野球を再開。二十八歳の時、○○新聞杯たそがれ朝野球大会で三位。エースのあなたは優秀投手賞を獲得します」「え・・・それって」「そうです。甲子園出場という栄誉は掴んだ野口さんですが、それが野球人として最大のピーク。結局、二十八歳の今では全く同じ生活に戻るわけです」「そうですか・・・」 空想のアメと鞭を受け愕然とする野口。しかしここで終われば、あの時野球を続けていれば甲子園に行けたのに、という後悔が残ってしまう。後悔を安心に変えるのが空想屋・君平想二。さて、最後の仕事に入るとするか。「あなたの出現によって、甲子園の一回戦で敗れた大森選手。その後、どうなったと思いますか?」「その後・・・あっ・・・」 この年、甲子園の決勝で三本のホームランを打ち一気に注目を集めた大森は、ドラフト一位でジャイアンツに入団した。ところがこの空想の世界では、一回戦で敗れ甲子園での活躍の場を失った。「あなたによって甲子園での活躍の場を失った大森は、プロからの誘いもなく高校卒業後、大学へ。ここでも秀でた活躍のできなかった大森は、就職とともに野球をきっぱりと諦め・・・普通のサラリーマンになりましたとさ」 俺は、今日のスポーツ新聞を野口に見せる。そこには、デカデカと『大森三十号、ホームラン王へ視界良好』と大きな見出しが踊っている。「いいですか、野口さん。あなたがもし高校で野球を続けていれば甲子園に出場することができた。だけど、それによって球史に残る偉大な打者が誕生しなかったことになります。空想の世界とは、時として人生がハッピーに向かうのと反対に、幸せだった人の未来が無になるケースもある。そのくせ・・・空想で掴んだはずの幸せも長くは続かなかったり・・・結局同じサヤに戻ることが多いのです。ただ・・・」 俺はもう一度、大森が一面に出ている新聞を野口に見せる。「あなたが中学で野球を辞めたおかげで、大森智次という球史に残るホームランバッターが誕生したのです」 俺が言うと、野口は照れくさそうに笑う。この表情で俺の空想が彼の満足に値する結果だということがわかる。 そして・・・。 最後にお決まりの台詞を言う。「ただし・・・あくまでも、空想の中の話ですけど」 この言葉を言うと、たいていの患者は笑う。テレビのコメンテーターとして出演している時にも、最後に必ずこの言葉を付け加えているからだろう。芸人でいう、持ちネタみたいな扱いを聞いていて感じるのかも知れない。  診察を終え、野口はホッとした表情をしている。そして、本当はここに来るかどうかをずっと悩んでいたと俺に言う。「でも来てよかったです。あの時こうしていればと、ありもしない空想を時々頭の中で浮かべては悩む生活にピリオドを打つことができたのですから」 毒をもって毒を制すじゃないが、野口の中で勝手に膨らませていた過去の栄光とそれに付随する空想も、俺様の空想で彼の不安を制してあげたのだった。 これで八千円なら安いものだろう。 中途半端な導きしかしない占い師や、あれやこれやと物を売りつける霊媒師。莫大な寄付金を求める宗教団体に比べれば可愛いものだ。

遠い締め切り

某出版社から書籍の企画を頼まれたのは9月末のことだった。

「来年の冬から春にかけて20冊程度発売を予定している。何かいい企画があったら出してくれ」

仕事の合間を縫って4つほど企画を提出した。

全部で100程度の企画が出てるそうでその中から最終的に10前後の企画が書籍になるという。

10月連絡が来た

「4つのうち3つ通ったから」

え?びっくり。

結局企画が通ったのは9本

そのうち3つが俺って、

俺がすごいのか?他がひどいのか?

