中堅・中小企業に押し寄せる世代交代のうねり
中堅・中小企業に押し寄せる世代交代のうねり
相続・経営承継コンサルタント協同組合理事長
公認会計士 税理士 石 光仁(せき こうじん)
1.経営承継は経営の超戦略的課題である
“事業承継”という言葉がある。この言葉からどんなイメージが、湧くだろうか?おそらく、相続税の節税か、遺言書のことを連想されるのでは、なかろうか。会社を“財産価値(オカネに換算した場合の価値)”という側面からみれば、このようなイメージが浮かぶのは、当然である。しかし、このようなとらえ方は、根本的な認識間違いであることを断言しておく。
そもそも、“事業承継”とは、創業者が自分の育てた会社を、後継者にその経営を引き継いでもらうことだと定義づけたい。当然の事ながら、先ほど、申しあげたように会社の財産価値も合わせて引き継ぐことになる。従って、相続税の節税とか遺言書の活用は、会社経営を引き継ぐという根本目的に付随して発生することになるが、あくまでも二次的な課題に過ぎないのである。もちろん、多額の相続税で、その納税資金の用意に苦しんだり、遺産分割をめぐって兄弟の間で争いが生じることも多数あるため、相続税節税や遺言書の活用をないがしろに出来ないのも現実ではある。しかし本質から言えば、やはり二次的な課題に過ぎないのである。
「事業承継」という言葉は、1980年バブル期に登場した言葉であり、会社の自社株に課税される相続税対策として登場した。今なお、あだ花として残っているが、私の以下の論説に相応しくないと考えるため、“経営承継”という言葉を使うことにする。
そして“経営承継”とは、経営の超戦略的課題としてとらえ、会社を持続的に成長できる新しい組織・新しい体制づくりをすることが、その目的であると確信する。そうした認識の下、それに相応しい経営承継の計画づくりが、自ずと出てくるのである。
2.親は子供に会社を継がせたい。しかし、子供は!?
日本の企業は、今、経営者の新旧世代交代という波にのまれている。資料1をご覧いただきたい。1979年から2002年までの社長の年齢構成を時系列的に表現している。1979年では、60歳以上の社長の構成比率は22.9%であったのが、2002年には、43.3%とほぼ、倍に増えている。確実に社長が高齢化していっているのが理解いただけると思う。次に資料2をご覧いただきたい。資本金規模別に社長の平均年齢の変化を1982年から2004年までの期間で表した図表である。特に資本金1000万円未満の中小企業の社長の高齢化が最も進んでいることがわかる。経営者の高年齢化は、当然、企業活力の低下を意味することにつながり、日本の今後の行く末の大きな不安材料になることは容易に想像できる。
では、何故、社長の高年齢化が進んでいるのだろうか? これは、必ずしも子供が親の事業を継ぐとは限らないためである。資料3をご覧いただきたい。子供以外の後継者が増えつつあることが理解できる。これには、いろいろな原因があるが、「親の事業に将来性・魅力がないから」「自分には、経営していく能力・資質がないから」というようなものが代表的な理由であろう。 中小企業庁も昨年、事の重大さに気づき、事業承継協議会という有識者会議を発足した。今後、中小企業の経営承継に対して有効な政策を立案されんことを、切に願うばかりである。
3.経営承継の基本は、後継者教育!―相続から想続へ―
経営承継とは、創業者が自分の育てた会社を、後継者にその経営を引き継いでもらうことだと定義した。では、次に引き継ぐ後継者(一般的には、息子)に焦点をあててみる。
会社を引き継ぐことは、「起業」とまた違う重さ・苦しみがある。よく二代目は、苦労を知らないとか、気楽でいいとか、言われる。本当にそうだろうか? 私は、個人的には、起業より、出来上がった会社を引き継ぐ方が、難しいのではないかと考えている。
起業の場合は、ゼロからのスタートなので、経営というものを、ゆっくり確実に、また、失敗もしながら経験を通して理解していける。しかし、親の会社を引き継ぐ場合は、すでにある会社をいきなり、経営することを意味する。これは、想像以上に、精神的にきついのである。まず、責任が重い。得意先・社員・下請先・銀行等関係先が多ければ多いほど、プレッシャーがかかる。多くの社員を管理し、また、経営者としてリーダーシップを発揮しなければならない。銀行借入金もある。業績が悪く、返済が窮屈であれば、いきなり、しんどい局面から経営者としてスタートせざるを得ない場合もある。責任を負わなければならないステークホルダーが多いのである。
従って、私は、創業者は、その重責に堪え得るよう、後継者をしっかり教育する義務があると思うのである。それが、今まで、いっしょに事業を共にしてきた社員に対する思いやりであり、また、ご贔屓にしてくれた得意先への責任でもあると思うのである。
