女には女のルールがある。
例えば、トイレは一人で入らない。
例えば、髪型、メイクの変化にはすぐ気づくこと。
例えば、抜け駆けはしないこと。
細々としたいくつかのルールを守らないでいると、あら大変。
どうなるかはご想像にお任せして、まあ、そういうこと。
「ふう……やっと終わった。」
そう口に出すと、今までの疲れがどっとのしかかってきた。
敷いたばかりのシーツを汚さないため、汚れてもいいように着ていた中学時代のジャージを脱いでルームウェアに着替える。
今日から一人暮らしを始めるマンションは1Kだが、狭い場所が好きな私には十分なスペースだ。
高校を卒業して就職した私は実家住みのときに親のスネをかじって給与を貯金していた。
就職するなら一人暮らしをしてもいいよとのお達しも出ていたので、その準備ということだ。
晴れて自由の身になった私は早速寝る!寝るったら寝る!だって疲れたんだもの!
私が一人暮らしをしたいと思ったのは両親の束縛から逃れたかったから。
と言っても心配から来ていることも分かってるし、そんなに束縛が厳しいものでもないので理由なんてあってないようなものだけど。
真夜中に出かけたり、朝帰りしたりしたかったんですね。私は。
冷蔵庫にあるこのお酒のストックを見よ!!甘めのものしか飲めないお子チャマな私は!全部!チューハイ!です!
りんごー、ももー、グレープーといろいろな味を用意しております。基本お腹いっぱいになっちゃうから一回一本なんですが。
そんなことはともあれ、無事引越し完了ということで、ダンボールを全て片付けた。
三連休のうち二日使ったので明日しか遊べる日がないのが悲しいかな。
お隣さんへの挨拶も済ませてあるし、明日は一日中フリー。
なので折角の一人暮らしを満喫するつもりだ。
……もちろん明日も仕事なので朝帰りとかはしないけどね!
ガンガンガンガンガン……
頭が痛い・・・・・・、気持ち悪い・・・・・・、み、水・・・・・・。
暗闇の中、前もって用意しておいた水の入ったペットボトルを手探りで探す。
手のひらにペットボトルのキャップが当たった。少し体を起こしてそれを飲むと、ようやく状況が飲めてきた。
昨日は初の一人暮らしということもあり、羽目を外してバーでちょっといつもよりアルコール度数の高いものを飲んでしまったのだ。
しかもカクテルだからジュースみたいにゴクゴク飲めて・・・・・・ああ、また頭が痛くなってきた。
どうやって帰ってきたのか思い出せない。何杯か飲んだ後の記憶がない。
やってしまった。多分、今日、学校なのに・・・・・・。
あれ、学校?ん?や、いいのか。あ?なんで私お酒なんて・・・・・・いや、でも最近の中学生はお酒の味くらい知ってるか。
・・・・・・いや、そういうことじゃない。あれ、学校なんて今まで行ってたっけ?夢か?まあいいや、今はお酒が回って気持ち悪くて何も考えられーん。
「ッハ!」
勢いに任せて体を起こすとまだ頭が痛かった。うう、二日酔いが効いている。
こんなことになるとは思わずウコンとか用意してないですし。
時刻は6時40分弱。
家を出るまで大分時間がある。
ベッドからすべり落ちるようにして床に座る。髪がぐしゃぐしゃになっているが気にしない。
テレビの電源をつけ皆大好きN○Kにチャンネルを回す。次に電気ケトルのスイッチをいれた。
ぼーっとする頭でテレビを眺める。何も頭に入ってこない。
徹夜明けのような頭は働こうとせず、虚空を眺めるだけだ。
こういう日は今から支度しないといつもより行動がゆっくりになるので間に合わない。
ゆーっくり、ゆーっくり立って、ゆーっくりゆーっくり洗面所に向かう。それからゆーっくりゆーっくり冷たい水で顔を洗う。
徐々に頭が働いてくる感じがする。目が覚めてきた。
鏡に映る自分と目が合った。二日酔いで顔がいつもより青白く、クマがひどい。
コンシーラー塗ってチークいつもより濃く塗っていこう!
化粧水を肌に叩き込んで!カラコン入れて!ナチュラル風メイク(あくまで風)をして!違和感のあるセーラー服に袖を通して!
・・・・・・一服。ふう、朝のコーヒーはうまい(砂糖多目)
時刻は7時30分。
今日はいつもより早く出てコンビニへ寄ろう。今からでもウコンを飲んで楽になりたい・・・・・・!
早く出すぎたのか、学校では未だ運動部が朝練をしていた。
コンビニでウコンのドリンクを買ったときは店員さんに奇異な目で見られたがいたしかたない。
教室へ一番乗りで着いてウコンを飲み干した。うう、初めて飲んだがちょっと苦め。
もう二日酔いするまで飲まないぞー!
低血圧な私は起きてすぐはお腹が減らないので、一時間以上経った今やっとお腹がすいてきた。
スクールバッグから朝ごパンを取り出してむしゃむしゃ食べる。
チョコクリームパンうまー!と思いながら咀嚼しているとドアがガラガラ音を立てて開いた。
朝練を終えて帰ってきたバスケ部たち。確かこのクラスにはバスケ部の部長がいたような。
その部長は運動は出来るわ顔は良いわ愛想良いわで頭は悪いけどモテるモテる。
ノリも良いので男子からも女子からも人気があり発言権の大きい一軍だ。
クラスの端っこでパンを食べながらぼーっと過ごしている私とは大違いである。
バスケ部たちは朝からお弁当を食べる。昼は昼で昼用のお弁当を持ってきているやつもいれば、購買でパンを買っているものもいた。
多分こいつら一日5食くらい食べてると思う。
次々に朝練を終えた者や、普通に通学してきた人たちが来て、教室は賑やかになっていく。
野球部が入ってくると一気にむさ苦しくなる。いや、嫌いじゃないよ、坊主頭。
それからテニス部も帰ってきた。このクラスには二人しかいないが、この学校のテニス部人気は伊達じゃない。
特に女!女!女!男のファンもいないとは言い切れないが(ッアー)女のファンの数が圧倒的に多い。
なぜか顔面偏差値の高いやつらが揃って尚且つ実績もあるからモテる。
化粧もしないと他人と接することの出来ない私とは大違いである。
しかし私勝ち組だなーと思うのは、テニス部でモテてる人の上位に入っていそうな不二くんの席の斜め後ろに私の席があること!
話したことは一度もないけど後姿最高。
授業は聞いたことのあることばかりで眠気を誘う。なんでこの数式知ってるんだっけーと考えると何故だか頭が痛くなる。
そういえば、テニス部の不二くんのことを考えても頭痛は起きた。これって・・・・・・恋!?(バカ)
この地味な痛さ、イライラするー。頬杖をついて授業を聞きながら消しゴムをコロコロ転がして暇つぶし。
あー、早く終わんないかな。姿勢を直そうと消しゴムから手を離したとき、消しゴムが勢い余って机から転がり落ちた。
あちゃー。広いに動くのめんどくさいな。授業終わってからでいいかな。自分で動いて上って来いよー。
そんなことを考えながら消しゴムを見ていると、一本の手がその消しゴムを救った(あえて)
「はい、天音さん。」
「わ、あ、ありがと」
不二君に!拾って!もらえた!!
なんて幸せ!
不二君の手から消しゴムを受け取ろうと不二君の手に触れたとき、バチン!と大きな音を立てて電流のようなものが走った。
やばい。そう思ったときには遅く、意識が朦朧としていく。
スローモーションのように私は椅子から崩れ落ちた。