私が「憲法9条こそが憲法違反」「日本は早く憲法改正すべきだ」と主張することについて、護憲派の人たちが、「昔のケントは9条を絶賛していた!」などと書くことがあります。
9条条文 

確かに、88年4月に出版した「ボクが見た日本国憲法」(PHP研究所)の中で、私は日本国憲法第9条について、「第九条って戦争の放棄だったね。あれはあれでいいんじゃないの。」と書いています。


しかし、それを「9条を絶賛していた!」などと書かれると、「それは違う」と言わざるを得ません。はっきり言って、文章の読解力が足りないと思います。


昨年8月9日の有料メールマガジンでこの件を書いていますので、そこに掲載した記事を一部転載します。ご自分で読んでみて、それぞれの方が判断して下さい。


ちなみに、「やっと自虐史観のアホらしさに気づいた日本人」(PHP研究所)の中でこき下ろした日弁連(日本弁護士連合会)に対する不満も、88年の時点ですでに書いていますよ(笑)

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2015年8月9日発行 まぐまぐ有料メールマガジン
ケント・ギルバートの「引用・転載・拡散禁止!」Vol.14より抜粋

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1、1988年出版「ボクが見た日本国憲法」第9条の部分です
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1988年4月に「ボクが見た日本国憲法」という本をPHP研究所から出
版しました。その中で第9条について書いた部分をテキストにしたので、今
日はそれを掲載します。27年も前、「仮想敵国」がPRCではなくソ連だ
った時代の本ですが、あらためて読んでみて、自分の考え方がそれほど変わ
っていないことを再確認しました。ただし今は、日本の安全保障の障害にな
っている9条は、一日も早く改正すべきだと考えています。
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第九条【戦争の放棄、軍備及び交戦権の否認】
(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権
の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する
手段としては、永久にこれを放棄する。
(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しな
い。国の交戦権は、これを認めない。


どうして憲法九条で大騒ぎになるのかな?

 憲法記念日の昼下り。港区のあるティールームで、日本人の友人とジュー
スを飲んでいるときのことです。

「ケントさん、憲法第九条についてどう思う?」

「第九条って戦争の放棄だったね。あれはあれでいいんじゃないの。戦争を
しないというんだから……。武器ももたないんでしょ。こんないいことない
じゃない」


「まじめに答えてよ。あんたも弁護士なんだから」


「僕はカリフォルニア州弁護士。ただの弁護士って言うと、日本の弁護士団
体からおこられるの!」


「なんだかきょうはスネてる感じだね。まあ、いいや。とにかく憲法では日
本は戦争をしないし、軍備ももたないことになっている。ところが自衛隊と
いう名の立派な軍隊がある。それがいいか悪いかは別にして、日本国民の大
多数は、これはおかしいことだと思ってるんだ」


「ちっともおかしくないサ。だって自衛隊でしょ。自分の国を守るのは当然
じゃないか」


「いや、言葉の上では自衛隊でも、軍備はどんどん増強され、日米安保によ
って、アメリカの軍事戦略の中にガツチリ組み込まれている。これはもうど
んな言い訳したって、世界でも有数の軍隊だ」


「そのとおりだね。だけどそれのどこが問題なのサ」


「だから憲法に違反すると・・・・・・」


「違反したからどうだっていうの」


「憲法を変えるか、現実を変えるかどっちかだ」



 日本で憲法論議、とくに自衛隊の問題を論議すると、話はだいたいこの方
向に行ってしまうようです。憲法変えるか、現実を変えるか。現実を変える
というのは、自衛隊をなくすことでしょうが、国民の大多数は「自衛隊をま
ったくなくす方がいい」とは思っていない。といって、憲法を改正して軍隊
を持つことをはっきりさせるのも、軍事大国化を認めるようでこわい。名案
がなくてみんな困っているようです。


 この問題について、僕の正直な感想を述べれば、憲法に書かれていること
と、自衛隊の存在とは、たしかに一見矛盾しているように感じられる。ここ
までは、たぶんみなさんと同じでしょう。でもその先はたぶん違うと思いま
す。


 どういうふうに違うか。ぼくは日本国憲法を読んで、「自分を守ることが
禁じられている」とは思えないからです。女性ダンサーが駅で酔っ払いに絡
まれて、その男をホームから突き落として死なせてしまった事件。あの事件
で殺人の罪を問われたダンサーは無罪になりました。これは当然です。誰だ
って自分の生命・財産を守る権利はあるからです。


