大 法 院
第1部
判 決
事 件 2019ダ237302 特許権侵害禁止など請求の訴
原告、被上告人 回生会社 株式会社ソウォンパラスの管理人 訴外人の訴訟受継人
株式会社ソウォンパラス
訴訟代理人 法務法人(有限) ユルチョン
担当弁護士 イ ダウ外1名
被告、上告人 被告
訴訟代理人 法務法人(有限)ファウ
担当弁護士 グォン ドンジュ外1名
原審判決 特許法院2019.05.09.宣告2018ナ1701判決
判決宣告 2021.03.11.
主文
原審判決のうち被告の敗訴部分を破棄し、この部分事件を特許法院に差し戻す。
理由
上告理由を判断する。
1.イ.特許権侵害訴訟の相手が製造する製品又は使用する方法など(以下「侵害製品など」とする)が特許権を侵害するとするためには、特許発明の請求範囲に記載された各構成要素と、その構成要素間の有機的な結合関係が侵害製品などにそのまま含まれていなければならない。侵害製品などに特許発明の請求範囲に記載された構成のうち変更された部分がある場合にも、特許発明と課題解決の原理が同一であり、特許発明と実質的に同一の作用効果を示し、そのように変更することがその発明が属する技術分野において通常の知識を有する者の誰でも容易に考え出せる程度であるのなら、特別な事情がない限り、侵害製品などは特許発明の請求範囲に記載された構成と均等なものであって、依然として特許権を侵害するとみなすべきである。
ここで侵害製品などと特許発明の課題解決の原理が同一であるか否かを見分ける際には、請求範囲に記載された構成の一部を形式的に抽出するのではなく、明細書に記された発明の説明の記載と、出願当時の公知技術などとを参酌して先行技術と対比してみるとき、特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心が何であるかを実質的に探求して判断すべきである(大法院2019.01.31.宣告2017フ424判決、大法院2020.04.29.宣告2016フ2546判決などを参照)。
ロ.作用効果が実質的に同一であるかの可否は、先行技術において解決されていなかった技術課題であって特許発明が解決した課題を、侵害製品なども解決するかどうかを中心に判断すべきである。したがって、発明の説明の記載と、出願当時の公知技術などとを参酌して把握される特許発明に特有の解決手段が基づいている技術思想の核心が侵害製品などにおいても具現されているのであれば、作用効果が実質的に同一であるとみるのが原則である。しかし、前記のような技術思想の核心が特許発明の出願当時に既に公知であったり、それと同然のものに過ぎない場合には、このような技術思想の核心が特許発明に特有であるとみなせず、特許発明が先行技術において解決されなかった技術課題を解決したとも言えない。このようなときには、特許発明の技術思想の核心が侵害製品などにおいて具現されているかどうかをもって作用効果が実質的に同一であるかの可否を判断することができず、均等可否が問題となる構成要素の個別的な機能や役割などを比較して判断すべきである(大法院2019.01.31.宣告2018ダ267252判決、大法院2019.02.14.宣告2015フ2327判決など参照)。
2.前記法理と記録に鑑みる。
イ.この事件特許発明(特許番号は省略)は「調理容器用着脱式取っ手」という名称の発明であって、簡単な操作により各種調理容器に分離、結合が可能になるようにした取っ手に関する。
ロ.この事件特許発明の請求範囲第1項(以下「この事件第1項発明」とする)のうち「支持片が縦方向案内孔に挿入され、円弧型ホールに沿って回転しながら摺動板の前・後方移動を可能にする構成」(以下「差異点1」とする)、「上・下部部材及び摺動板を貫通して設けられたピン部材が上・下相対位置により摺動板の前・後方移動を制御し、第2弾性バネがピン部材の上・下遊動を弾性的に支持する構成」(以下、「差異点2」とする)を除いたこの事件第1項発明の他の構成は、第2被告実施製品に全て含まれている。
ハ.この事件特許発明の発明の説明にはこの事件第1項発明に関わって、「取っ手を片手で把持した状態でロータリー式作動部を親指のみを用いて操作できるので、操作性と使用上の利便性を向上することができる。また、摺動部の移動を制御するピン部材が取っ手の上面側に形成されており、取っ手が調理容器に結合した状態で、そのピン部材の上面がロータリー式回転部に形成された半球状の突出部により遮られることになるので、取っ手を調理容器に結合した状態で、使用者の不注意などによってピン部材を加圧することが全くなくなり、これにより従来に頻繁に発生していた安全事故を予防する」と記載されている。