多分後者だと思いながら口にせず

結局3本のうち1本は企画尚早で延期。

2本を動かすことになった。

で、現時点ではページ台割しか作っていない。

取材先も二件に連絡しただけ。

というのも発売が3月末。

ということは締め切りが3月上旬。

まだまだ先だ。

しかも今はクリスマスや年末年始の取材執筆で忙しい。

まあいいやと後ろに回している。

しかし一冊の本のボリュームは100P以上。

一週間やそこらではいとできるほど甘くない。

だから今のうちから確実にこなしていかなくてはいかない。

のにねえ・・・

4ヶ月先だしと目先の仕事からこなす現状。

2月になって慌てる自分の姿が今からわかる・・・

小説「空想屋5」

「ところが九回ツーアウトから勝利を意識しちゃったんですね。二者連続フォアボールで二死一、二塁。バッターは四番の大森です」
 かっ飛ばせ大森!の大歓声が野口の頭の中で響き、興奮で体が震えている
 俺はいつもの設定温度より、かなり低い室内の温度に体が震えている。
「ここまで三打席は、ヒット二本と痛烈なセンターライナー。私はまだ一度も大森をきちんと抑えていないのです。ベンチからは歩かしてもかまわないと指示が出ていました。だけど、僕は逃げる気なんてない。勝負だ、大森!」
 大きな声は、きっと受付の女の子の耳にも届いただろう。だけど驚きはしないはずだ。こんなこと日常茶飯事。今日に始まった事じゃない。
「一球目は外角高めのボール。二球目はスローカーブで相手の打ち気をそらしストライク。そして三球目カキーン」
 野口は後ろを振り向く。そして一瞬落胆の表情を見せた後、安堵の表情に変わる。
「ファールでした。あと三十センチ打球が内に入っていれば、ホームランで逆転されるところでした」
 野口の額の汗は、ボタボタと音を立て床にこぼれ落ちる。彼は完全に空想の世界に潜り込んでいる。テレビや雑誌の取材による影響が強いのだろうが、この部屋に入ると皆自分も空想屋に変わってしまうようだ。
 よくこんなに空想の世界に潜り込めるよなあ、と当の空想屋である俺は感心してその様子をいつも見ているのだ。
 いよいよクライマックス。
 一打出れば逆転。抑えれば勝利。その大事な場面で、野口は自慢の剛速球を放る。
「いくぞ大森」
 大きく振りかぶった野口は、大森目がけて渾身の一球を投げる。
「ストライクバッターアウト!」
 私は拍手を送る。
 その音で現実に引き戻された野口は、照れながら、どうも、と言う。
 最後の打者大森を三振に打ち取った野口の学校は、前年の全国大会優勝校を破り県大会決勝戦へ駒を進めた。
「試合終了後、僕は真っ先に大森に近づき握手をしました。大森も快く握手に応じてくれました。そして彼は私にこう言う。今度は甲子園で会おう」