しかし、私が経験した限りでは、後継者に対して適切な教育がなされていないケースの方が圧倒的に多い。これは、なぜか? 継がす者と引き継ぐ者が親子であるからである。親子関係に、“歪んだ甘え”があるからだと思われる。子供は、いつまでたっても(仮に50歳代でも)、子供扱い。したがって、子供が反発したりやる気をなくしたりする。このような状態では、経営承継が円滑に為される筈がない。親子の関係より、その重責を全うする方を優先すべきである。つまらない親子喧嘩は言語同断である。
話は、やや飛躍するかもしれないが、経営者は、社風の育成づくりについては、よく考える。しかし、家風についてはどうだろうか? 家風という言葉は、現代では死語になっている。私は、個人的には、「家風」の再生は、中小企業の再生につながるぐらい、とても大事なことであると考えている。もし、大事な子供に大事な社業を引き継がせたいのであれば、家風から整えていく必要があると考える次第である。未来の経営者にふさわしい見識、姿勢、行動、このようなものを大切にする価値観を持った家風づくりに励む必要がある。
「相続」という言葉がある。これは法律概念で、財産の相続人への分割手続のことを意味する。しかし、その前に、親は、子供に続けてほしい人生に対する「想い」があると、私は思う。これを私は「想続」と呼んでいる。まさに家風の継続のことである。経営承継も同じであると考える。創業理念というものが、まずあって、その想い(創業理念)の継続、すなわち「想続」ということが、メインテーマであるべきだと考える。このように良き家風あるところに、次世代の良き経営者は、育つと考えるのである。
4.近代経営の教育こそ、必要
「家風」を整え、「理念」の継承の重要性を述べさせていただいた。その上で、近代経営教育の必要性を説きたい。企業の多くは、「成り行き経営」である。理念もビジョンもない。あっても語れない。語れなければ、ないのと同じである。企業活動は、理念・ビジョンを達成するための活動である。短期的には、利益を追求しなければならないが、長期的には、ビジョンの達成なのである。その達成の手段として、組織体制・会計制度・人事体制を構築・展開するのである。
これが近代経営なのである。しかし、わが国において、このような近代経営の教育機関がないのは、まことに残念なことである。「人事セミナー」「管理会計セミナー」「営業セミナー」というパーツのセミナーは多数ある。しかし、企業は有機的存在であり、全体として、企業というものをとらえない限り、パーツの勉強をしても実務には、役立たないのである。私は、現在、企業研修のあり方を根本からあらためるべきであると考えている。そして、次世代経営者にそのコンテンツを提供できるような体制を構築していきたいと思っている。親子で近代経営を学び、そして、その考え方にそって、未来の会社づくりのお手伝いができればいいなあと考えている次第である
日経ベンチャー2006.11.29
相続・経営承継コンサルタント協同組合理事長
公認会計士 税理士 石 光仁(せき こうじん)
1.経営承継は経営の超戦略的課題である
“事業承継”という言葉がある。この言葉からどんなイメージが、湧くだろうか?おそらく、相続税の節税か、遺言書のことを連想されるのでは、なかろうか。会社を“財産価値(オカネに換算した場合の価値)”という側面からみれば、このようなイメージが浮かぶのは、当然である。しかし、このようなとらえ方は、根本的な認識間違いであることを断言しておく。
そもそも、“事業承継”とは、創業者が自分の育てた会社を、後継者にその経営を引き継いでもらうことだと定義づけたい。当然の事ながら、先ほど、申しあげたように会社の財産価値も合わせて引き継ぐことになる。従って、相続税の節税とか遺言書の活用は、会社経営を引き継ぐという根本目的に付随して発生することになるが、あくまでも二次的な課題に過ぎないのである。もちろん、多額の相続税で、その納税資金の用意に苦しんだり、遺産分割をめぐって兄弟の間で争いが生じることも多数あるため、相続税節税や遺言書の活用をないがしろに出来ないのも現実ではある。しかし本質から言えば、やはり二次的な課題に過ぎないのである。
「事業承継」という言葉は、1980年バブル期に登場した言葉であり、会社の自社株に課税される相続税対策として登場した。今なお、あだ花として残っているが、私の以下の論説に相応しくないと考えるため、“経営承継”という言葉を使うことにする。
そして“経営承継”とは、経営の超戦略的課題としてとらえ、会社を持続的に成長できる新しい組織・新しい体制づくりをすることが、その目的であると確信する。そうした認識の下、それに相応しい経営承継の計画づくりが、自ずと出てくるのである。
2.親は子供に会社を継がせたい。しかし、子供は!?
