新型特養、介護報酬削減で経営難
施設の7割赤字に
「介護の質の向上」を目指して厚生労働省が推進してきた「新型特養」が、経営悪化に揺れている。昨年10月からの介護報酬削減が最大の原因だが、入所者が自己負担を減らすために施設に住民票を移す「世帯分離」も、経営難に拍車をかけている。
4月からの新しい報酬が26日に公表されるのを前に、新型特養をめぐる問題を探った。(社会保障部 針原陽子 大津和夫)
「もう限界」
「見通しは真っ暗。首をくくりたい心境です」。愛知県音羽町の新型特養「ジャルダン・リラ」を運営する社会福祉法人「順明会」の大塚昌明理事長は、疲れ果てた表情でこう語る。
開所は2年前。施設整備のため約7億8000万円の借金を抱えたが、当初の経営は比較的順調だった。それが昨年10月の報酬改定で、経営状況は一気に悪化。月額で約400万円の赤字に転落したという。
赤字分を入所者に転嫁して、一人当たり月額約8万円の居住費を負担してもらえば減収分は抑えられるが、入所者約100人中、低所得者が8割を占める現状ではとても無理。経営努力も進めたが、「もう限界」だ。
「国の指導で新型特養を作ったのに、はしごを外された気持ちだ。このままでは、閉所も真剣に考えざるを得ない」と強調する。
在宅者と平等に
経営難を訴えているのは、この特養ばかりではない。全国の新型特養の施設長らで作る「全国新型特養推進協議会」(赤枝雄一会長、120施設加盟)が、昨年8月に加盟施設に行った調査によると、回答があった111施設中、約70%にあたる79施設が、「赤字になる」と回答した。
経営悪化の要因は、昨年10月に行われた報酬削減だ。厚生労働省は、在宅で暮らす要介護者との負担の公平性などから、施設の居住費と食費を保険給付から外すことにした。その結果、新型特養に介護保険から支払われる報酬は、従来より1人あたり月額約4万5000円減り、施設側は減収分を、入所者からの自己負担で賄うこととなった。
入所者が支払う居住費は、原則、施設と入所者の契約で決まる。新型特養では10月前から既に、整備費用として、月額4~5万円の居住費負担を求めることができたため、入所者の負担は今回の報酬減額分と合わせ、月額十数万円に上ってしまう。しかし、低所得者については、本人負担と公費を合わせ、「月額6万円」という実質的な上限が設けられたため、とりわけ低所得者が多い施設では、一気に経営が悪化する事態が生じた。
質の低下心配
新型特養の報酬を大幅に減らしたことについて、厚労省は、「入所者負担分を機械的に引いたもの。人手がかかる新型特養の特性を考慮したものではなく、適切ではなかった」(老健局)として、26日に発表する新報酬では、削減した報酬の一部を戻す方向で検討している。
NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」の樋口恵子理事長は、「施設の経営が悪化すれば、介護の質の低下が懸念される。また、万一、閉所する施設があれば、入所者と地域住民に大きな影響を与える」と指摘。「国は新型特養の整備を進めている以上、施設側が適切な介護ができる体制を整えられるよう報酬を見直すべきだ」と話している。
「世帯分離」増加、扶養外れて収入減
経営悪化のもう一つの要因として、自己負担が一気に増えるのを避けるため、これまで子供などの扶養家族になっていた高齢者が、住民票を施設に移す「世帯分離」の広がりも指摘されている。世帯収入が十分にあり、一定の自己負担をしていた高齢者も、世帯分離により単身世帯になれば、多くの場合、低所得者扱いになり、低い自己負担で済む。その分、施設側の収入は減ることになる。
「新型特養協議会」が今月、緊急に行った調査では、約100施設中、80%以上の施設で「低所得者」が増えたという結果が出た。
こうした状況について、群馬県内のある新型特養の施設長は、「中には、本当の『低所得者』と呼べない人もいる。これでは国が言う『応分の負担』とは言えないのでは」と疑問を投げかける。この特養では世帯分離が進み、自己負担が軽減されない一般の入所者が、昨年9月時点の26人(55%)から、今月は7人(14%)にまで減った。世帯分離は違法行為ではないため、市町村によっては、家族に手続きを教えているケースもあるという。
低所得者が増えれば施設の減収だけでなく、公費負担も増大する。厚労省は、「庶民の知恵という側面もあるが、超高齢時代の介護負担のあり方を考えると問題だ」と頭を悩ます。
池田省三・龍谷大教授は、「10月以降、世帯分離が広がっている。4月に施行される障害者自立支援法や、高齢者医療制度などにも波及しかねない。所得要件を見直すとか、資産を申告させるなど、国として対応を考えていかなければならない」と指摘している。
新型特養 全室個室で、10人程度のグループごとに食堂兼居間を設け、専属の職員が介護するなど、生活環境が家庭に近い特別養護老人ホーム。2002年度に制度化。相部屋中心の従来型より整備費の補助金が低い。