国有資産の纂奪者   ―A.A. | ワールドフォーラム・レポート

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「改革」運動の常
「かんぽの宿」の一括売却騒動で頭に浮かんだのは、ソ連崩壊時の国有資産の纂奪(さんだつ)である。「改革」の名のもとにエリツィン政権は、国有財産である油田などをタダ同然で民間人に売り飛ばした。買ったのは「オルガルヒ」と呼ばれる新興財閥群である。

「オルガルヒ」のリーダ格だったのは、ボリス・ベレゾフスキーである。他にミハイル・ホドルコフスキー(石油)、ロマン・アブラモビッチ(石油)、ウラジミル・グシンスキー(メディア)などがいた。彼等はエリツィン政権に食込み、一夜にして億万長者になった。ちなみにここにあげた面々は、皆、ユダヤ人であった。


エリツィンの後を継いだプーチン大統領は、これの新興財閥経営者を脱税や詐欺で逮捕した。逮捕を逃れようとした者は海外に逃亡した。プーチン大統領は、纂奪者から資産を取返したことになる。

我々は、この一連の出来事を「やはりロシアはしょうがないな」と笑って見ていた。とうてい同じような事が日本で起るとは思われなかった。ところが「かんぽの宿」の一括売却騒動を見ていると、エリツィン時代のロシアを彷佛させられるのである。


本誌で何度も指摘しているが、「改革」運動はアンポンタンな観念論者(経済学者、政治家、マスコミ人など)と、「改革」で利益を得ようとする貪欲な者が結び付いているのが常である。日本の構造改革運動も例外ではない。例えばタクシーの規制緩和をリードしたのがリース会社の社長である。日本のタクシーの半分くらいはリースであり、規制緩和によるタクシーの増車は確実にリース会社の利益に繋がる。しかし不思議なことに日本の大手マスコミはこのような事を一切伝えない。

観念論者の構造改革派は、郵政改革は構造改革の本丸と叫んでいた。しかし郵政の事業はどんどん成長するとは思われないものばかりである。しかしタダのような値段での「かんぽの宿」の一括売却事件の発覚で、貪欲な人々の狙いが明らかになったといえる。


「かんぽの宿」の安値売却は周到な準備が行われていた。まず郵政事業の分割の際、「かんぽの宿」はかんぽ生命の下ではなく日本郵政の下に置かれた。つまり最初から「かんぽの宿」は安値で叩き売るつもりだったと見られる。

また「かんぽの宿」が経営的にお荷物ということを装うための細工がなされた。先週号で指摘した償却年数の極端な短縮などもその一つである。これは生田郵政公社総裁時代に行われている。また先週号で取上げた「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といった、中立を装った第三者機関の設置も準備の一つである。しかしこれらには中立性のかけらもない。

簡易保険の事業として「かんぽの宿」の経営を行うことの是非はある。しかしその資産をタダ同然で売払うこととは全く別問題である。だいたい「かんぽの宿」の経営状況は言われているほど悪くない。「赤字のたれ流し」と言いふらしているのは安値売却を企んでいる者達である。また償却年数を極端に短縮しているのだから、一旦黒字化すれば黒字はどんどん大きくなると思われる。



郵政各社の人事
ほとんどの人々は、西川社長が単身で伏魔殿の郵政事業に乗込み、辣腕を振るって事業を立直しているという印象を持っている。これには長年の民間人は「善」であり、役人は自分の既得権を守る「悪」という、単純な刷込みがマスコミでなされていたことが影響している。ところが事実は全く違うのである。

自民党の若手議員が、次々とマスコミに登場し、鳩山前総務相の行動を批難している。郵政事業は民営化の移行期間にあり、政治が民間企業の経営に介入するのは間違いと主張している。したがって西川氏を擁護し、鳩山総務相の更迭を当然と言っている。しかし筆者は今回の政府・与党の判断を致命的な「ミス」と思っている。


これをきっかけに郵政事業がどれだけ酷い状況になっているか、徐々に明らかになるものと思われる。その一つとして次のような郵政各社の住友グループ出身者の人事が注目を集め始めている。それにしても住友の郵政への食い込み方は尋常ではない。

     日本郵政
     代表取締役社長 西川善文(三井住友銀行頭取)
     執行役副社長  寺坂元之(元スミセイ損保社長)
     専務執行役   横山邦男(三井住友銀行)
     常務執行役   妹尾良昭(住友銀行、大和証券SMBC)

     郵便局会社
     代表取締役社長 寺坂元之(元スミセイ損保社長)
     専務執行役   日高信行(三井住友海上火災)
     常務執行役   河村学 (住友生命保険)

     ゆうちょ銀行
     執行役副社長  福島純夫(住友銀行、大和証券SMBC)
     常務執行役   向井理寄(住友信託銀行)
     常務執行役   宇野輝 (住友銀行、三井住友カード)
     執行役     村島正浩(三井住友銀行)

これらは役員クラスであり、下の者をどれだけ連れてきているのか今のところ不明である。郵政各社には他の民間企業出身者がいるが、住友グループが圧倒的に突出している。まさに日本の郵政事業は三井住友銀行を中心とした住友グループに支配されていると言って良い。


一時、自民党の中では、喧嘩両成敗で鳩山総務相と西川氏の両氏を同時に退陣させるという案が出ていた。これによって「かんぽの宿」問題の幕引きを狙ったのである。しかし菅選対副委員長などの働きによって、鳩山総務相だけの更迭劇となった。まさに「貧すれば鈍する」ような判断である。

しかし筆者など、改革派の不正を訴える者にとって、この動きはむしろ好ましいと感じる。喧嘩両成敗で両者が同時に退陣となれば、問題が曖昧になり人々の関心が薄れる恐れがある。また上記に示したように、既にこれだけの住友占領軍が重要ポストを占めているのである。西川氏一人が形だけ退陣しても、外からコントロールされる可能性が強い。追出すのなら全員である。


郵政事業は成長性が乏しい。しかし莫大な資金と優良な不動産を抱えている。不動産という点では、「かんぽの宿」などは全体から見れば小さいものである。昔、郵便局は、郵便物を鉄道で送っていた関係で、駅に近い一等地に大きな配送施設を持っている。これらの再開発事業が、これから大きな利権となる。

日本郵政と郵便局会社の執行役に清水弘之氏という人物がいる。清水氏は三井不動産の出身ということで、上記の表には載せなかった。しかし住友と三井の関係から、極めて西川グループに近いと推察される。このように着々と準備は整えられているのである。後で振返って見れば、「かんぽの宿」の一括売却問題はむしろ小さな問題ということになるかもしれない。


今、民主党、社民党、国民新党の野党三党の有志議員から、西川氏は特別背任未遂罪で刑事告発されている。ポイントは「第三者検討委員会」と「郵政民営化承継財産評価委員会」といった第三者機関の中立性ということになろう。最近、西川氏は第三者機関の中立性を強調した発言を続けている。刑事訴追を免れることに必死なのであろう。



(経済コラムマガジン 09/6/22(574号) http://www.adpweb.com/eco/index.html    投稿代理:栗原)