「ぼくもキッチンで手伝ってもいい?」
「もちろん」と言ってわたしは息子をキッチンに連れて行った。路上生活者たちの前を横切るときに息子の表情が少しこわばっているのがわかった。
キッチンで作っているサンドウィッチや紅茶は、事務所や倉庫にいる路上生活者の人々のためだけでなく、この雪の中でも路上に座っている人々にどこに行けばいいのか教えるために外を回っているパトロール隊がもっていくためだった。この事務所だけでなく、教会やカフェ、ナイトクラブでも、雪が降りだした昨夜から路上生活者を受け入れている。パトロール隊は寝ぐらのない人々を最寄りの緊急シェルターに案内しているのだった。
「今年はほんとうに路上生活者が多い。緊縮財政で、自治体は何の緊急支援もできなくなっているから、民間がなんとかするしかない」パンにマーガリンを塗りながら友人が言った。
「緊縮って何?」と息子が聞くと、友人が説明を始めた。
「この国の住民は英国っているコミュニティに会費を払っている。なぜって、人間は病気になったり、仕事が出来なくなったりして困るときもあるじゃない。国っていうのは、その困ったときに集めた回避を使って助け合う互助会みたいなものなの」
「その会費って税金のことだよね」
「そう。ところが、緊縮っていうのは、その会費を集めている政府が、会員たちのためにお金を使わなくなること」
「そんなことしたら困っている人は本当に困るでしょ」
「そう。本当に困ってしまうから、いまここでみんなでサンドウィッチを作ったりしているの。互助会が機能していないから、住民たちが善意でやるしかない」
「でも善意っていいことだよね?」
「うん。だけどそれはいつもあるとは限らないし、人の気持ちは変わりやすくて頼りないものでしょ。だから、住民から税金を集めている互助会が、困っている人を助けるという本来の義務を果たしていかなくちゃいけない。それは善意とは関係ない確固としたシステムのはずだからね。(略)