ケインジアンの欠陥 (王道日本の会:佐野) | ワールドフォーラム・レポート

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先日、ある講演会に出かけ、今をときめくケインジアン、政府紙幣発行論者で有名な丹羽春喜大阪学院大学教授の経済講演を聞く機会があったので、論評させて頂こう。


ケインジアンの欠陥

まず、彼の講演を聞いて全くがっかりした。日本の代表的ケインジアンの一人と聞いていたが、残念ながらオールド・ケインジアン(とにかく大型の財政出動せよと叫ぶ)の欠点ばかりが目立ち、彼らに日本経済の処方箋は書けないな、と実感した次第である。

丹羽氏を筆頭に、昨年のアメリカ発の金融危機を捉えて、「もう新自由主義の時代は終わった。これからはケインズの時代だ」と叫ぶ人が多い。確かに世界的な不況に陥って、ある程度の財政出動をしないと企業や雇用がもたないと言うのは事実である。

だがアメリカを見れば、別にフリードマンやハイエク流の新自由主義が敗北して、ケインズ理論が勝ったわけではない。そのいずれの理論も、それらをあやつる多国籍企業から見れば、自分達の利益を最大化するための表向きのスローガンに過ぎない。

事実、彼らは一般の事業活動においては、これまで新自由主義を叫んで途上国に市場開放を迫り、弱肉強食の競争を推し進めて、世界に貧困と格差拡大を広めてきた。

しかし、市場原理の働かない、たとえば軍需産業においてはケインズ理論をふりかざし、軍事費の増大が消費や雇用の拡大で経済成長をもたらすと主張した。さらに戦争をして、その後の復興も受注すればGPの拡大に大きく貢献するというのが、いわゆる「軍事ケインズ主義」である。


つまり両方の理論は、多国籍企業や商売至上主義者にとって、場合に応じて使い分けてきただけだと言えよう。彼らの頭にあるのは経済哲学や理論ではなく自企業の利益であるから、新自由主義を気取っていても、サブプライム・ローンで失敗すれば、臆面もなく政府に資金援助を求めることが出来るのである。

このことは、世界統一政府の進展についても言える。好景気の時は各国政府の力をはぎ取り、WТO(世界貿易機関)やIMF(国際通貨基金)、世界銀行などがあたかも世界統一政府(本拠はアメリカ)であるかのように振舞おうとするが、今回の様にアメリカ発の経済危機となれば、アメリカが世界統一政府の司令塔であるかのように、各国に財政支出を強いる。これを見れば、新自由主義もケインズ主義も、アメリカ主導の世界統一政府にすでに組み込まれていると言わざるを得ない。


日本は「景気回復に協力するにしても、年次改革要望書は廃止しよう」ぐらいはアメリカに言うべきであるが、そんな傾向は全くない。中国の急速な台頭、オバマ大統領になってアメリカ自身にも変化の兆しが見えるなど、世界のパワーバランスに変動もみられるが、今回の世界不況に限って言えば、新自由主義がダメというだけでなく、アメリカ型の金融資本主義の欠陥が明らかになったことだろう。

金融は産業の補助者、脇役、後見人であるべきなのに、アメリカ型は、金融とくに直接金融が産業をリードした。その結果、短期利益の追求、雇用重視より株主利益重視、株式上場の大企業重視、モノ造りや勤労所得より不労所得重視、貯蓄より消費や投資を重視する価値感が行き渡った。

サブプライム・ローンを証券化して転売する、それを商業銀行ではなく証券会社や投資銀行を通じて扱う、モノ造りを縮小して金融業へシフトするなどの直接金融的手法が問題を大きくしたわけで、日本も猿マネをして「間接金融から直接金融へ」、「貯蓄から投資へ」と直接金融への流れをあおってきたのが、ここ10数年の歩みである。

この間の麻生政権や野党の経済政策を見て、これらの点への反省が全くなく、公的資金による株式の直接買い取りや株譲渡益の低率課税など、相変わらず直接金融重視の政策を続けているのは残念なことである。


結局、日本の経済学者が、「新自由主義はダメだとわかったが、直接金融中心の資本主義はまだまだ使えるし、間接金融より優れている」と思っているのかも知れない。絶えず外国を模倣するしか知恵のない翻訳学者には困ったもので、その不勉強の罪は重いと言わざるを得ない。

日本は米欧と違って、直接金融よりも間接金融中心にした方が、資本主義がうまく機能するのである。


自立・共生をうながす日本型資本主義を!