日本の企業は、今、経営者の新旧世代交代という波にのまれている。資料1をご覧いただきたい。1979年から2002年までの社長の年齢構成を時系列的に表現している。1979年では、60歳以上の社長の構成比率は22.9%であったのが、2002年には、43.3%とほぼ、倍に増えている。確実に社長が高齢化していっているのが理解いただけると思う。次に資料2をご覧いただきたい。資本金規模別に社長の平均年齢の変化を1982年から2004年までの期間で表した図表である。特に資本金1000万円未満の中小企業の社長の高齢化が最も進んでいることがわかる。経営者の高年齢化は、当然、企業活力の低下を意味することにつながり、日本の今後の行く末の大きな不安材料になることは容易に想像できる。
では、何故、社長の高年齢化が進んでいるのだろうか? これは、必ずしも子供が親の事業を継ぐとは限らないためである。資料3をご覧いただきたい。子供以外の後継者が増えつつあることが理解できる。これには、いろいろな原因があるが、「親の事業に将来性・魅力がないから」「自分には、経営していく能力・資質がないから」というようなものが代表的な理由であろう。 中小企業庁も昨年、事の重大さに気づき、事業承継協議会という有識者会議を発足した。今後、中小企業の経営承継に対して有効な政策を立案されんことを、切に願うばかりである。
3.経営承継の基本は、後継者教育!―相続から想続へ―
経営承継とは、創業者が自分の育てた会社を、後継者にその経営を引き継いでもらうことだと定義した。では、次に引き継ぐ後継者(一般的には、息子)に焦点をあててみる。
会社を引き継ぐことは、「起業」とまた違う重さ・苦しみがある。よく二代目は、苦労を知らないとか、気楽でいいとか、言われる。本当にそうだろうか? 私は、個人的には、起業より、出来上がった会社を引き継ぐ方が、難しいのではないかと考えている。
起業の場合は、ゼロからのスタートなので、経営というものを、ゆっくり確実に、また、失敗もしながら経験を通して理解していける。しかし、親の会社を引き継ぐ場合は、すでにある会社をいきなり、経営することを意味する。これは、想像以上に、精神的にきついのである。まず、責任が重い。得意先・社員・下請先・銀行等関係先が多ければ多いほど、プレッシャーがかかる。多くの社員を管理し、また、経営者としてリーダーシップを発揮しなければならない。銀行借入金もある。業績が悪く、返済が窮屈であれば、いきなり、しんどい局面から経営者としてスタートせざるを得ない場合もある。責任を負わなければならないステークホルダーが多いのである。
従って、私は、創業者は、その重責に堪え得るよう、後継者をしっかり教育する義務があると思うのである。それが、今まで、いっしょに事業を共にしてきた社員に対する思いやりであり、また、ご贔屓にしてくれた得意先への責任でもあると思うのである。
しかし、私が経験した限りでは、後継者に対して適切な教育がなされていないケースの方が圧倒的に多い。これは、なぜか? 継がす者と引き継ぐ者が親子であるからである。親子関係に、“歪んだ甘え”があるからだと思われる。子供は、いつまでたっても(仮に50歳代でも)、子供扱い。したがって、子供が反発したりやる気をなくしたりする。このような状態では、経営承継が円滑に為される筈がない。親子の関係より、その重責を全うする方を優先すべきである。つまらない親子喧嘩は言語同断である。
話は、やや飛躍するかもしれないが、経営者は、社風の育成づくりについては、よく考える。しかし、家風についてはどうだろうか? 家風という言葉は、現代では死語になっている。私は、個人的には、「家風」の再生は、中小企業の再生につながるぐらい、とても大事なことであると考えている。もし、大事な子供に大事な社業を引き継がせたいのであれば、家風から整えていく必要があると考える次第である。未来の経営者にふさわしい見識、姿勢、行動、このようなものを大切にする価値観を持った家風づくりに励む必要がある。
「相続」という言葉がある。これは法律概念で、財産の相続人への分割手続のことを意味する。しかし、その前に、親は、子供に続けてほしい人生に対する「想い」があると、私は思う。これを私は「想続」と呼んでいる。まさに家風の継続のことである。経営承継も同じであると考える。創業理念というものが、まずあって、その想い(創業理念)の継続、すなわち「想続」ということが、メインテーマであるべきだと考える。このように良き家風あるところに、次世代の良き経営者は、育つと考えるのである。
4.近代経営の教育こそ、必要
「家風」を整え、「理念」の継承の重要性を述べさせていただいた。その上で、近代経営教育の必要性を説きたい。企業の多くは、「成り行き経営」である。理念もビジョンもない。あっても語れない。語れなければ、ないのと同じである。企業活動は、理念・ビジョンを達成するための活動である。短期的には、利益を追求しなければならないが、長期的には、ビジョンの達成なのである。その達成の手段として、組織体制・会計制度・人事体制を構築・展開するのである。
これが近代経営なのである。しかし、わが国において、このような近代経営の教育機関がないのは、まことに残念なことである。「人事セミナー」「管理会計セミナー」「営業セミナー」というパーツのセミナーは多数ある。しかし、企業は有機的存在であり、全体として、企業というものをとらえない限り、パーツの勉強をしても実務には、役立たないのである。私は、現在、企業研修のあり方を根本からあらためるべきであると考えている。そして、次世代経営者にそのコンテンツを提供できるような体制を構築していきたいと思っている。親子で近代経営を学び、そして、その考え方にそって、未来の会社づくりのお手伝いができればいいなあと考えている次第である
日経ベンチャー2006.11.29