. 特許法院2019年5月30日宣告 2018ホ8210判決の要旨

2020年12月に制定された韓国特許庁の「医薬分野審査実務ガイド」において「請求の範囲に有効成分の薬理のメカニズム(薬理の作用機序)が追加に記載された場合、これを立した構成と認めず、明細書からそのような薬理のメカニズムによって現れる有成分の薬効が何であるかを把握して医薬の用途を解する」と述べている。

同様の趣旨で韓国大法院2014年5月16日宣告2012フ238及び2012フ3664判決において「医薬用途明の特許請求の範に記載されている薬理のメカニズムは、特定物質が有している医薬用途を特定する限度でのみ明の構成要素として意味を有するだけで、理のメカニズムそのものが特許請求の範を限定する構成要素であるとみなしてはならない」と判示している。以後、韓国特許法院2019年2月1日宣告2018ホ2335判決においても前述の判決と同様の趣旨で判示している。

ところで、これらの判決は、「薬理のメカニズムそのものが特許請求の範囲を限定する構成要素であるとみなしてはならない」に焦点を合わせているだけで、「医薬用途明の特許請求の範に記載されている薬理のメカニズムは、特定物質が有している医薬用途を特定する限度でのみ明の構成要素として意味」については具体的に言及していない。

一方、特許法院2019年5月30日宣告2018ホ8210判決(以下、「この判決」とする)においてこれについて具体的に判示している。この判決の対象となる韓国特許出願第10-2017-0010370号の請求項1は次のとおりである。

 

【請求項1】

六酸化四ヒ素(As4O6)を含むヒト上皮成長因子受容体−2(human epidermal growth factor receptor-2、HER-2)により媒介される乳がん転移抑制用医薬組成物。

 

この判決は、請求項1において「HER-2により媒介される」部分が、乳がんを修飾及び限定するので「特定の乳がんに対する転移抑制用」の意味に理解して薬理のメカニズムに該当しないか、それとも「転移」を修飾及び限定して「六酸化四ヒ素が乳がんの転移要因のうちHER-2受容体により媒介される転移を抑制する」という六酸化四ヒ素の薬理のメカニズムとして解釈すべきかについて判示している。

この判決は、「HER-2により媒介される」部分を「乳がんのHER-2のリン酸化によって進行される移抑制の用途」と解すると、これは六酸化四ヒ素がもたらす治療果や用途を記述したものであって理のメカニズムに該当しないと判示した。

また、この判決は、たとえ理のメカニズムであると解しても、特定物質が有してい医薬用途を請求の範を特定する限度明の構成要素として意味」を有すると判示した。

 

 

. この判決の解

この判決において「HER-2により媒介される」部分は、薬理のメカニズムに該当しないため発明の構成要素に該当するが、たとえ薬理のメカニズムであると解しても、特定物質が有している医薬用途を請求の範を特定する限度明の構成要素として意味」があると判示している。

結論的に、特許請求の範囲に薬理のメカニズムが記載された場合、新規性及び進歩性を判断する際に薬理のメカニズムも「特定物質が有している医薬用途を請求の範囲を特定する限度内で発明の構成要素として意味」があるので、先行明が薬理のメカニズムを公開しない場合、または先行明において公開した薬理のメカニズムから業者が容易に薬理のメカニズムに類推し難い場合、新規性及び進性があると判断すべきである。

 

 

. 特許請求の範の作成方法

特許請求の範囲の作成方法に関しまして、薬理のメカニズムが特定疾患と連性が高いのであれば、特定疾患の治療ではなく、薬理のメカニズムそのものを請求項の用途を表現して医薬用途明として特許出願することも好ましい

例えば、この薬物の薬理のメカニズムがヒスタミン作用を抑制してアレルギーを治療するものであれば、特許請求の範囲の発明の名称を「アレルギーの治療剤」の代わりに「抗ヒスタイン剤」として特許出願することが考えられる。

他方の例として、ある薬物が血管新生(angiogenesis)を抑制する薬理のメカニズムでがんを治療するものであれば、特許請求の範囲の発明の名称を「がんの治療剤」の代わりに「血管新生抑制剤」にして特許出願することも可能である。

 

特許法人元全(WONJON)