(1/11)価格転嫁難しく、中小景況感は足踏み(商工中金調査部)
わが国の景気は拡大基調をたどっている。実質国内総生産(GDP)は2006年7―9月期まで7四半期連続で前期比プラスとなった。景気拡大期間も06年12月で59カ月目と「いざなぎ景気」を超え、戦後最長の景気拡大になったとみられる。しかし、中小企業の景況感は改善が進んでいない。
売り上げは42カ月連続で増加
商工中金の「中小企業月次景況観測」によると、06年11月の中小企業の売上高(全産業ベース)は、前年同月を1.8%上回り、42カ月連続で増加した。前年比伸び率は11月にやや低下したものの、05年8月以降でならしてみると3%程度の伸びを確保している。また、06年12月の見込み、07年1月の予測はともに同4.3%増で、売り上げは拡大基調が続く見通しである。
こうした状況を反映して、設備の過不足を示す生産設備DI(「不足」-「過剰」の企業の割合)は12月時点で2.0の「不足」超となっている。雇用の過不足感を示す雇用状況DI(同)も11.5と不足感の方が強く、中小企業においては生産要素の繁忙感が強いことがうかがわれる。
これに対して、中小企業の景況感を示す景況判断指数は、12月に49.1となり、「好転」「悪化」の分岐点である50を下回った。景況判断指数は05年9月に14カ月ぶりに50台に回復したが、06年7月以降は50をはさんだ一進一退が続いている。売上高が堅調に増加し、雇用・設備の不足感が強いにもかかわらず、中小企業の景況感は一向に改善が進んでいない。
販売価格の上昇の勢いは弱い
改善が足踏みを続けている原因としては、仕入価格に比べて販売価格が上昇せず、採算確保が難しくなっていることが大きい。
仕入価格の動向を示す仕入価格DI(「上昇」-「下落」の企業割合)は、42カ月連続で「上昇」超であるプラスとなっており、06年12月は17.4と、8月の25.4からはいくぶん低下したものの、依然として大幅なプラスが続いている。
一方、販売価格DIは、日本経済のデフレ進行と相まって、10年以上にわたり「下落」超であるマイナスが続いた。06年5月にようやくプラスに転じたが、その期間はまだ8カ月に過ぎず、足元のピークでも3.5(9月)と低水準だ。直近の12月の販売価格DIは0.5で、販売価格の上昇は仕入価格に比べて勢いが弱い。中小企業は、仕入価格の値上げをのまざるを得ない一方で、売り値の引き上げはなかなか通らない状況にあることがうかがわれる。
こうした仕入価格の上昇は、中国をはじめとする新興諸国の経済発展を受けた国際商品市況の高騰が背景にあり、決して一過性の現象では終わらないと考えられる。中国など「世界の工場」群は、資源を引き寄せてその価格を高騰させる一方で、世界市場に向けて廉価品を送り出している。このはざまにいる中小企業は、原材料価格の上昇分の製品・サービス価格への転嫁が困難になっている。
中小企業庁の「規模別企業物価指数」で、中小企業性製品(中小企業の出荷シェアが70%以上の品目)と大企業性製品(大企業のシェアが70%以上の品目)の価格を比べてみた。前年比の価格上昇率は、05年2月以降06年11月まで22カ月連続で、中小企業性製品が大企業性製品を下回っており、中小企業で販売価格が上がりにくい傾向であることが分かる。
採算状況DIは悪化超のまま
中小企業の採算状況DI(前月と比べて「好転」-「悪化」の企業割合)の動きをみると、90年10月にマイナスに転じて以降、「悪化」超が続いている。今回の景気回復局面で改善の動きはみられるものの、一度も「好転」超に転じることはなく、06年8月にはマイナス10.2と2ケタのマイナスを付けるに至っている。
これは逃げ水のような仕入価格の上昇に販売価格が追いつけないためにほかならず、足元でも採算DIはマイナス5前後の動きが続いている。売上高が前年を上回る状況が4年目に入ったにもかかわらず、景況判断指数が50前後から抜け出せないゆえんである。
中小企業は仕入価格と販売価格の格差を埋め切れないだけでなく、同じく素材高に苦しむ販売先や親会社から、更なるコストダウンを要請されたり発注先を替えられるといった動きも広がっている。
独自のヒアリング調査によると、「ホテルを中心に需要は堅調推移。しかし、石油価格値上がり分については、同業者間の競争が厳しいことから、転嫁困難で、採算が悪化」(リネンサプライ業)、「荷主の大手食品メーカーの荷動きは堅調。ところが、軽油価格上昇分の運賃への転嫁ができず、採算面は厳しい。運賃引き上げを申し出たところ、他社への発注替えをほのめかされ、同業者間の競争が激しいことから、据え置きをのまざるを得なかった」(トラック運送業)といった事例は枚挙にいとまが無い。
商工中金が06年7月に実施した調査では、経営に影響を与える重要な要因として「素材・原油価格の動向」をあげる経営者が半分近くにのぼった(図表4参照)。中小企業では、素原材料高による粗利益率の低下、顧客喪失による売り上げ減が複合して起きる可能性が高く、この克服は大きな経営課題となっている。
(商工中金調査部 主任調査役 江口政宏)