ニ.しかし、前記のように発明の説明から把握される「ロータリー式作動部を操作して摺動板を前・後方に移動させる技術思想」と「上面に形成されたボタンを介して押さえ部材またはピン部材を上・下遊動させて摺動板の前・後方移動を制御し、ミスによるボタン加圧を防止する技術思想」は、この事件第1項発明の出願当時に公知の公開特許公報(日本国特許庁)(乙第11号証)、(公開番号1省略)公開実用新案公報(甲第30号証)、(公開番号2省略)公開実用新案公報(甲第31号証)などに示されている。
ホ.ならば、前記のような技術思想がこの事件第1項発明に特有であるとみなすことができず、この事件第1項発明が先行技術において解決されていなかった技術課題を解決したと言えないので、作用効果が実質的に同一であるかの可否は、前記の技術思想を具現するかを基準とすることはできず、差異点1,2の各対応構成要素の個別的な機能や役割などを比較して決定しなければならない。
ヘ.先ず、差異点2について見てみると、この事件第1項発明は「上・下部部材と摺動板を貫通して設けられたピン部材」によりロータリー式作動部を回転させるとしてもピン部材が解除されない限り、取っ手が調理容器から分離されない一方、第2被告実施製品は、係合片が摺動片から上部へ傾斜して折り曲げられて一体に形成されているため、取っ手を取り付ける際の反対方向にレバーを回転させるだけでもレバーと弧状牽引ロッドとで連結されている摺動片が前進し、係合片が上部部材の内面に形成されたストッパに係り合うことで取っ手と調理器具とが少々分離され、この状態でレバー中央に設けられたボタンを押して直接係合片を押すと、係合片がストッパから解除されて完全分離状態に至るという点で作用効果に差異がある。
また、この事件第1項発明のピン部材が別途の弾性部材である第2弾性バネにより支持されて上・下遊動する一方、第2被告実施製品の係合片はそれ自体が弾性を有するが、先行発明1に螺合によりロッキング板と一体化されて自己弾性力によって係合・解除動作を行う弾動係合片の構成が開示されているとしても、ピン部材を係合片に変更する場合、この事件第1項発明のボタンと摺動片の相対的な移動関係だけでなく、連結構成の配列関係を大幅に変更しなければならず、この事件第1項発明にはピン部材を係合片に変更する暗示と同期が提示されてもいない。このような点から、この事件第1項発明の「上・下部部材及び摺動板を貫通して設けられたピン部材と第2弾性バネ」の構成を第2被告実施製品の「係合片」に容易に変更できるとはみなし難い。
ト.したがって、第2被告実施製品はこの事件第1項発明の「上・下部部材と摺動板を貫通して設けられたピン部材及び第2弾性バネ」と均等な要素を含んでいないので、この事件第1項発明を侵害するとは言えない。
3.にもかかわらず、原審は、この事件第1項発明の「ピン部材及び第2弾性バネ」と第2被告実施製品の対応構成要素である「ボタン及び係合片」が互いに課題解決原理が同一で、作用効果また実質的に同一であり、そのような変更が通常の技術者であれば誰でも容易に考え出せる程度のものであって、互いに均等範囲内にあると判断した。
このような原審の判断には均等侵害成立に関する法理を誤解して判決に影響を及ぼした誤りがあり、これを指摘する被告の上告理由の主張は理由ある。
4.破棄の範囲について見る。
イ.記録によれば次のような事情が分かる。
(1)原告は、第1、2被告実施製品のこの事件第1項発明への侵害を原因として各製品別の損害額を特定せずに明示的な一部請求として500,000,000ウォンの支払いを求めており、第1審は第1被告実施製品の侵害のみを認め、特許法第128条第7項に基づき20,000,000ウォンの損害賠償額を引用した。
(2)原告のみが第1審判決のうち原告敗訴部分に対して控訴した。原審は第2被告実施製品のこの事件第1項発明への侵害を認め、第2被告実施製品に対する禁止・廃棄請求と、第1、2被告実施製品を区別せず、特許法第128条第4項に基づいて算定した損害額合計135,965,212ウォンのうち、第1審引用部分である20,000,000ウォンを除いた残りの115,965,212ウォン及びこれに対する遅延損害金を追加に引用し、原告のその他の控訴を棄却した。
(3)被告は原審判決のうち、被告敗訴部分に対して上告し、第2被告実施製品の侵害を認めた原審判断が不当であり、これを前提とした損害額の算定が間違っていると争っている。
(4)ところで、前記のような原審判決によれば、第2被告実施製品について原審が認めた損害額がいくらであるか分からず、その結果、被告が上告して争う部分また特定されない。
ロ.したがって、被告実施製品別に請求金額を明確に特定するようにした後、これに基づいて第1被告実施製品に対して損害額を新たに算定する必要があるので、原審判決のうち被告敗訴部分の全ての破棄が妥当である。
5.よって、他の上告理由に関する判断を省略したまま原審判決のうち被告敗訴部分を破棄し、この部分事件を再び審理・判断させるために原審法院に差し戻すこととし、関与大法官の一致した意見で主文のとおり判決する。
裁判長 大法官 キム ソンス
主 審 大法官 イ ギテック
大法官 パク ジョンファ
大法官 イ フング