 これは憲法第九条に何が書いてあろうと普遍的な権利です。つまり自分を
守る権利は憲法以前の問題として存在する。かりに日本国憲法に「働いてな
い人間には選挙権を与えない」「女子の賃金は男子に二割安とすると書かれ
ていたらどうしますか。


「いくら憲法だからって、そんな内容はひどすぎる」ってすごい文句がでる
でしょう。このように憲法に書かれたことは絶対でもすべてでもないんです。
憲法がどうあろうと、自分を守る権利はある。その自分が国家に属していれ
ば、その国の存在を守る権利は憲法以前にあるということです。


 憲法九条をそういう見方で読めば、別に自衛隊があることと、戦争の放棄、
交戦権の否認でそう悩むことはないと思いますよ。


「武力による威嚇はしない?」
「イエス」


「武力行使で国際紛争を解決しない?」
「イエス」


「前項の目的のための軍隊は保持しない?」
「イエス」


これで十分じゃないですか。たしかに九条と自衛隊の関係でおかしな問題は
ありますよ。


 アメリカが言ってあの条文ができたのに、そのアメリカが日本にもっと軍
事費ふやせなんて言ってるのはおかしなことです。でも日本が独自に考えて、
自分の国を守ろうとすることまで、禁じられてないし、アメリカといえども、
よその国にそんなこと言う権利はない。


 百歩ゆずって憲法条文上、禁じられていたとしても、それは憲法レベルま
での話で、国民には、憲法以前に人間としての基本的権利があります。そう
いう権利を国民みんなで確認し合うよりどころが憲法なんです。人間以前に、
国民以前に、神様みたいに憲法があるわけじゃないです。


 憲法にかぎらず、法律はすべて言葉でつくられるから、必ず解釈の問題が
出てくるんです。解釈の仕方では、言葉の意味とは逆になったり、言葉とし
て書かれてないものが出できたりします。たとえば、アメリカ憲法は、どこ
探したって「プライバシー」なんて言葉は見当たりませんよ。プライバシー
を明確に認めた条文はないんです。でも全体の意味から言って「プライパシ
ーを守るものだ」とそう解釈しているんです。


 自衛隊だって解釈の問題です。日本国憲法には「戦争するための軍隊は持
たない」と書いてるのはたしかだけど、「国民を守ってはいけない」なんて
どこにも書いてない。それだけで自衛隊の存在を認めていいじゃないですか。



日米安保条約がなければソ連は入ってくるか?

「なるほど。自衛権というのは、憲法以前の権利だから、九条にどう書かれ
ていようと、堂々と自衛隊を認めればいいってのが、ケントさんの意見だね」


「そう。まあ純粋に法律的に考えれば、僕の意見はいい加減かも知れないけ
ど、現状を解釈して受け入れるためには、それでいいんじゃない?」


「たしかに憲法以前というのは、面白い解釈だ。だけどね、日本の憲法論議
には、妙なところがあってね。与党の自民党が憲法改正を考えていて、革新
政党である社会党なんかは憲法を守れって言ってるんだ。これをどう思う?」


「最終的には国民の意志の問題だけど、野党が憲法を守れっていうのは、ま
さか現状を認めることではないんだろ」


「もちろん。憲法を守るということは、いまの現実が間違っているというこ
と。社会党などは、安保条約をやめて、自衛隊もなくすことが理想だと言っ
てる」


「アメリカがいなければ、ソ連が入ってくるかも知れないよ」


「ハハハ、それはいかにもアメリカ的な考え方だ。その点に関して、日本人
はそう深刻に思っていないよ」



 もし日本の国民の大多数がそうだとしたら、ソ連に対する日本人の認識は、
かなり甘いと言わざるを得ないですね。ソ連はそういう国なんです。ゴルバ
チョフは、言ってませんが、ソ連の憲法にはそのように書いてあります。


 参考までに一度ソ連の憲法を読んで見るといいですね。ソ連憲法には「人
民戦争によって世界を自分たちの考え方(マルクス主義)で改革していくこ
とをめざす」といった目的、行動パターンが高らかな調子で宣言されている。
これはソ連が悪意をもって、他国を侵略するというのではなく、彼らは自分
たちの理想を実現したいと思っているんですね。むかしキリスト教の伝導師
たちは、どんな困難にも負けないで、キリストの教えをひろめようと、世界
中に出ていった。これとよく似てるんですね。中身がキリスト教からマルク
ス主義に変わっただけと思えばいいんです。


