原題は『News is a VERB』by Pete Hamill 

アメリカでは1998年に発行されている。つまり、9.11の前だ。

日本では2002年に訳されているので、著者は新たに序文を寄せている。

 

さて、20年も前の本をどうして手に取ったかって、

きっかけはwebニュースで奥様であるアオキ・フミコさんの新刊が

出版されるという記事だったはず。

 

ピート・ハミル氏のお名前に何か聞き及びがあるとおもったら、

2001年より前に記事をよく見かけたからだ。

俳優のマーク・ハミル氏と苗字が一緒なので覚えていただけだろうが

海外記者の署名入り記事というのは、

当時、日本ではほとんどみかけず、憧れでもあった。

 

(訳をされている武田氏も後書で触れているが)

最近は署名入り記事も多くなってきたが、

20年以上前の日本の新聞、雑誌、TVニュースなど、

「報道」と呼ばれるものには署名入り記事は珍しかった。

 

放送局出身の英語講師は、海外発行の英字新聞と比較して、

署名の無い日本の報道は、どれだけ身内びいきなのかということを

裏話的に説明をしてくれた。

 

恐らく、そういう中で日本語訳されたハミル氏の記事は、

署名と彼のドヤっている

腕組みポーズの写真を私は記事と共に、脳に刷り込まれていたようだ。

 

今回、読んだのは「新聞ジャーナリズム」である。

怒られるのを承知で。

読んだ感想は「予言の書」であった。

 

いや、報道の末端にいたら全員わかっていたことだろう内容のはずだと思うが、

当事者としてここまでズバズバ、

それこそわかりづらい予言詩でごまかさず、言い放っているのが圧巻だ。

(もしかしたら、当時は誰も信じなかったのだろうか?)

 

 

アメリカでは2001年9月がキーワードかもしれないが、

日本における鍵をにぎる年は1995年のはずだ。

 

もう、ずっと前からすべては始まっているんだろう。

繋がっている。

だから歴史家や考古学者は過去を、地中を掘り返す。

 

さて、この本が素晴らしい、、、というよりは、

2020年代に生活をする者が予言の答え合わせができるからだ。

 

アメリカで新聞の編集長を勤めていたハミル氏の予言は、

移民問題、社会保障や市民の福利厚生予算の話題より、

アイドルの話題が紙面を割くこと、

トランプ氏について(『ザ・シンプソンズ』のようだわ!

統一教会がスポンサーである新聞「ワシントン・タイムズ」

(とある女性コメンテーターもポカをやったが、

間違いを引き起こすために意図されたのではないかと思われる新聞名)

なによりも、報道というビジネスについて、、、慈善事業でも公益でもないのだよ。

 

こんな内容が一気にまくしたてられている。

あれから20年以上たった。

我々は何も問題解決をしないまま今に至ってきた。

他者とは違って平穏な生活を送るため。

 

 

ちなみに、今回読んだのは武田徹氏の翻訳であり、

巻末には氏が丁寧に解説をしてくれている。

 

ここでもねぇ、イギリスの新聞の話になるがマクスウェルについて、

すこしだけ言及してくれている。

一昔前、マクスウェルといえば、イギリスの新聞王のことだった。

今、その名前は悪名高い事件の現場となった「エプスタイン島」の運営に荷担した

エレーヌ・マクスウェルであり、新聞王の末娘である。

いろいろな意味で、やれやれだ。

 

 

ピュリッツアー賞の由来となったピュリッツアーさんのことも

端的に説明をしてくれている。

そう、有名な賞ではあるが、賞の名前の人物に興味をもっていなかった。

ついこないだの特別賞を受賞したのは、

ガザにおける戦場ジャーナリスト達であった。

https://www.pulitzer.org/winners/journalists-and-media-workers-covering-war-gaza

 

「新聞ジャーナリズム」でも目次の前に、

「ベトナム、カンボジア、ラオスで

死んでいった すべてのジャーナリストたちの思い出とともに」とある。

 

映画『キリング・フィールド』を思い出した。

 

軍隊に都合の悪い記事を書くジャーナリストは戦闘にかこつけ、

一掃されてしまうこともある。

いまの兵器だとピンポイントの狙い撃ちもできるらしい。

 

それに従軍記者ではないフリージャーナリストの場合、

十分に武装された護衛もいないのかもしれない。

(従軍記者だって似たようなものか)

ペンは剣よりも強し。されど、GPS付ミサイルには? 

 

自身の不幸自慢と物価高が苦しいと言っている世界線の中で、

ため息をつくしかできない。情けない。

 

 

本の最後に、ハミル氏はおよそ20年前となるわけだが、

新聞業界の絶望的な中から、おとぎ話のような願いでしめくくっている。

 

活字で情報を手に入れるには、

スピードが求められる時代になってしまっているが、

それでは混乱をしたままであり、人は満足しないだろう。

その時、「新しい新聞」が出現してくれないだろうか。

どんな役割を担うことができるのか、本当に期待したい。

 

署名入り記事というのは大事だ。