他国との単純比較でアフガニスタンからの邦人退避を批判

 

最近ちらほら見かけるのが、アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国などの国々が何人を退避させたという情報とともに日本の対応はどうだったのか?という報道。

 

日本政府を批判するためなら他国と比較する、でも、日本政府の批判にならない、むしろ、日本政府の対策が称賛されるべきものだと裏付けられる情報については他国と比較しない。

 

例えば、新型コロナウイルスの感染者数・死者数などは他国と比較しない。

 

でも、アフガニスタンから退避させた人数については他国と比較する。

 

他国よりも日本の方が少ないから。

 

 

 

他国は憲法に明記されている軍、日本は憲法にその存在すらも明記されていない自衛隊

 

この時点で他国とは大きく異なる。

 

あのヒトラーが存在したドイツでさえ軍のことが憲法に明記されているのに、なぜ、日本においては自衛隊という明らかな存在がありながら憲法に明記も規定もされていないのか?

 

自衛隊が憲法に明記も規定もされていないことの方がむしろ危険なのでは?

 

【参考】 他国の憲法では軍をどのように明記しているのか調べていたら目に付いた資料。

 

米国・フランス・ドイツ各国憲法の軍関係規定及び緊急事態条項」(PDFファイル)

 

 

 

憲法に明記されていない自衛隊が海外から国民を救出するには?

 

何度も言うように日本国憲法には何も明記、規定されていないので、自衛隊法を確認すると自衛隊法第84条の3に「在外邦人等の保護措置」、4に「在外邦人等の輸送」について規定されている。

 

条文は回りくどく読みにくいので、ここでの掲載は省きます。

【参考】 e-GOV 法令検索 自衛隊法

 

今回の件に合わせて簡単に説明すると

 

第84条の3 (在外邦人等の保護措置)

第1項

防衛大臣は、外務大臣から外国における邦人の警護、救出などの保護措置の依頼があった場合、次の各号のすべてに該当する時に限り、内閣総理大臣の承認を得て、部隊等に保護措置を行わせることができる。

⇒外務省からの依頼が無いと動きが始まらない、これは文民統制の国家なら当然のこと。ただし、日本は以下の3つの条件を満たさないと自衛隊による在外邦人等の保護措置ができない。

 

第1号

保護措置の対象地域において、その国の当局が安全と秩序を維持しており、かつ、戦闘行為が行われないと認められること。

⇒アフガニスタン政府によって安全と秩序が維持され、戦闘状態でないこと。

 

第2号

自衛隊が保護措置(武器の使用を含む)を行うことについて、その国の同意があること。

⇒アフガニスタン政府や今回の場合は自衛隊機が待機したパキスタン政府の同意が必要。

 

第3号

予想される危険に対応して保護措置が円滑かつ安全に行うための部隊等とその国の当局との間の連携及び協力が確保されると見込まれること。

⇒タリバンやアフガニスタン政府との連携、協力の確保が見込まれるか?

 

第2項

内閣総理大臣は、外務大臣と防衛大臣の協議の結果を踏まえ、第1項の第1号、第2号、第3号のいずれにも該当すると認める場合に限り、承認をする。

⇒現地の政府がアフガニスタン政府なのかタリバンなのかも定かでなく、現地の安全と秩序がどうなのか?戦闘行為が無いのか?も定かではない不安定な状況下でこの判断をするのは困難だっただろう。

 

第3項

防衛大臣は、保護措置を行わせる場合において、外務大臣から生命または身体に危害が加えられるおそれのある外国人として保護することを依頼された者、その他保護が適当と認められる者の保護措置を部隊等に行わせることができる。

⇒日本人に限らず、今回の場合であれば大使館等で勤務していたアフガニスタン人も対象となる。

 

第84条の4 (在外邦人等の輸送)

第1項

防衛大臣は、外務大臣から保護措置を要する邦人の輸送の依頼があった場合、輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、安全に実施できると認められるときには輸送を行うことができる。