 アメリカが自由と民主主義を守ると言ってるのと同じだから、どっちを選
ぶかは国民の自由意志の問題です。ソ連が好きな人もいるでしょうからね。
でも「ソ連は好きじゃないけど、今の時代にまさか入ってくるとは思わない」
というのは、現状では甘い考え方であると僕は言いたいですね。



変えなくてすむなら憲法は変えない方がいいと思う

「やっぱりソ連が入って来る?」


「来るかどうかは知らないヨ。だけども来てからじゃ遅いでしょ。用意や準
備は万一のことを考えてやるものサ。断わっておくけど、これは僕だけの意
見じゃないぜ。日本人以外の西側陣営の市民の多数意見と思ってもらってい
い」


「まあ、それは分かったけど、自衛隊についてわれわれ日本人は、その実態
を案外知らないんだよね」


「それは言える。議論の上ではいろいろ言っても、肌で感じるってことが少
ない。僕が以前からブキミに思ってることがひとつあるよ」


「なんだい?」


「町を歩いていて、自衛隊の人に滅多に出会わないこと。これちょっとプキ
ミじゃない?」


「そう言えば、そうだなア」


「……だろ。僕は沖縄にしばらくいたことがあるけど、沖縄でも同じだった
よ」


「ここにも、憲法九条問題の難しさがあるんだ。みんなスッキリしてない。
改正した方がいいという意見が出てくるのも、何も軍事大国をめざすなんて
ことじゃなくて、スッキリしたいってことも大きいね」


「僕は改正する必要はないと思うな」


「なぜ?」


「変えても変えなくても、国民の意志はそう変わらないと思うから。それな
らあえて改正する必要なんかないさ。憲法の改正となると、いろいろ大変だ
よ。変えはじめるとキリがなくなることもある。それから中国とか東南アジ
アとか対外的な問題も出てくるしね」


「アメリカ憲法は改正をよくしてるね」


「改正というより修正だね。前に決めたことを消しちゃうんじゃない。一つ
は不備な点に気が付いたようなときに、それを書き加えていくんだ。それか
ら禁酒法みたいのは、いったん決めて(修正第十八条、一九一九年確定)、
やめようとなったら前の何条は廃止するという新しい条文ができる(修正第
二十一条、一九三三年確定)」


「すると、憲法条文として廃止されたものも残るんだね」


「そうさ、最初のアメリカ憲法は全文七条(一七八七年)からなる簡単なも
のだった。四年後に基本的人権、武器保有、言論の自由など修正十カ条が加
わって、いまの憲法の原形がととのった」


「その修正十カ条が権利の章典と言われているものだね」


「そう。いままでに修正条項は二十六ある。変え出すと変えたくなるよ」


「へたにいじらずに、解釈でいったほうがいい?」


「と、僕は思いますね。ただアメリカの憲法は世界ではじめて、そのような
憲法ができたので不備な点もあるし、解釈だけで足りない場合もあるけれど
も、日本の憲法はアメリカ憲法よりも百五十年以上もあとにできたもので、
他の国のいろいろな憲法を見て作ったものだから、ほとんど解釈ですむでし
ょ」


 それに日本の憲法はその前文に「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力を
あげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う」とうたっているように、
またその条文を掲げてあることを読んでも、一種の理想憲法なんですね。そ
ういう意味から言えば、第九条も理想なんですね(あくまで世界が理想的な
平和社会になったときですがね)。理想は変えない方がいい、と僕は思いま
すね。

以上、1988年4月発売 「ボクが見た日本国憲法」より抜粋

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ケント・ギルバートの「引用・転載・拡散禁止!」Vol.44  2016年3月6日
【今週の目次】
1、iRonnaへ寄稿:日韓慰安婦合意後の「朝日新聞へのアドバイス第2弾」
2、辛坊治郎さんが語った「放送法第4条」の制定経緯と放送現場の感想
3、面倒臭いけど『リテラ』の記事にいちいち反論してみる。
4、出演情報・イベント・出版予定など(5件中新着3件)
5、お便り紹介とQ&Aコーナー
6、プレゼントコーナー
7、編集後記


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