 ここまで言うと、野口は我に返ったように椅子に腰掛けた。
 大森は翌年、甲子園の名門校に入団し二年生の夏からレギュラーとして三度の甲子園に出場。そんな男に、今度は甲子園で会おう、と言われたとなると野口の才能を大森は認めたことになる。
「それで・・・」
 俺は聞いてみる。
「野口さんは、高校で野球を続けたんですか?」
俺が聞くと、野口は俯いたまま首を何度も振る。
「父が交通事故で亡くなりました。僕が中学三年の冬に」
 一家の大黒柱を失った野口家の家族を養うため、野口は高校に行くのを諦め就職した。
「あれから・・・十三年が経ちました。大森はジャイアンツの四番として今も大活躍。去年の契約更改では三億円を越える年俸を獲得。名実共に一流プレイヤーとして活躍しています。そこで私です。中学を卒業後就職した私は、定時制の高校に通いその後も細々と野球を続けました。今も続けています。まあ、朝野球チームですが。今年の朝野球大会で私の所属するチームが県大会で三位になりまして。その時の新聞記事です」
 野口は、鞄の中から新聞を取り出す。
 そこには、○○新聞杯たそがれ朝野球大会の記事が掲載されている。
「私の名前載っているでしょう」
 大会結果と共に紹介されている個人賞の欄に野口の名前があった。
【優秀投手賞】野口大介。
「すごいじゃないですか」
 俺が言うと、本当に嬉しそうな表情で野口は照れた。
「たかだか朝野球ですが、私は今でも野球を続けています。もちろん仕事の合間をぬっての練習しかしていないので学生当時より体力も実力もかなり落ちていることでしょう。だけど、僕は思うのです。もし・・・もしあの時父が急死することなく高校に入り野球を続けていたら、僕はどうなったでしょうか?」
「それを・・・空想で見てもらいたいと」
「・・・はい・・・」
 用件は分かった。そして、彼が俺にどんな答えを求めているのかも。
 こういう客は、非常に扱いやすい。
 余計な労力を使わず、彼の機嫌さえ取れば成功といえる。
 あとは、いかに空想屋としてもこちらの権威を守りながら結末へと持っていくかだ。
 空想屋の仕事は、あくまでもありもしない架空の話を作りあげること。
 あの時こうしていればこうなったかもの、もしもの世界を俺の言葉から垣間見てもらうだけであって、当然それが現実とすり変わることはない。
「あり得なかったひとつの事実を、空想によって作りあげる。そして満足する。それ以上でもそれ以下でもない、ここはただそれだけの所です。野口さん、ご理解いただけますね?」
 俺が言うと野口は、大きく頷く。
「はい。自分の生きた道はねじ曲げることはできません。それは十分にわかっています。でも自分が出会えなかった道を、せめて空想でいいから見てみたい。そう思ったからここに来たのです。決して現実逃避ではありません」
 いい客だ。俺は心の中で思い、空想を始める。