今回の不況を通して、アメリカ型でもヨーロッパ・北欧型でもない、新自由主義でもケインズ主義でもない、日本型の経済システムが問われている。それを明示できなければ、赤字国債とインフレ懸念、増税懸念が積み上がるだけで問題はさらに大きくなり、政治不信が積み上がるばかりである。


日本型システムを「自立・共生型経済」と名付けて処方箋を書くと、一国の経済は人体とよく似ている。人体に「自然治癒力」が備わっているように、一国の経済にも「見えざる手」による自動調整機能が本来、備わっている。


時々、風邪を引いたり大病にかかるが、投薬(財政出動)は症状を見極めながら必要量に抑えることが理想である。過剰・長期の投薬は薬依存症や副作用=将来のインフレや増税、政府依存症の蔓延、また財政支出を増やし続けないと効かなくなり、自然回復力を極端に衰えさせる=をもたらすから、弊害ばかり目立ってくる。

どの政党も大型の財政出動(投薬)をうたっているが、これらは健康状態を回復すれば、すぐにも止めるべきで、投薬の必要十分量の判断と、停止時期の見極めこそが重要である。必要量を超えて過剰な投薬を行なったり、ダラダラと投薬を続けるのは、副作用の危険が増すだけなのである。


さて、一国の経済に自然治癒力が備わるためには前提がある。それは、雇用があり、中間所得層が多数を占めることである。なぜなら不況に陥っても、中流層が厚く、雇用が維持されていれば、自国民の消費力に底があり、自律反転の力があるということである。


逆に言えば、中間層が存在せず、雇用が維持されなければ自律回復機能はいちじるしく劣化する。この点で、国家の壁を無くして中国などと低賃金の競争を強いる新自由主義は、最悪である。新自由主義とは結局、誰にとっての自由かというと大企業・多国籍企業にとっての自由なのである。

ちなみに、ケインズ主義の問題点をもう一つ言っておくと、絶えず財政で消費を刺激しようとする政策は、発展途上の国には有効であろう

だが、一通りのインフラを揃え、モノが行き渡った成熟国家においては、相当部分が無駄に終わる。特に開放経済で変動相場制をとる国においては、財政出動が輸入品購入で海外の雇用拡大にまわったり、輸出増加で円高となって、逆に景気が悪化する。あるいは電柱の地中化のように10倍のコストとその後の維持費が膨大となるなど、赤字国債を積み上げるだけに終わり易い。

今回の不況は輸出減少と建設不況、外資の撤退が3大原因で、これに以前から続く地方経済の劣化が重なっている。そのうち建設不況は、1990年代以降、容積率とけんぺい率を大幅に緩和したことが原因である。ために供給過剰に陥り、外資の撤退も重なって需給ギャップが拡大した。マネーの供給過剰と同じ現象が起こっているが、この解決は容易ではない。マネーなら過剰分を市場から吸収する策はあるが、ビルやマンションの供給過剰は、倒壊でもしない限り解消できない。値下げ競争で賃料デフレ(それ自体は歓迎すべきことであるが)をもたらし、最後は不良債権化して、融資銀行の財務悪化で企業融資に悪影響を及ぼすことになる。

これらを考えると、対策として建ぺい容積率の規制強化(建設バブルの抑制)、外資規制、輸出入でバランスの取れた経済、変動相場性以外の為替制度の検討などが重要となる。

その他、ケインズ主義に限らないが、GP重視の考えはもうやめた方がよい。彼らは一様に、GPが高い国=幸せな国、低い国=貧しくて不幸な国という図式を描くが、先般、国家破産したアイスランドは、直前まで一人当たりGⅮPは世界第3位であった。金融を外国に頼ったために、自国通貨の激安で、返済債務が倍増したためである。

一方、農業国は食糧を家庭内でも自給できるため、GⅮPは相当低くなる。だが、食糧危機で先に蛾死するのは食糧自給のできない国である。

これらは、どれほど自由貿易を進めようと、食糧と金融だけは自国内でまかなうのが国家の自立の基礎であることを教えてくれる。

GⅮP重視を止めた方が良い理由は他にもあり、世界の人類が日本人並みの消費を続けるにはすでに地球が2個分必要である。これを無視して「デフレ・ギャップを埋めよ、大型の財政出動で消費の喚起を!」というのは、あまりにもノーテンキで、目先の選挙対策のことしか考えていないと言わざるを得ない。

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