この場合、防衛大臣は、外務大臣から保護を要する外国人として同乗させることを依頼された者、対象国との連絡調整や輸送の実施に必要な者保護措置の対象邦人、対象外国人の家族その他関係者で、早期に面会させ、もしくは同行させることが適当と認められる者を同乗させることができる。

⇒「保護が必要な外国人」、「連絡調整などに必要な外務省の職員など」、「保護対象の日本人、外国人の家族や関係者」も同乗させていいですよということ。

 

第2項

輸送は、国賓等の輸送の用に主として供するための航空機(政府専用機?)により行うものとする。ただし、空港施設の状況、輸送対象の人数、その他の事情により政府専用機では困難な場合、次に掲げる航空機または船舶により行うことができる。

 

第1号

輸送用の航空機

 

第2号

輸送に適する船舶

 

第3号

船舶に搭載されたヘリコプター

 

第3項

輸送は、前項の規定する航空機または船舶のほか、特に必要があると認められるときは、輸送に適する車両により行うことができる。

⇒基本、邦人や外国人を退避させるときには政府専用機らしい。それが困難なら輸送機や船舶、船舶に搭載されたヘリコプター、車両とのこと。

 

 

 

今回のアフガニスタンから邦人や保護が必要な外国人を退避させるにはどうだったのか?

 

①外務省から防衛省への依頼(第84条の3 第1項)

②アフガニスタン政府かタリバンによって安全と秩序が維持され、戦闘状態でないこと。(第84条の3 第1項第1号)

③自衛隊機の待機や自衛隊の一時的な駐留が関係国から許可されること。(第84条の3 第1項第2号)

④アフガニスタン政府かタリバンとの連携や協力が得られること。(第84条の3 第1項第3号)

 

が最低限必要だが、アフガニスタンの実状は安全とは言えない、秩序も維持されていない、部分的な戦闘やテロもあり得るし、実際にテロ行為があった。

 

厳密に自衛隊法84条の3に照らし合わせると、上記の②、④が問題となり、自衛隊を派遣することはダメということになるが、それを何とか派遣できるように知恵を絞らねばならず、その分時間を要することとなる。

 

そのうえ、立憲民主党や日本共産党から「自衛隊を派遣する必要があるのか?」、「なぜ、輸送機3機なのか?」、「何人を退避させるつもりなのか?」などなど、説明を求められ、その説明次第では中止を求められたり、酷く批判されたりするので、野党側へどのように説明するかを考えるのにも時間を要することとなる。

 

 

 

実際、過去にはこんなこともありました。

しんぶん赤旗 「『邦人保護』口実に海外派兵訓練 防衛省に塩川・梅村両議員が中止求める」

 

 

自衛隊による在外邦人等保護措置の訓練さえも中止しろと批判していた日本共産党。

 

訓練さえも妨害され、自衛隊法で厳しく制限され、そのうえ、他国との単純比較でも批判される。

 

ふざけた話だ!

 

これらの障壁が無ければ、日本も他国と同時期に自衛隊機を派遣できたかもしれない。

 

 

 

アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、韓国などは、①と③がOKならすぐに軍の輸送機を派遣できるのだろう。

 

この違いが、結果の違いに表れる。

 

 

 

他国に比べ法律による制限が厳しい以上、自衛隊による在外邦人等の保護措置は他国のようにはできない

 

他国と比較して「早い遅い」、「多い少ない」という上っ面だけを見て批判しても何の意味もない。

 

比較すべきは他国の軍と自衛隊の違いだ。

 

他国と何がどのように違うのか、法律や体制などの中身を見て考えなければ、今後も同様の事態になり得る。

 

 

 

アフガニスタンからの退避への批判の中身が、

 

政府批判のために、上っ面だけを見て中身は見て見ぬふりをしているのか?

 

真に日本国民の生命と財産を守るために、中身を見て問題点を指摘しているのか?

 

まずは、この違いに国民が気付かねば、日本は何も変わらない。