小説「空想屋4」   

 空想屋を始めて三年。 俺もとうとう三十歳になった。 今では、四人の社員を抱える我が「有限会社KU-SO」は、相変わらず順調に利益を伸ばしている。 現在ラジオのレギュラーが二本にコラムが六本。その他、TVのワイドショーの準レギュラーや講演会、トークショーにパネラーなど。もちろん本職の空想屋も連日ひっきりなしに予約が殺到している。 俺の商売を見て、似たようなことを始めた人や企業も多いがそれほど成功していないようだ。 彼らの空想業に於ける仕事内容を見たことはないので具体的なことはわからないが、俺と彼らの業務にはさして違いがないと思う。 しいていうならば、彼らは二匹目のどじょうをつかもうという気持ちが明らかにみえみえ。そして空想で儲けてやろうという欲が強すぎるのではなかろうか。 それだけのこと。 しかし・・・。 俺は、最近思う。 こんなことでいいのだろうか、と。 毎日毎日ありもしない事をでっち上げ、それが『空想』というだけで何を言っても許される。 TVでもラジオでも講演会でもそして患者の前でも、俺は『空想』という名の嘘を喋り続ければいい。 誰も俺から、真実を聞きたいわけじゃない。「こんな仕事、もう辞めたいよ」 ある雑誌のインタビュー中に自分の本音を吐いてしまったが、「では、君平さんが空想屋を辞めた後の人生はどうなるんですか?」 結局空想屋を辞めた後の俺というテーマの空想を求められる。  俺は『空想』の世界から逃げるためには、何かきっかけが必要なのかもしれない。 きっかけが。 「社長、野口様がお見えです」「ああ、通してくれ」 今日は、午後からテレビの仕事が入っているので、診察は午前中だけである。 診察料は、一時間八千円。 これを高いと見るか安いと見るかはお客さんが決めること。 予約が二ヶ月先までほぼ埋まっているところをみると、俺の戯言に八千円分の価値があるということなのだろう。 「よ、よろしくお願いします」 今日一人目の野口さんは、初診者だ。 大抵、初めてここを訪れた人は私の恰好や室内を見て驚き動揺する。「どうしました?」 わかっているのに、あえて俺は質問する。これも自分のペースで診察を進めるための作戦である。「ええ、あのぅ。テレビで見た時と印象が全然違うもので」 テレビや雑誌のインタビューの時には、七三分けでスーツを着て真面目なキャラクターを演じている。 それが、ここではアロハシャツに色眼鏡。逆立った髪の毛、腕に彫られたタトゥ。驚くのも無理はない。「この恰好ではご不満ですか?」「い、いえ・・・そういうわけじゃ」「テレビは見かけが大事なんです。視聴者は画面から流れてきた映像をそのまま受け止めます。私は空想屋としての私を伝えたい。だから不特定多数に私を見せる時には、あえて個性は殺すのです。そしてその逆に一対一の時は、あえて個性を出すことにしています。私がさらけ出すことによって、あなたも個性をさらけ出しやすくなる。私はそう考えております。お互いの個性が包み隠さず開かれた時、空想は、最大限に生かされることになります。わかりましたか?」 野口さんは、わかったようなわからないような表情をしながら、まあ・・・何となく、と言って頭を掻いた。 わかるはずがない。俺自身も何を言ってるのかよくわかっていないのだから。 人は自信満々に言われると、それを否定することはいけないのではないかと錯覚するそうだ。 特に俺のことを先生と思いこんでいる患者には、ちょっとしたハッタリですぐに効く。 楽な商売だ。「ええと、野口大介さん二十八歳、職業は建設会社勤務ですね。どういったご相談ですか?」 俺が聞くと、野口さんは、少し迷ってからこう言う。「あの・・・。くだらないこと言うなって・・・思わないで下さいよ」「ハハハ。思いませんよそんなこと。空想の世界で生きている人間にとって、現実の一つ一つの出来事の方がくだらないのです。空想屋の私にとって、ありふれた日常の話より、くだらないかもしれない話の方が興味があります。どうぞ恥ずかしがらずに喋って下さい。なんせ私は空想屋なんですから」 俺がそう答えると、野口さんは安心した様子で自分の過去を話し始めた。「実は・・・僕、中学まで野球部に所属していました」 エースで四番の野口さんは、三年の地区大会で優勝。県大会に駒を進めた。「県大会の決勝で敗れて全国大会出場は逃したんですが、準決勝で対戦した中学の四番打者が大森智次だったんです」「大森・・・」 あまり野球に詳しくない俺でも、大森くらいは知っている。 甲子園の決勝戦で三打席連続ホームランを打ちヒーローになったスラッガー。ドラフト一位でジャイアンツに入団し、今では不動の四番サードで大活躍中の選手だ。「準決勝で・・・ということは、野口さんは大森のいる中学に勝利したわけですね」「ええ」 人は良い思い出の昔話をする時には、その時の記憶が蘇り、勝ち誇ったように満面の笑みを見せる。おそらく何度も何度もあちこちで話しただろうその自慢話は、まるで講談師のようにテンポの良い説明で進められる。「私の学校は、無名の弱小校です。一方大森の所属する中学は全国大会で何度も優勝するほどの名門校。前年も二年生の主砲・大森を中心とした打線が大活躍し、全国大会優勝を成し遂げました。二年連続全国優勝を目指すチームvs無名の我がチーム。試合をやる前から結果は見えている・・・と、誰もが思っていたのですが・・・」 私の方を見てニヤリと笑った野口は、さらに話を続ける。空想屋に来る患者には二通りのパターンがいる。私の空想話を聞きたい無口な人と、私の話を聞くより自分の中で話を盛り上げる喋り好きの人。言うまでもなく、野口は後者だ。 劣勢が予想されたこの一戦。エースの野口は、強豪打線を八回まで二安打無失点に抑える。一方野口のチームは、七回まで完璧に抑えられていたが八回裏、エラーと四球のランナーを置いて野口がスクイズに成功。遂に一対〇とリードした。「そしていよいよ九回表。この回を抑えれば我がチームは県大会の決勝に駒を進める、最終回のマウンドに私は立ちました」 立ち上がった野口は、その日のことを目を閉じて思い出しながら話を続ける。 額には汗が流れる。俺は、話を聞きながら何気に冷房のスイッチを強にする。こんな気配りのできる空想屋は世界で俺一人だろう。あっ、空想屋も俺一人だった。